最終話 旅立ち

 家を出ると、本当にキューネがいた。

 夜の暗闇に包まれているのに、不思議と光って見えた。


「どうしたの?」


「ごめん、眠いよね」


「そんなに」


「ちょっと、話したいなって」






 とりあえず、一本杉のある丘まで歩くことにした。

 数時間前までママルさんと戦っていた場所だ。

 でも他に落ち着ける場所なんてないし、どっちかの家は……なんだか気恥ずかしい。


 杉に腰を下ろして、改めて問う。


「なにかあった?」


「ハッキリさせときたいなって」


「なにを?」


 一瞬、間が空いた。

 視線を逸らしながら、キューネが言葉を発する。


「ムウ、やっぱりマスターギルドに入るの?」


「どうだろう」


「決めてないの?」


「興味はある。けど、そしたらたまにしかキューネたちに会えなくなるよ」


「……」


 驚いたように、キューネはポカンと口を開けた。


「寂しいとか、思うんだ」


 確かに、キューネが驚くのも無理はない。

 少し前の俺だったらどうでもよかった。


 なんでもよかったし、興味もなかった。


 だけど最近、少しずつだけど、いろんなことに関心を持つようになってきた、気がする。


「ママルさんにはマスターギルドに入れって言われてるけど……正式にサマチアのギルドに入るのも悪くない気がしてる」


「マスターギルドに興味あるんでしょ?」


「うん。どんなやつがいて、どんなクエストをこなすのか、知りたい。でも、なんか、なんだろう」


 俺の知らないところでみんながワイワイしているの、少し嫌。


「サマチアにいても、ムウはもう強くなれないよ。いつか誰かに抜かされる」


「そうかな」


「ナナルが言ってたよ。私がお姉ちゃんの仇を取るんだーって」


「いつの間に仲良くなったの」


「仲良くなったわけじゃないけど……」


 さっきから、違和感を覚える。

 キューネの放つ言葉のひとつひとつに、距離を感じる。


「マスターギルドに入ってほしいの?」


「入ってほしくない。って思ってた。本当のことを言うとね、ママルさんに負けてほしかった」


 キューネが俺の手を握った。

 男なのに、彼女と同じくらいの大きさである手が、不思議と恥ずかしく感じる。


「でも戦ってるとこを見てて思ったの。ムウは、もっともっと凄い人になる。なれる能力があるんだって」


「……そうかな」


「うん。ムウは変わった。もう、片田舎のギルドに収まる器じゃない」


「……」


「みんなが言うような、『つまんないやつ』なんかじゃない」


 キューネの口角が微かに上がる。


「私は私なりにサマチアで頑張るよ。だからムウも、チャンスがあるなら飛び込んでほしい。私はいつでもサマチアにいるから」


 無性に、本能的に、キューネと唇を重ねた。

 キューネが、ギルドに入る面接に俺を同行させなかったら、いまの俺はいなかった。

 すべてはあの日からはじまったんだ。


 キューネはいつも、俺を導いてくれる。



 おかげで決心がついた。

 行こう、マスターギルドに。


 俺には夢がある。

 野望がある。

 情熱がある。


 世界で一番、強くなりたい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

スキルなし、人間性なしのつまんねーやつによるギルド改革 ーー相手が誰だろうがツボを押して無双しますーー いくかいおう @ikuiku-kaiou

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ