第35話 襲いかかる脅威

 今日もキューネたちはクエストへ出向いているらしい。

 おかげでマーレもいない。


 叔父さんも街へ出かけているし、久しぶりに家で一人だ。


「ごめんくださーい」


 誰か来た。女の声だ。

 お客さんか? まいったな、風邪薬くらいしか出せないよ。


 無視しよ。


「ごめーんくーださーい!!」


「……」


「ムウちゃーん、いないのかなあ?」


 聞き覚えのある声だな。

 まったくもう、どこの誰だよ。


 玄関扉を開けてみる。

 そこにいたのは、金髪の……。


「久しぶりだねえ、ムウちゃん」


「ママル……さん?」


 ナナルのお姉さんだった。


「な、なにしにここに?」


「屋敷の使用人さんがねえ、お腹痛いよーって泣き喚いているから、薬を取ってあげることにしたのだー」


「病院なら地元にもあるでしょ」


「久しぶりにムウちゃんの顔を見たくなっちゃったんだもん」


 相変わらずのニコニコ笑顔だ。

 苦手なんだよなあ、この人。

 掴みどころがなくてさ。なに考えてるのかいまいちわからない。


 変に緊張する。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

※ここから三人称です。





 時は少し遡りーー。

 キューネたちサマチアギルドは、ワンの村付近の山を登っていた。

 ここに住み着いてしまった凶悪な中型ドラゴンを退治するためである。


 木々が鬱蒼と生い茂る獣道を進みながら、リナリオンが文句を垂れる。


「ちょっとパパー、いつまで歩けばいいのよー」


「ドラゴンは頂上付近にいるらしい。まだ半分だ」


「うげぇ。マーレちゃんおんぶしてよー」


 い、いやですよ。とマーレが拒絶すると、ミントが立ち止まった。


「ここらでええやろ」


「どうかしたんですか? ミントさん」


「あのな、実はみんなに黙っていたことがあるねん」


 キューネたちの視線がミントへ向けられる。


「ウチなぁ、ホントはサマチアに住んどらんねん」


 ドラゴリオンが苦笑する。


「な、なにを言っているんだい?」


「だからギルドメンバー加入の手続きも、無効になると思うわ」


「う、嘘だろ……」


「けど本題はこっからや。とある人間がな、あんたらのことが邪魔になったんやって。おたくら、チギトと仲良いらしいやん」


「よ、よくはないが……」


「そうなん? とにかく、チギト……というかナナルやママルに親しい人間を減らしておきたいらしいんや。せやから」


 ミントが得物を取り出した。

 手のひらサイズの刃物が、槍のように伸びる。


「ここであんたら殺して、サマチアは委員会のスキル持ちに任せることにするわ」


 彼女の言葉に、ドラゴリオンはすぐさまイカラビを連想した。

 やはり、ギルドの不審死や行方不明に委員会が噛んでいる。

 しかし何故、なんのために。どうしてナナルとママルが関係しているのか、さっぱりわからない。


 リナリオンが反発する。


「はあ!? 仮に私たちを殺したら、あんた逮捕されて死刑じゃん」


「ならんやろ。凶悪モンスター討伐クエスト中に、メンバーが死亡。よくある話や。……それに、ウチは『マスターギルド』やから、確実な証拠がない限り逮捕なんかされへんよ」


「マスターギルドって……」


「ほな、さっさと終わらせようかね」


 リナリオンたちが警戒する。


「そう簡単にやられないわよ!! スキル発動!! モンスター召喚!!」


 5体のゴブリンが召喚される。

 さらにキューネが強化魔法をかけた。

 2人のコンビネーション攻撃である。


「いけ!!」


「ふふふ、スキル発動……混乱」


 ゴブリンたちの動きが止まる。

 互いを見合わせて、仲間内で攻撃をはじめた。


「な、なにやってんのあんたら!!」


 続けてドラゴリオンがミントに手をかざした。


「くそっ!! スキル発動!! ブリザード!!」


 瞬間冷凍の吹雪が放たれる。

 しかし、


「しょうもないわー」


 ミントは高く跳躍し吹雪を回避すると、


「ほれ」


 降下しながら槍を構え、ドラゴリオンの肩を貫いた。


「ぐっ!!」


「ちょっとズレてもうたかー」


 キューネが斧を片手に突っ込んでいく。


「いい加減にしなさいよ!! 強化魔法!!」


「……睡眠」


「っ!!」


 まるで気絶するように、キューネは倒れて眠ってしまった。

 ガタガタと、リナリオンの肩が震える。

 嫌な汗が全身から吹き出す。


 恵まれたフィジカルと、精神異常を引き起こすスキル。

 強い、こいつは強すぎる!!


「そういえば、マーレがおらんな〜。逃げたんかなあ?」


「あ、あんた、きっと後悔するわよ」


「なしてなん?」


「マーレちゃんは、ムウ様を呼びに行ったのよ!! ムウ様がこの状況を見れば、絶対に黙ってないわ!!」


「ほーん。ムウかあ……無理やろ。近づく前にウチのスキルでおしまいや。ほな、まずは逃げられる前にリナちゃんを殺そうかな」


 ミントの槍がリナリオンへ向けられた。

 逃げれば助かるだろうか。恐怖心と期待がリナリオンの脳内を支配する。

 けれど、ここにはまだ父とキューネがいるのだ。


 2人を置いて逃げるわけにはいかない。

 どうすればいい。他にモンスターを召喚しても、すぐに無力化させられる。


「逃げろ!! リナ!!」


「でも、パパ!!」


 はやく、ムウよ、はやく来てくれ。

 このままじゃ、本当にみんな……。


「ばいばい、リナちゃん」


 そのときだった、


「なにやら騒がしいから来てみれば……」


 ミントたちの視線が声の方へ移る。

 そこに立っていた女性を見て、ドラゴリオンは安堵した。


 風になびく銀色の髪。

 鋭い眼力。


 チギトのリーダー、ナナルであった。


「仲間割れかしら? サマチア」





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※あとがき

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