ムウの怒り編
第21話 ランドの現在、新たな2つの影
※今回も三人称です。
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サマチアは4つの村に囲まれている。
ムウやキューネの地元であるワンの村が街の西側にあり、北がツーの村、南がフォーの村である。
そして東にあるのが、スリの村。
村々と街の距離は一定ではなく、スリの村は4つのなかでとくに離れている。
そのスリの村の外れに、ボロボロの小屋があった。
そこに中年の女性が入る。小屋のなかで、一人の男が横になっていた。
手足はない。
動かなくなり、そのせいで壊死して、切断されたのだ。
青い髪の男は糞尿を垂れ流しながら、虚ろな瞳でどこか遠くを眺めていた。
女が泣く。
「う、うぅ……ランド、ランドォ……」
女はランドの母であった。
医者に見放され、慕っていた部下からも捨てられた彼を、懸命に支えているのだ。
なぜ愛しの我が子がこうなったのか、理由は聞いた。
されど、復讐する力は、彼女にはない。
誰かが入ってきた。
メガネをかけた、同じく青い髪の男性。
「サ、サンド!!」
サンドは軽蔑の眼差しで、母とランドを交互に見やった。
「落ちぶれたものだ」
「なにを言うの!! 可愛い弟でしょうに!!」
「井の中の蛙に甘んじている出来損ないに興味はない。ここに立ち寄ったのは、まあせめてもの義理。いわばついで」
「ふ、復讐をしてくれるんじゃないの!?」
「私がサマチアに戻ったのは、『ギルド管理委員会』の仕事として。それ以上でもそれ以下でもない」
「そ、そんな……」
「だいたい、私や妹を捨てたあなたに協力するとでも?」
「そ、それは……」
淡々と、サンドが続ける。
「しかしまあ、どのみち現在のサマチアギルドは調査対象だ。結果次第では解散、懲罰もあり得る」
「そんなもの!! そんなものでは足りぬ!! 私の、私のランドをこんなにした罪は……」
「相変わらず、義父にそっくりなランドが大好きなようで」
サンドがゆっくりとランドに近づく。
ランドの虚ろな瞳に、父違いの兄の顔が写った。
「こうなっては生きていても仕方ないだろう」
「……」
「ようやく、私の役に立つときが来たな」
瞬間、サンドの手刀がランドの胸を貫いた。
母が絶叫する。
「ああああああ!!!! な、なにをするの!!!!」
「こいつのスキルをいただく」
ランドが鬼気迫る表情で血を吐いた。
声にならない声を上げ、痛みと絶望に涙を流す。
彼はまだ、こうなってもまだ、生きていたかったのだ。
「愚かな弟よ、私の中で生き続けるが良い」
サンドが小屋から去る。
待たせていた馬車に乗り込む。
ギルド管理委員会。
世界中のギルドを統括し、指導する上位団体である。
サンドは調査員であった。
彼のお眼鏡に叶わなければ、ギルドはいともたやすく滅ぶのだ。
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同じ頃、チギトの街にて。
一部のお金持ちだけが入店を許可されるレストランに、ナナルと4人のギルド幹部の乙女たちが集まっていた。
同じテーブルを囲み、優雅にステーキを食している。
ここでナナルたちはクエストの反省会や、今後の方針について語り合うのだ。
サマチアギルドでいう、酒場である。
「ナナル様、今日も素敵でしたわ」
「バジリスクを倒したくらいで騒ぎすぎ。あの程度で喜んでいるようじゃ、ムウには追いつけないから」
「い、いつかリベンジなされるんですよね?」
「当たり前でしょ!!」
ナナルの美しい顔が怒りで歪む。
「私は諦めない。次こそはムウに勝って、お姉ちゃんに認めてもらうんだから」
ウェイターが近づいてきた。
「ナナル様にお会いしたい方がいらしてます」
「私に? 誰?」
タキシード姿の男がやってきた。
美麗な顔つきに白い髪。まるで王子のような出で立ちに、チギトギルドの幹部たちの目が奪われる。
「やあ、ナナルさん」
ナナルが嫌そうに顔をしかめた。
「ルナク……」
「相変わらず、僕のことが嫌いなようで」
「イカラビのギルドリーダーが、何のよう?」
「負けたそうですねえ、サマチアの、スキルすら持たない子供に」
「……」
「くくく、話は本当のようだ」
「わざわざバカにしにきたのかしら」
「いいえ。この僕が仇討ちをしてやろうと思いまして」
「はあ?」
「マスターギルドのメンバー候補筆頭のナナルさんに勝った相手……。僕が勝てば、一気に注目度が上がるでしょう。マスターギルド入りに、一歩近づく。そうじゃなくても、サマチアのギルドを乗っ取ることができれば、莫大な利益となる。……あの編は、レアな魔石が採れるダンジョンが多いですから」
「ふん、浅はか」
ルナクが目を細める。
「浅はか……ですか」
「あなた如きに負けるもんですか、あいつが」
「くくく、手強い相手なのは承知の上。僕は、僕なりのやり方で勝たせていただきますよ」
「どうせロクでもない作戦が頼りなくせに」
「おやおや失礼ですねえ。僕はただ、『人形劇』が大好きなだけですよ。おもちゃはめちゃくちゃに壊してこそ価値がある」
「品性下劣」
「くく、否定はしません。……では」
去っていくルナクの背中を見つめながら、ナナルはムウの顔を思い浮かべた。
ルナクのスキルは知っている。凶悪なスキルだ。
もしかしたら、ムウは負けてしまうかもしれない。
そんな不安が、胸を満たした。
ぐっと唇を噛み締めたあと、小さく呟く。
「あんなのに負けるんじゃないわよムウ。あんたを倒すのは、私なんだから」
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※あとがき
新章です。
ランドを仲間にしようかと考えていた時期もありました。
お、応援よろしくお願いします!!
どうかこの通り!!
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