第36話 ナナルvsミント

 叔父さんもマーレもいないってのに、ママルさんが来た。

 従者が腹痛らしい。別の従者に薬を取りに行かせればいいのに、わざわざ自分からくるなんて、案外暇なんだな。


 とりあえず、ママルさんを家に招いてお茶を出した。


「あは〜、優しいんだねえ」


「こんなとこに遊びに来るなんて、マスターギルドは暇なんですね」


「うーん? ふっふっふ〜、仕事が速いって言ってほしいなあ」


 そうですか。

 とにかく、叔父さんが帰ってくるまで薬は出せない。

 しばらく待ってもらうしかない。


 あんまり同じ空間にいたくないし、自室に戻っていようかな。


「じゃあ、ここで待っていてくださーー」


 そう言い終わろうとした瞬間、


「ムウさん!!」


 汗まみれのマーレが帰ってきた。


「ど、どうしたの、そんなに急いで」


「大変なんです!! とにかく大変なんです!! 一緒に来てください!!」


「え? は?」


「いいから!!」


 強引に腕を引っ張られ、外へ出る。

 いったいなんだってんだ?


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

※三人称です。




 ミントがナナルをギロリと睨んだ。


「なんでおるん?」


「お姉ちゃんの付き添い。あの人、子供みたいにあちこち走り回るから、捜していたら、こっちからギャーギャー聞こえてきたもので」


「くく、そんなクールな感じして、『お姉ちゃん』呼びなんやなあ。かわええやん」


「あなた、誰?」


 ミントに代わり、ドラゴリオンが答える。


「彼女は……ミント。おそらくギルド管理委員会の手のものだ。そして……マスターギルドらしい」


「ミント? あぁ、あなたか、お姉ちゃんが言っていた、めちゃくちゃ弱い新人ってのは」


「厳しいなあ。別にウチかて好きで入ったわけやないのに」


「で、なんでマスターギルドがサマチアのギルドメンバーを殺そうとしているのかしら?」


「あんたに関係あらへんやろ、ナナルちゃん」


 両者互いに睨み合う。

 その間に、リナリオンは眠っているキューネを、父のところまで引きずった。


「パパ、あの人……」


「大丈夫、ナナルは強い。僕らの誰よりも、確実に」


「助けてくれるの?」


「き、きっと」


 先に仕掛けたのは、ミントであった。


「すいみーー」


「ソニック」


 瞬間、ナナルが消えた。

 違う、高速でミントに接近したのだ。


 ナナルの短剣によって、ミントの服が切り裂かれる。

 下に着込んでいた軽鎧が顕になる。


「やるやん」


「エナジードレイン!!」


「させへんで」


 見事な槍術によってナナルを振り払う。

 ナナルはまたも超高速で動き回り、ミントとの距離を詰めた。


「幻覚」


「!?」


 構わずナナルが短剣を振る。

 だが、手応えがない。

 切られたミントは気体となって霧散し、空へと消えた。


「ちっ、幻覚か」


 一気に後退し、周囲を警戒する。

 ハッと、頭上を見やれば、槍を片手に降下してくるミントがいた。


「はは、バレてもーた」


 落下攻撃を回避し、回し蹴りを食らわせる。

 2人の戦いを眺めていたドラゴリオンが、ミントのスキルについて考察する。


 なぜ、決まれば絶対に勝ちが確定する『混乱』や『睡眠』を使用しなかったのか。

 なぜ、『幻覚』だったのか。

 そのせいで、結果的に槍での奇襲は回避されてしまったのに。


 それは十中八九、効果の適用範囲が異なるから。

 混乱や睡眠は、対象に狙いを定めないと発動できないのだろう。

 逆に幻覚は、範囲内にいればそれでいいのだ。


 たとえ相手が見えなくても、構わない。


 そのドラゴリオンの読みは正しかった。


「ナ、ナナル、とにかく動き回るんだ!! 止まったら、確実に眠らされる!!」


「忠告なんかいらない!!」


 一方、当のナナルはイライラしていた。


 戦いづらい。


 近づいたと思いきや離れる。

 触れたと思いきや幻覚。


 これではエナジードレインが宝の持ち腐れだ。


「ふふ、強いやん」


「知ってる」


 今度はミントから走り出した。

 華麗な槍さばきではあるが、そのすべてをナナルは回避する。


「くく、幻覚」


「しまっ……」


 ナナルは目の前のミントを無視し、周囲を警戒した。

 どこから、次はどこからくる。


 途端、目の前のミントの槍が、ナナルの腹部を貫いた。


「なっ……」


「くくく、素直やなあ。使ってへんで、スキル」


「こいつ……」


「げんかーー」


「エナジードレイン解放!!」


 ナナルの短剣からエナジーの斬撃が放たれる!!

 見事ミントに直撃し、彼女の右腕を切り裂いた。


「え」


「はぁ、はぁ、舐めないでほしいわ」


 ドッと、ナナルの全身が倦怠感に襲われる。

 本来、エナジー解放は相手から奪ったエネルギーを発射する。

 しかし、ミントから充分に奪いきれなかったナナルは、自分自身のエネルギーを放ったのだ。


 当然、そのぶん体力は失われる。


「こんの……小賢しいやん!! でも、もう動けへんやろ!! すいみーー」


「ブリザード!!」


「なにっ!?」


 ドラゴリオンの氷結魔法が、ミントを吹き飛ばした。

 完全に凍らせることは叶わなかったが、その指先はかじかんで自由を失った。


「はあ、こりゃ一本取られたわ。やるやん、リーダーさん」


 ナナルが、自身の腹部に刺さっている槍を引き抜いた。


「ひえ〜、おっかないやんナナルちゃん」


「まだまだ、終わってないから」


 ミントの頬を、汗が伝う。


「はは〜ん、ちょいとヤバいかもしれへんわ」


 そして、


「ムウさん、ここです!!」


 ミントの表情から、笑顔が消えた。

 マーレが連れてきた人間と、視線が重なる。


「ちょいとやない。マジでヤバいわ」





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※あとがき

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