第33話 ミントという女

 ついにギルドメンバーが5人揃ったということで、長らく放置していたAランククエストを受けるらしい。


 と言っても、単なるバジリスク3匹の討伐だ。

 人間の子供ほどの大きさのトカゲで、猛毒を吐いたりしてくるモンスターである。


 村の家畜を食い漁る被害が度々報告されているらしい。


 こんなもんがAランクなのか。

 なら毎日Aランクやってるよ、こちとら。


「サマチアのバジリスクは、特に凶暴だそうです」


 とマーレが忠告する。

 みんなで馬車に乗り込み、目撃情報があった沼地地帯へ急いだ。


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 相手は3匹、こちらは6人。

 てなわけで、3手に分かれて討伐することになった。


 あれ、なんで頭数に加えられているんだろ。


 公平なるくじ引きの結果、


・ドラゴリオン、キューネ。

・マーレ、リナリオン。

・ムウ、ミント。


 となった。

 あれれ〜、いつの間にか参加させられているぞ〜?


「やだやだ〜ん!! わたしムウ様と一緒がいい〜!!」


 文句を垂れるリナリオンを他所に、さっそくミントと沼地を捜索する。


「じめじめして嫌なところやな〜。そいやムウさん、スキルないんやろ?」


「うん」


「なんかツボ押すらしいやん。ええなー、今度ウチにも押してや。肩凝っとるねん」


「え」


 反射的に、ミントの全身を眺めてしまった。

 たぶん、俗に言うバツグンのスタイルであった。


 ミントがにやにやしながら、目を細めた。


「なに想像しとる〜ん?」


「別に」


「ムウさん、女やと思っとったけど男なん?」


「いや、別にそういう目で見てないって」


「ほんまか〜?」


「ほんまです」


 顔が熱い……。

 なにか話題を変えよう。

 気まずくてしょうがない。


「ミントのスキルは?」


「ウチは……」


「待って」


 気配を感じた。

 こちらを警戒する、モンスターの気配。

 遠いけど、確かに肌に伝わってくる。


「ほのかに殺気も混じっとるね。弱そうなら食ってまおうみたいな」


「行ってみようか」


 気配をする方へ歩み出す。

 すると、案の定6本足のトカゲが草陰から飛び出してきた。


 バジリスクだ。


 登場するなり、口からヨダレを吐いてくる。

 猛毒のヨダレだろう。

 ヒョイと回避すると、ヨダレがかかった地面が溶けて、周囲に生えていた草がみるみる枯れていった。


「わーお。えっぐいモンスターやなあ。ウチが槍に塗っとる毒より強烈や」


「ミント、気をつけてね、不用意に近づくと噛みつかれたり、尻尾でビンタしてくるから」


「平気や。こいつはウチらに手も足も出えへん」


「ん?」


 ミントが懐からナイフを取り出した。

 それを軽く振ると、どういう原理か柄の部分が伸びて、槍のような形状になった。


「すごいやろ」


「へー、便利」


「ほな、ウチのスキルも紹介するわ」


 槍の切先をバジリスクに向ける。


「スキル、発動。……混乱」


 突如、バジリスクがくるくると回り出した。

 まるで自分の尻尾を捕まえようとしている猫のように。


「なはは、滑稽やなあ」


「状態異常系魔法のスキル?」


「せや。他にも何種類かあるんやけど、まあボチボチ見せるわ」


 状態異常、つまりはデバフ。

 それも肉体の弱体化ではなく、精神に影響をおぼすタイプだからタチが悪い。



 ミントは走り回るバジリスクに狙いを定め、尻尾に槍を突き立てた。

 尾が千切れても、バジリスクは止まらない。


「自分の身になにが起きているのかも理解できてないんや。こうなったら生き物として終わりやね」


「ずいぶん弄ぶね」


「ウチ、好きなんよ。スキルで頭や心がおかしくなった生き物を眺めるの。無様でかわええやん?」


「……」


「ムウさんはそうは思わへんみたいやね。残念やわ」


 ミントがバジリスクを楽にする。

 案外、性根のひん曲がった女の子らしい。





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※あとがき

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