第24話 リナリオンの闇
朝であっても、日が登りきっていないので森の中はまだ暗い。
松明で暗闇を照らしながら、キューネと、謎の少女リナリオンと獣道を進む。
なにやら不機嫌なキューネをよそに、リナリオンはルンルン気分でステップを踏んでいた。
「楽しみだなあ、ムウ様の戦いを直に見れるなんて」
「戦わないよ」
「へ?」
「今日は薬草を採集するだけだから。モンスターが少ないルートを通るし」
「またまたあ」
「嘘ついてどうするのさ」
「……ちっ、つかえねーな」
「なんか言った?」
「なーんにも言ってないですぅ♡ ムウ様大好き♡♡」
抱きついてくるリナリオンを、キューネが引き離す。
「やめなさいよ、ムウ困ってるんだから」
「はあ? なに? まだいたの?」
「このっ……。だ、だいたい、親なんかどうでもいいって言ってたけどね、お父さんやお母さんを悲しませるようなことしちゃいけないんだからね!!」
「関係ないじゃん、あんたには。てか、ウチの家庭終わってるし」
「終わってる?」
「……別にいいでしょ。うるさいなあ」
家出少女なのだろうか。
そもそも、家はどこにあるのだろう。
知らない顔だから、たぶんワンの村じゃないだろうし。
あんまり遠いようなら送ってやるべきかな?
「あ!! ムウ様あそこ見てください!!」
「ん? なにもないけど」
「きゃー!! 後ろからゴブリンの群れが!!」
振り返ってみると、先ほどまで気配すらなかった5匹のゴブリンたちが、そこにいた。
いつ近づいてきたんだ?
「た、助けてくださいムウさま〜♡」
「しょうがないなあ。キューネ」
斧を構えたキューネと共に、ゴブリンを狩る。
ゴブリンにある真経穴の位置は人間と似ているので、さして苦労はしない。
あっという間に全滅できた。
「ふぅ」
「なるほど……それが真経穴なんですねえ」
「……まさか、君のスキルで呼び出した?」
以前、ランドの部下がスキルでオークを召喚した。
そうでもしない限り、モンスターが気配を悟られずに至近距離まで接近するなんて不可能だ。
「へえ? なんのことですかあ?」
「そこまでして、なんで戦ってるところが見たいわけ?」
「言ってる意味がわかりませーん」
さっきからずーっとイライラしていたキューネが、ついに痺れを切らした。
「あなたね!! もっと言葉遣いに気をつけなさいよ!! なにを企んでいるわけ?」
「気をつけていますけどぉ? てかさー、あんたさー、あーんなザコゴブリン相手に手こずってなかった? くくく、ざ〜こ♡ よわよわ脳筋女♡♡」
「ぐぬぬ〜、もう我慢ならない!! 親に直接注意してやる!!」
「親親親親って、わたしはもう自立してんの!! あんな、なっさけないお父さんなんか、お父さんじゃないし!!」
「お父さん?」
「あっ……。ちっ、もう帰る!! スキル発動!!」
突如魔法陣が浮かび上がり、巨大鳥コカトリスが召喚された。
やはり、あのゴブリンもこの子が召喚したのか。
リナリオンがコカトリスの背に乗る。
「たーっぷり、見せてもらいましたよムウ様♡ けっ、いずれ後悔するだろうよ!!」
捨て台詞を残し、リナリオンは飛び去っていった。
「な、なんなのよあの子……」
「さあ? けどちょっと面倒くさいかもね」
「なにが?」
「いずれ戦いを仕掛けてくるわけでしょ? こっちの戦法を研究してさ」
「う、うん」
あの子の家さえわかれば、親に注意してもらえるんだけど。
あぁ、家族仲悪いんだっけか。
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※ここから三人称でござんす。
リナリオンはサマチアの街に住んでいる。
一軒家の、普通の家だ。
下を向いたまま玄関扉を開ける。
チラッと視線を上げれば、やつれた母が立っていた。
「リナ!! どこ行ってたの」
「ちょっと遊びに」
「もー、心配したのよ」
「ごめんね、ママ」
続けて、奥から父親が現れた。
真面目そうな七三分けの、メガネの男。
ドラゴリオンだった。
リナリオンが再度視線を落とす。
「こらリナ!! 最近、無断で外出しすぎじゃないか? しかも夜遅くに……」
ムウに会うため、リナリオンは深夜に家を出ていた。
「……」
「なんとか言いなさい」
「うるさい!! いっつも家にいないのは誰の方だよ!!」
「リナ……」
「なーにがギルドのリーダーになっただよ。仕事ばっかなくせに薄給で、マジで情けない。ほんと最悪」
「ぼ、僕は……」
「ママがいるから家出しないだけで、ママがいなけりゃ、速攻で出ていくんだから!!」
目も合わせず怒鳴り散らし、リナリオンは自室に入っていった。
残されたドラゴリオンと妻が、悲しそうに顔を合わせる。
ドラゴリオンの家庭は、不安定だった。
ランド時代、ドラゴリオンは散々こき使われ、外泊することも少なくなかった。
おまけにギルドの立場上、誰からも尊敬されない。むしろ、『使いっ走りメガネ』なんてバカにされているくらいだ。
なんでそこまでしてギルドにいる必要があるのか。
もっとマトモな職に就けば良いじゃないか。
理解できない。納得できない。
リナリオンは、そんな父親が大嫌いだった。
夜、リナリオンはまたこっそり外出した。
近くの公園で、白髪の男と合流する。
「ルナクさま!!」
「やあリナ」
ルナク、先日ナナルを煽った、都市イカラビのギルドリーダーである。
「お待たせしました!!」
リナリオンの目が輝く。
大人っぽくて、紳士的で、知的で、強くて、リーダーシップがあって、かっこいい。
理想の男性。理想の、父親像だから。
「会えたかな? ムウとやらには」
「はい!! 仲間もろとも、アレを『刺して』おきました!!」
「さすがだリナ。残り2人も頼むよ」
「一人は同じ家にいますし、大丈夫です」
「くく、驚くだろうね、実の娘に裏切られるなんて」
「裏切る? 別に父親とも思ってないですから。それに……」
リナリオンの瞳に闇が宿った。
「先に裏切ったのは向こうです」
「くくく、くくくく、サマチアのギルドも、これで終わりだ。サマチアを支配し、ムウも撃破して、やがてマスターギルドに入る。くくく、くはははは!!!!」
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※あとがき
お腹痛いのを我慢しながら書きました。
応援よろしくお願いします。
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