第23話 ダンジョン行ったり薬草採ったり

「行くわよ!! マーレ!! ドラゴリオンさん!!」


 とある地下ダンジョンで、ミイラモンスターの群れを前にキューネが高らかと叫んだ。

 透明化に氷系魔法、それとバフ系魔法を組み合わせれば、苦戦するような相手ではない。


 案の定、キューネたちは見事ミイラたちを撃退した。


「よーし、この調子でガンガン行きましょう!!」


 絶好調だな、キューネめ。


 今回、彼女たちはAランクの依頼を受けて湖の側にある地下ダンジョンへ潜っていた。

 このダンジョンの奥で、スキル取得に必要な魔晶石が採掘できるのだ。

 刈り取っても、ダンジョンに漂う瘴気のおかげで来年にはまた再生する。

 つまり、一年に一度の大仕事なわけだ。


 ちなみに、自分は付き添いで参加している。

 暇だし。別にいいけど。


 さらにちなみにだが、ダンジョンの瘴気はモンスターから発生されるので、全滅させることは禁止されている。


「でたわねゾンビワーム!! みんな!! フォーメーションオメガよ!!」


 それからモンスターやらトラップを潜り抜け、終点までたどり着いた。

 軽く土壁を掘れば、すぐに白く煌めく魔晶石が姿を見せた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ふふふ、やっぱり報酬も凄いわねえ」


 仕事を終え、サマチアギルドの面子は酒場で報酬を分け合った。


「ムウさんはいらないんですか?」


「いらないよ。お金があっても使う機会ないし」


「欲しい物とかないんですか?」


「ない」


「そ、そうですか……」


 それから適当に腹を満たしたあと、おもむろにドラゴリオンが立ち上がった。


「じゃあ、僕はこれで」


「もう少しゆっくりしてもいいんじゃない? ドラゴリオンさん」


「いやいや、もう日も暮れているし、早く今回のレポートを書いて役所に提出しないと。新メンバーの志願者がいないかも調べたいし。早くしないとまた妻や子供と晩ごはんが食べれなくなってしまう」


 そっか。ドラゴリオンは妻子持ちだったんだ。

 キューネが立ち上がる。


「あ、じゃあ報告書は私が書いて出しますよ」


「大丈夫、僕の方が慣れているから」


「でも……」


「というか、書き方わからないだろ?」


「うぅ」


「気にしなくて良いよ。いまは機嫌が良いんだ。今日の報酬を見せたくてワクワクしているからね。これからはもっと楽できるって妻に報告できる」


 奥さんが大好きなんだなあ。


「そんなに生活苦しいの?」


「ランド時代よりはマシになったよ。あの頃は人数が多かったから分前は少ないし、ほとんどランドが独り占めしていたから」


「そっか」


「みんな、明日は休みにしよう。また明後日」


 ほのかに嬉しそうに頬を緩めながら、ドラゴリオンは帰っていった。

 とにかく、無事にAランクの依頼は達成。委員会の審査を通るための条件は、メンバー数だけになったわけだ。


「じゃあ、私たちも帰りましょうか、ムウ、マーレ」


「そうだね。ねえキューネ、なんでドラゴリオンさんはギルドに入ったのかな」


「ランドに誘われてじゃないの?」


「うーん、でも妻子を養うなら、もっと安定して給料の良い仕事をすると思うんだよね。少なくとも、ランドの時代は薄給だったわけだし」


「そう言われると……」


 キューネは人々の役に立ちたいから。

 マーレは一人立ちするための資金稼ぎ。

 とそれぞれ理由がある。


 ドラゴリオンは、どうしてギルドにいるんだろうか。


 どうでもいいか。


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 翌明朝、いつもの山の麓でキューネと合流した。

 今日はただ薬草を採るだけだから、モンスターに襲われない限り戦闘はしない。


「おはよう、ムウ」


「おはよ。じゃあ行こうか」


 と歩き始めたそのとき、


「あ〜ん♡」


 後ろから甘ったるい声が聞こえてきた。

 2人して同時に振り返る。


 子供がいた。

 マーレと同じくらいの身長の、女の子だ。

 ピンク色の髪をしているけれど、頭部のてっぺんは黒い。

 たぶん地毛が黒で、ピンクに染めているんだろう。


「本当に会えた〜♡ ムウさま〜♡」


 いきなり少女が抱きついてきた。


「は?」


「話で聞いているよりずっとハンサムですぅ♡」


 キューネがわなわなと震えだす。


「な、なによこの子!! ちょ、ちょっとムウ!! いつの間に!!」


「知らないよ」


 少女がクスクスと笑う。


「えー、なによってぇ、わたしムウ様のファン、というか将来のお嫁さんなんですけどお?」


「よ、嫁!? ちょ、ちょっとムウ!!」


 だから知らないって。


「だいたい、あんたこそ誰って感じ〜」


「私は、ムウの幼馴染よ」


「じゃあ黙ってもらっていいですかー? 幼馴染風情が口出ししないでもらっていいですかー? ムウ様はぁ、あんたみたいな年増よりぃ、わたしみたいな若い女の子の方が好きに決まってるんだから♡♡」


「と、年増って!! 私はまだ16歳よ!!」


「16歳はおばさんでしょ。ね? ムウ様♡」


 同意を求められてしまった。

 なんだ? この女。

 ファンとかなんとか抜かしていたけど。


「ただのファンが、どうしてここにいるわけ?」


「知り合いの知り合いから聞いたんですぅ♡ ムウ様は毎朝この辺で狩りをしてるってえ♡♡」


「ふーん」


「わたしもぉ、側で拝見させてほしいなぁ、ムウ様のカッコいいところ」


「君さ、いくつ?」


「ピチピチの10歳ですぅ♡♡」


「親が心配するから帰りな」


「だーいじょーぶですよー。親なんかどーでもいーんですからー」


 たぶん、断ってもついてくるな、こりゃ。

 まあいいや。今日は薬草を採るだけだし、邪魔にはならないだろう。


「君、名前は?」


「リナリオンです☆」


 変わった名前だな。




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※あとがき

リナリオン、10歳。

10歳。

10歳です。


10歳です。






10歳です。


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