第20話 ほのぼの日常回③ 幸せマーレ
※三人称です
これはとある日のできごと。
夕暮れ時になり、自室でダラダラしていたムウがダイニングにやってきた。
テーブルにはすでに、マーレが用意した夜食が並べられている。
今夜はシチューであった。
「あれ、叔父さんは?」
「同じ村のモワというおばあちゃんの容態が危ないそうで、今夜は泊まりがけで看病するそうです」
「あー、あのおばあちゃんも結構な歳だったからなあ。……いただきます」
テーブルにつき、2人でシチューをいただく。
たいして会話もないが、それでもマーレにとっては幸せであった。
自分に自由と勇気をくれた恩人と、同じご飯と食べられるのだから。
とはいえ、ムウに恋愛感情は抱いていない。
というより、抱かないようにしている。
ムウの性別が男であれ女であれ、おそらくキューネと相当強い絆で結ばれている。
自分如きが間に入れるはずがないと、無意識に諦めているのだ。
「そういえば、ムウさん」
「んー?」
「前にベゲリンから聞いたんですけど」
マーレの前の主人である。
「サマチアと周辺の村々では、遺体を火葬する際に手足に重しをつけるらしいですね」
「あぁ、この辺の風習だよ。あの世から這い上がって来ないように……だったかな? 廃れつつあるけどね」
「なんでも、重しをつけないと、死者があの世にいけず、重石の代わりに人に抱きついてあの世に引きずりこむとか……」
「……」
「私の故郷にもあるんですよ、そういうの。夜遅くに火を灯すと、悪霊が集まってきてーー」
「やめて」
「はい?」
「やめよ、そういう話」
そのとき、マーレに電流走る。
脳裏をよぎる可能性。
疑問というには余りにも確信があった。
確かめたい。
しかし、聞いたら怒られるだろうか。
不躾な質問だ。怒鳴られたり、嫌われたり、殴られたりしないだろうか。
マーレは地金がネガティブなので、そっと胸の奥にしまっておくことにーー。
「ムウさんってまさか、怖いの苦手なんですか?」
ネガティブよりも好奇心が上回っちゃう女の子であった。
「別に。苦手じゃないよ。嫌いなだけ」
「と言いますと?」
「ほら、その手の怪談話って過剰に恐怖心を煽ってくるでしょ? オチで大声出したりさ。そういう、驚かせようとしてくる感じが、嫌いなだけ」
「……おばけ怖いんですか?」
「怖くはない」
「呪いのシチューって知ってます?」
「おい!!」
「ひぇ、ごめんなさい」
まさか、あのムウに怖いものがあるだなんて、マーレには意外であった。
恐ろしいモンスターすら軽く倒してしまう人間なのに。
しかし、よくよく考えてみれば納得である。
「おばけにはないですもんね、真経穴」
「くっ……」
------------------------------
夜食を終え、食器を片したあと、マーレは自分の部屋に戻った。
もともと押入れだった空間で、部屋というには狭いが、寝るだけなら問題ない。
明日はギルドの打ち合わせがある。早めに寝ようと布団に入ると、
「マーレ」
部屋の外からムウの声がした。
「なんですか?」
そーっと、ムウが扉を開ける。
「いつも狭い部屋で寝てたら、体に悪いでしょ」
「へ? 大丈夫です、私小柄なので」
「いやいや、体に悪いよ」
「はぁ……」
「一緒に寝よっか」
「ムウさんの部屋でですか?」
「うん」
「……」
「なに」
「もしかして、おばけのこと考えて眠れなくーー」
「違うよ、マーレの体を考えてだよ」
「……」
「マーレの体を考えてだよ」
「……」
「マーレのーー」
てなわけで、マーレはムウの部屋で眠ることになった。
大きめのベッドに、2人して横になる。
なんだか無性にドキドキする。
いやいや、恋愛感情なんて抱いてはいけない。
ムウにはキューネがいるのだから。
「マーレ」
「はい?」
「体くっつけて寝よっか」
「ふふふ、はい」
こんなにムウに甘えられたのは初めてであった。
いつもは頼りになるムウが、今夜だけは幼子のように可愛い。
ごめんなさいキューネさん。
と心の中で謝罪をしながら、マーレは幸せなひとときを感じつつ眠りについた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
※あとがき
次回から新章です。
これまでより不愉快な敵が登場する予定です。
応援よろしくお願いします!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます