第32話 新メンバー!!

 夕方まで眠ってしまった。

 明朝仕事して、帰ってきてから二度寝して、夕方まで寝てしまった。


 ビックリするくらい寝た。

 寝過ぎて頭が痛いくらい。


 でも不思議だなあ、もっと寝ていたい。

 ずっと寝ていたい。

 死にたくはないけど、可能な限り寝ていたい。


「はあ、さすがに起きるか」


 実は先日、叔父さんに言われてしまったのだ。

 ギルドに入らない、就職するつもりもないなら、医学の勉強をしろってね。


 継いでほしいんだろうな、病院。


 めんどくさい。


「ムウさん、ただいま帰りました」


 マーレが部屋にやってきた。


「おかえり」


「今日の依頼、楽勝でした。馬車を襲うオークの群れの退治だったんですけど、リナちゃんが召喚したゴブリンたちをキューネさんが強化して、あっという間でした」


「へー、仲悪いけど相性良いんだね」


「それよりも……」


 嬉々として話していたマーレが、突然しゅんとした。


「残り2日以内にメンバーを増やさないと、管理委員会に解散させられちゃいます」


「適当に誰か入れたら?」


「スキルを持っているか、またはクエストに5回参加していないと加入は認められないのです」


「ふーん」


「ふーんて」


 だって関係ないし。

 こっちがやれることもないし。

 入るつもりもないし。


「ギルド解散したらさ、マーレ、この病院継がない?」


「えぇ!? 私がですか!? む、無理ですよ私なんかじゃ!!」


「そんなことないよー」


「ていうか解散する前提で話を進めないでください!! いま、ドラゴリオンさんとキューネさんが頑張ってスキル持ちの人を捜してるんですから」


「ベゲリン、元の体に戻す?」


「……最悪の場合は」


 あと2日か……。

 無理かなあ。

 無理だろうねえ。


 ベゲリン、まだ川にいるかな?


「ふわぁ、寝るから晩御飯できたら起こして」


「ちょ、また寝るんですか!?」


「おやすみ」


「目を覚ます真経穴とかないんですか?」


「ないよ」


 うそ、あるよ。

 押さないけど。


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 翌朝、いつもの山でキューネと合流すると、


「ひひひ、どうにかなりそうよ、ギルド」


 と、キューネがピースサインをかましてきた。


「へえ、新メンバー見つかったんだ」


「うん!!」


「よかった。ベゲリンを戻さずに済んだね」


「昨日私とドラゴリオンさんの前に現れて、『お金稼ぎたいから入れされてやー』って」


「変な喋り方だね、訛ってる」


「アンサキ出身らしの」


 他所の国か。


「いいの? 地元民じゃないけど」


「いまはサマチア在住だからいーの!!」


 いーのね。


「この後みんなでクエスト行くから、ムウも来てよ」


「えー」


「いーじゃないたまには」


 いーくないなあ。


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 結局キューネ、マーレと街まで来てしまった。

 はぁ、最近フットワーク軽いなあ。


 酒場の扉を開ける。

 奥のテーブルを見やる。


 そこには既にドラゴリオンとその娘の……。


「あは〜ん♡♡ ムウさま〜ん♡♡」


 ピンク髪の10歳のちびっ子リナリオンがいた。

 ナナルもビックリの超高速でこっちに近づき、抱きついてくる。


 頭のてっぺんは父親と同じ黒色なので、染めているだろうな、あのピンクは。


「妻に会いに来てくれたんですねー♡♡ ちゅきちゅきー♡♡」


「勝手に結婚させられてる」


 ドラゴリオンの顔が赤く染まった。


「ムウ!! まさか本気じゃないだろうね!! リナに結婚はまだ早い!!」


「本気じゃないです」


 リナリオンが父を睨む。


「ちょっとパパ、ママはOKだって言ってくれたじゃん」


 言ってくれたんだ。

 会ったこともないのに。


「パパは認めてません!! たとえムウでも、リナは渡しません!!」


「ママと結婚するとき、同じことおじいちゃんに言われたくせに」


「うぐっ……」


 にしても妙だな。

 キューネのやつが静かだ。

 いつもならリナリオンを引き離すのに。


 キューネを一瞥すると、なにやら小馬鹿にするような嘲笑を浮かべていた。


「なに笑ってんの?」


「いや別に。ただ気づいたの。お子様と張り合うなんて馬鹿らしいって」


 キューネの挑発にリナリオンが顔をしかめる。


「はあ!?」


「なによ」


「年増のくせに」


「子供のくせに」


 張り合ってるじゃん。

 めちゃくちゃお子様と張り合ってるじゃん。


 とりあえず奥のテーブルへと歩く。

 いつも座っている席に、見知らぬ女性が腰掛けていた。


 青い髪の、若い子。

 たぶん、自分やキューネと同い年ぐらいの子だ。


 この子が、新人なのかな?


「はじめまして、ミント言います」


「ども、ムウです」


「噂は聞いとりますよー。まあウチもめんどくさがり屋やから、気が合うと思うわ」


「アンサキ出身なんだっけ?」


「せやで。コテコテのアンサキ弁ですまんなあ。けど生まれはサマチアや。つっても、物心ついたころにはアンサキにおったから、アンサキ出身みたいなもんやねん。ま、故郷に戻ってきたわけやねー」


「へー」


 なんか、いいなこの子。

 ゆる〜い感じ、いいな。


「ギルドなんてしんどいから嫌やったんやけど、お金稼がんと生きていかれへんから、こうしてお世話になることにしたんや」


「めんどくさいよね、ギルドって」


「ホンマやで。んな知らんやつのためになんでウチが頑張らなあかんねん」


「家でゴロゴロしてたいよね」


「してたいわー。起きて食って寝る、そんな生活だけしてたいわ」


「わかるー」


 あ、この子好きかも。

 ついに恋心に目覚めたかも。


 ミント、だったかな。

 ここまで気が合う人間、はじめてだ。


 おや、キューネとリナリオンが真っ青になってる。


 なんでだろ。


「ほな、ちゃっちゃとクエスト行きましょうや」

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