第28話 父と娘
ドラゴリオン、キューネ、マーレが並ぶ。
決闘ながら、今回は3対1。
相手はルナクだけだ。
こっちは、極端な話スキルが3つあるのと同じ。
ルナクが、ナナルのように複数のスキルを所持していない限り、勝つのは難しいはずだ。
ルナクが告げる。
「では、はじめてどうぞ」
まずはマーレがスキルを発動した。
透明になり、完全に消える。
続けて、
「スキル発動!! 強化魔法!!」
「スキル発動!! 氷魔法!!」
キューネのスキルによって、ドラゴリオンにバフが掛かる。
これで強化された氷魔法を放つわけか。
透明化したマーレが死角から攻撃すれば、足止めされ、確実に魔法が直撃するはず。
ドラゴリオンの前に魔法陣が浮かんだ。
そのとき、
「サマチアのリーダーさん、よく覚えておくと良い。勝負とは、はじまる前に決着をつけておくものだと」
「?」
「スキル……再始動……」
その言葉の直後、ドラゴリオンが吹っ飛んだ。
違う、突き飛ばされたんだ。
おそらく、透明化したマーレに。
続けて、キューネが自分自身を強化して、ドラゴリオンを襲う。
「なっ!?」
キューネの拳がドラゴリオンの腹を抉った。
「ぐおっ!!」
なんだ、どうなってる。
マーレが、姿を現した。
彼女も、キューネも、どうしちゃったんだ。
ドラゴリオンも事態が飲み込めず、困惑している。
「ふ、ふたりとも、な、なんで……」
「くくく、見限ったんじゃないのかなあ? 君があまりにも弱くて情けないリーダーだから」
「そ、そんな……」
わけがないだろう。
ふたりとも、仲間を裏切るような性格じゃない。
「彼女たちは今日から、僕の従順な部下になったわけです。ムウもスキルメンバーじゃないそうですしぃ? くくく、独りぼっちになっちゃいましたねえ、サマチアのリーダーさん」
「あ、ありえない……。マーレ、キューネさん!! いったいどうしたんだ!!」
ふたりとも答えない。
明らかに、様子が変だ。
リナリオンが父を嘲笑う。
「自業自得でしょ」
「リナ?」
「身の丈に合わないことしてるから、裏切られたんだよ。娘にも、仲間にも裏切られて、本当になっさけないねえ!!」
「リナ、僕は……」
「ようやくママの気持ちがわかった? いっつも独りにして、どれだけママが悲しんだことか。ママだけじゃない、私だって……。だから家族より大事なギルドを、奪ってやったのよ!! くすくす、負け犬!! ざ〜こ!! 底辺男ォ!!」
恨みを吐き出すように、リナリオンが罵倒する。
「家族より大事なものなんかない!! 僕はいつだって、リナを想っていたんだ!!」
「どの口が言ってんのよ。父親らしいことなんかしたことないじゃん」
「そ、そんなの、あるはずだ」
「今年の誕生日、いなかったくせに」
親子喧嘩の横で、ルナクが邪悪な笑みを浮かべていた。
まるで親子喧嘩を楽しんでいるかのように。
知っていたんだ、こいつは。
2人の関係を。
その上で利用している。
見てられないな。
「おいリナリオン。たった一回誕生日を祝ってもらわなかったくらいで、いじけるなよ」
「いっかいぃ? きゃはは!! あんたもとんだ勘違い野郎だねえ!! 今年だけじゃない。去年も、一昨年も、3年前も、4年前も、5年前も、6年前も、7年前も、8年前も9年前も私が産まれたときも!! あんたは家にいなかった!! しょうもないギルドの仕事を優先していたんだ!! ママとの結婚記念日だって覚えていないくせに!!」
「……」
「そのくせ金も稼げなくて、ギルドじゃうだつの上がらない窓際職、最低」
「リナ……」
「パパ、いいやドラゴリオン。あんたにもキューネやマーレと同じようにルナク様の『針』が刺してある!! あんたもルナク様の奴隷になるんだよ!! はははは!!!! 娘を奪った男の下僕になるなんて、どんな気持ちぃ? この、クズ野郎!!」
ドラゴリオンが絶望に跪く。
リナリオンもまた、すべてを吐き出して膝から崩れ落ちた。
その瞳から流れ落ちる雫は、これまで募らせてきた父への怒りと憎しみが込められているのだろう。
「リナ……ごめん……」
ルナクがパチパチと拍手をする。
「くくく、よく謝れましたねえ、リーダーさん」
「……」
「実に愉快ですねえ。僕はね、大好きなんですよ、愛し合う者たちが罵り合う様が。くく、くはははは!!!!」
「うぅ……」
「では」
続けてパチンと、指を鳴らした。
「あなたも僕の下僕になりなさい」
ドラゴリオンの瞳から、光が消える。
「立て」
言われるがままに、立ち上がる。
「さてムウくん、最後は君だ。本当なら君にも刺してあるんだよ、僕の針が」
「そういう、スキル」
「はい、操作魔法のスキル。かなりのレアスキルです。発動時に出現する『針』に刺された生き物は、みーんな僕の奴隷と化す。もちろん、君にも刺してある。リナが刺してくれました。しかし不思議ですねえ、何故か君は操れないみたいですが」
この体は下手な状態異常なら弾き飛ばす。
移植されたオーガの血肉が拒むから。
「まあいいでしょう、どうせあなたのことも『絶望によってぐちゃぐちゃになるおもちゃ』にするつもりでしたし」
「……わからないな」
「なにが、かな?」
「ここに来た瞬間に奴隷化させればよかったのに、ギリギリまで勿体ぶりやがって」
「いきなり使ったら面白くないでしょう? いまみたいに、人生のどん底に叩き落としてから操らないと」
だから、わざわざあんな茶番を繰り広げさせたのか。
「どうしますかムウくん。僕に勝てば3人を返してあげましょう。おっと、忠告しておきますが、彼らは僕の『道具』なので、もちろん『使い』ますよ」
道具? 使うだと?
物扱いかよ。
耳障りだ。
変だな、体が熱い。というか、頭が熱い。
自然と全身に力が入る。
イライラする。
「そんな便利なスキルがあるのに、回りくどいやつ。自分と戦わなくたって、マスターギルドとやらに入れるだろうに」
「手っ取り早く、なおかつ楽しんで出世したいんですよ、僕は。くくく、僕は人形遊びが大好きでねえ。……おいドラゴリオン、そこのチビを殴りなさい」
ドラゴリオンが問答無用でマーレを殴る。
マーレは特に反応せず、何事もなかったかのように立ち上がった。
こいつ、とことん遊んでやがる。
リナリオンの家庭環境も、このギルドも。
なんでもかんでも利用して、おもちゃにして、娯楽してやがる。
徹底的なクズ。
「おやおや、だんまりですか? あぁ、勝手に勝利宣言していいんでしたっけ? 腰抜けのつまらない人間ですねえ」
「待てよ」
「はい?」
許さない。
てめえみたいなゴミクズが、いつまでも調子に乗るな。
産まれてきたことを後悔させてやる。
リナリオンのことは、そのあとだ。
まずは、まずは!!
「かかってきなよ」
「ほう、やる気になりましたか」
「あぁ、遊んでやるよ、虫けら」
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※あとがき
悪いやつですね。
でもこいつのスキル、欲しいですね。
なんつって。
応援よろしくお願いします。
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