第34話 ミントと……。
バジリスク退治を終えて、みんなで酒場で打ち上げをすることになった。
みんな、といってもキューネとドラゴリオンは役所へ任務達成の報告をしに行っているので、あとから合流する。
「聞いてくださいムウさま〜ん♡♡ わたしが、このわたしがバジリスクを倒してやったんですう♡♡ マーレちゃんは見てるだけでした。ね、マーレちゃん?」
「あ、はい……」
「褒めてほしいなあ。ムウさまに褒めてほしいなあ♡♡ いやん、ムウさまってば、そんな褒めかた、えっちすぎますぅ♡♡」
なにもしてないが。
リナリオンの戯言を聞き流していると、キューネとドラゴリオンがやってきた。
クエストを達成したというのに、どこか浮かない顔をしている。
「なにかあった?」
ドラゴリオンが答える。
「役所で聞いたんだが、イカラビのギルドリーダー、ルナクが殺されたらしい」
「え」
リナリオンまで驚いている。
「犯人は未だ不明。ムウに負けて頭がおかしくなったから、誰かの怒りを買ったのかとも思ったが……」
「違うの?」
「他にギルドの副リーダーまで行方不明らしい」
「ふーん」
まあ、どうでもいいか。
関係ないし興味もない。
サマチアギルドは期限内にメンバーが揃って解散の危機を免れた。
いまはそれを喜んでいればいい。
とうぶん、ギルド問題で駆り出されることがなくなるわけだし。
マーレが尋ねる。
「イカラビはどうなったんですか?」
「管理委員会が、自分たちの息のかかったスキル持ちを数人派遣して、ギルドリーダーとその幹部にした。つまり、乗っ取られた形になる」
ギルド管理委員会。
あのサンドとかいうやつが所属している組織か。
「実はね、この手の事件は今回が初じゃないんだ。不祥事を起こしたリーダーの死、または失踪。それに伴う委員会からの派遣」
「委員会が黒幕だって? でも、空いた穴を補充するのも委員会の仕事。つまり、ただの偶然じゃない?」
「だといいが……」
自分で言っといてなんだけど、たぶん繋がりはある気がする。
勘だけど。
次に狙われるのはサマチアだったりして。
ミントが立ち上がった。
「んじゃ、ウチはこの辺で失礼しますわ」
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※ここから三人称です。
ミントは酒場をあとにして、自身が借りている『宿』へ向かった。
彼女の家はサマチアにはない。生まれもサマチアではない。
宿につき、部屋を開けると、同じ青い髪をしたメガネの男性、サンドがいた。
「うわビックリしたー。なにしてん兄やん」
「時間が空いたからな、私から会いに来た」
「ほーん」
「それで?」
「それでもなにも。呑気な奴らやで。兄やんが心配するほどでもないよ。他にメンバーを増やすつもりもないみたいやし」
「それぞれの力は見たのか?」
「見とらんけど、雰囲気でわかる。わざわざ作戦立ててやる必要もないくらいのザコどもや。ウチだけで充分やね」
「ムウはどうだ?」
「どうもこうも、大したことないんちゃう?」
「そうか、なら手はず通りに」
「わーっとるよ」
ミントは上着を脱ぐと、ベッドに投げ捨てた。
荷物をテーブルに置き、椅子に腰掛ける。
「兄やん、いくら兼任できるとはいえ、さすがに地元ギルドと『マスターギルド』を両立するのはしんどいで」
「サマチアギルドが崩壊したら、しばらく休暇を取ると良い」
「拘るんやね、サマチアに」
「いいや、拘っているのはチギトさ。あの忌々しい女の地元、徹底的にめちゃくちゃにしてやりたいからな。サマチアも、イカラビも、単なる包囲網の一つにすぎない」
「ほーん、でも、えらい警戒しとるやん、サマチア」
「……私が恐れているとでも? 今度の戦いのために、小バエを潰しておくことにしただけだ」
「そうなん」
サンドはメガネを取ると、ハンカチでレンズを拭き始めた。
最近買ったお気に入りのメガネだ。
メガネをかけ直し、改めて妹を見やる。
自分と同様、ランドとは父違いの兄妹。
幼い頃から共に協力しあって生きてきた仲だ。サンドが己以外で最も信頼している相手である。
現に、ミントはマスターギルドすら入ってくれた。
「少しずつ見えてきたな」
「なにがー?」
「この私が、すべてのギルドの頂点に立つ、そのゴールがだよ」
「ついに念願叶うわけや」
「そうだ、ムウは生かしておけよ」
「なして?」
「どうせならイカラビから『手に入れたスキル』で、やつを駒にする」
「はいはーい」
イカラビにしたように、管理委員会の立場を利用して自分の息のかかった者たちでギルドを支配する。
サマチアも、チギトも。
そうやっていくつもの街を実質的に掌握し、マスターギルドさえも手に入れる。
バカどもはマスターギルドへの入団を目標にしているが、自分は違う。
誰かの傀儡で収まる器ではないのだ。
「くくく、ふふふふ、ふはははは!!!!」
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