第55話 戦いのあと

 ママルさんに勝った。

 真経穴を解除し、立ち上がれるようにしてあげる。


 負けたというのに、ママルさんはヤケに嬉しそうだった。


「思った通り、強いねえ。はじめて負けちゃった」


「でも、複雑な気分です」


「なんでえ?」


「だってーー」


「ムウさまーーーーっ!!!!」


 俺の言葉を遮るように、リナリオンが抱きついてきた。

 ドラゴリオンさんやマーレ、キューネも集まってくる。


「カッコよかったですムウ様♡ さすが私の旦那様♡」


「違うって」


 マーレが俺の腕を握る。


「できるようになったんですね!! あの技!!」


「あぁ、はじめての成功」


 ドラゴリオンさんも俺を褒めてくれた。

 称賛してくれた。


 けど、キューネだけは何も言ってくれなかった。

 一応、笑顔だったけどさ。


 遅れてナナルがやってくる。


「し、信じられない。最強のお姉ちゃんが……」


「ママルさんは最強だよ。今回の勝負、正直、引き分け判定でも良いと思ってる」


「どういうこと?」


「だってママルさん、本気じゃなかったでしょ?」


 ママルさんが驚いたように目を見開いた。


「根拠は?」


「ずっと挙動がおかしかったですし。ナイフを使えばもっと早く俺を倒せたのにしなかった。というか、掴むという行為から避けていた気がします」


「……ふふ、ふふふ」


 ナナルが問い詰める。


「お姉ちゃん、どういうこと?」


「んー、実は前々から、手足に痺れがあるのだー!!」


「な、なんで……」


「たぶん、スキルの使いすぎ。スキルとは人体に魔硝石を取り込み、手に入れる力。私は魔硝石を三つも入れた。体は受け入れてくれたけど、無理させてたみたい」


 ママルさんの瞳が俺を捉える。


「私はもうすぐ戦えなくなる。だから私の代わりにナナルちゃんには強くなってもらって、家とチギトを守ってほしいの。そしてムウちゃんは」


「ナナルを強くするための当て馬」


「はは、言い方は悪いけどねー」


 そうか、だからママルさんは俺を試したかったのか。

 ふざけるな。あんたにはまだ現役でいてもらう。

 全力のあんたに勝たなきゃ意味がない。


「真経穴で体を治します」


「んー、それは勘弁願いたいかな」


「なんで?」


「どうせ同じことの繰り返しだから」


 治しても、スキルを発動し続ければまた肉体に負荷がかかる。

 その度に俺に頼りたくはないのだろう。


「この勝負、俺は勝ったと思っていません」


「勝ったよ。ムウちゃんは、強かった」


「……」


「勝ちは勝ち。でしょ?」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 マーレと共に家に帰ると、叔父さんが研究室から出てきた。


「ん、遅かったな」


「悪かったね」


「マーレ、悪いが夕食の準備を頼む。俺はしばらく研究室にこもっているから、持ってきてくれ」


「あ、はい!!」


 そういえば、叔父さんに伝えておかないと。


「できたよ」


「なにが」


霧糸幻拳むしげんけん


「……そうか」


 反応薄いな。



 それから適当にご飯を食べて、俺は自室のベッドで横になった。


 ママルさんに勝った。

 なら、俺はこれからなにをすればいいんだろう。


 あのあとママルさんには、マスターギルド入団の資格があると言われたけれど。


「マスターギルドか」


 入団すれば、たまにしか地元に帰れなくなるらしい。

 俺の地元。

 ずっと住んできた、サマチア。


「ムウさま」


 マーレが部屋に入ってきた。


「キューネさんが呼んでます」


「キューネが?」

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