第37話 凶悪

※前回までのあらすじ。

突如サマチアのギルドメンバーに攻撃を仕掛けてきたミント。

ナナルが乱入し、彼女を追い詰めたところで、ムウがやってくる。


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 移動中、マーレにおおよその話を聞いていたから、目の前の光景もすぐに飲み込むことができた。


 ギルド管理委員会からの回し者だったミントによる裏切り。


 驚いてはいるけど、それよりも、まさかナナルまで参戦しているとは予想していなかった。

 ママルとはぐれて、たまたま加わったのか?


「ミント」


「なは〜、ちょっと油断してもうたわ。結構強いやん、君ら」


 キューネを見やる。

 倒れているけど、まさか……。

 いや、よかった、呑気に寝息を立ててる。

 眠らされているだけか。


「ミント、詳しくは知らないけど、とりあえず再起不能にする」


「すいみーー」


 させるか。

 適当に石を拾い、ミントに投げつける。


「わっ!!」


 反応が鈍いな。

 戦いの疲労か。


 とにかく、その一瞬の隙をついて距離を詰め、胸部を殴りつけた。


「くっ!!」


 続けて腹部、下腹部と連続して指で突く。

 最後に右足の付け根を蹴って、足を麻痺させた。


「もう逃げられない」


 ぺたりと、ミントが座り込む。


「あ、あかんなあ。ほ、本当に、油断してもうたわ。けどな、ウチにはまだスキルがーー」


「やめた方がいい」


「はあ?」


「胸と腹を2回、これは足の麻痺とは関係ない」


「……」


「いまから10分以内に、解除の真経穴を突かないと……君は大量の血を吐き出して死ぬ」


「じょ、冗談やろ?」


「スキルを使ってこっちの意識を奪ったら、君も道連れだ」


 ミントが苦笑する。

 よし、この反応からして、ルナクのようにこちらの精神を操る技はないようだ。


 ナナルの腹部に刺さった槍を抜いてやる。

 真経穴を押して血管を刺激し、出血の量を抑える。

 さらに彼女が持参していた傷薬を塗ってやった。


「さ、さすがと言いたいところだけど……わ、私だけでも勝てた」


「あんまり喋るな。傷が開く。……さて」


 再度ミントに近寄る。


「答えてもらおうか、いろいろ」


「一対一なら、あんたにも勝てたんやろうけどなあ」


「あっそ。そりゃすごい。で、委員会の誰からの指示? まさか……」







「答える必要はない、ミント」


 聞き覚えのある声がした。

 ミントと同じ青い髪、陽の光を反射する高価なメガネ。

 ギルド管理委員会の男、サンドだ。


 ここで登場したってことは、やはり。


「に、兄やん、なんで……」


 兄やん?

 兄弟だったのか。


 サンドが小さくため息をついた。


「嫌な予感がして、様子を見に来たのだ。お前は、楽観的で油断しがちだからな」


「す、すまんなあ兄やん。へへ、こんなはずやなかったんやけど」


「まったく……絶対に失敗は許されないというのに……」


 妹の方へ歩み寄って行く。

 どんなスキルを持っているのかわからない。一旦離れて様子を伺う。


 十中八九、というか絶対、こいつは敵だ。


「に、兄やん、すまん、真経穴のせいで動けなくなってもうた。で、でもまだスキルは使えるで」


「10分後に死ぬらしいな」


「らしいわ。こ、困ったもんやで」


「そうか……。はぁ……。結局最後に信じられるのは自分だけか」


「なにを言うとるんや?」


「スキルを使えるといっても、いまのお前の体では辛いだろう」


「え、ま、待って兄やん、まさか」


「我が愚弟、ランドと同じだな、しょせんはお前も」


 ランド?

 こいつらランドの兄妹でもあったのかよ。


 瞬間、サンドの拳がミントの腹部を貫いた。

 断末魔を上げる間もなく、ミントの意識がとだえる。

 こいつ、実の妹を殺しやがった!!


「あんた……」


「サマチアのザコはここで死ぬ。予定が前倒しになったが、ママルの妹もここで殺す。ムウくん、君は私の配下になってもらおう」


「イカれてるのか。意味がわからん。そこまでしてサマチアを乗っ取りたいのか。……なるほど、ランドの仇ってわけかよ」


「勘違いするな。ランドなど私の人生においてチリ紙より価値がない。私の目標はずっと先にある」


「は?」


「土地に恵まれたギルドをすべて掌握し、マスターギルドも支配下に置く。これの意味することがわかるか?」


 サンドはメガネを取ると、ハンカチを取り出してレンズを拭きだした。


「頂点だよ。あらゆるスキルを持つ者の頂点。世界の頂点。その頂に、私が立つ」


「理解できないな」


「私は恵まれぬ生まれでね。よくある話さ、幼くして親に捨てられ、金も、地位もないものはみな欲張りになる。私もその一人さ」


「唯一の妹を殺しておいて」


 メガネを掛け直す。

 レンズ越しの禍々しい瞳が、こちらを捉える。


「使えないのなら必要ない。私はね、どうしても手に入れたいんだよ。私の指示一つで動く、世界が。私以外のすべての下等生物が私の靴を舐める世界が!!」


 キューネが目を覚ます。

 ミントの死体と不穏な男に気付き、ハッと息を飲む。

 ナナルも立ち上がり、サンドを睨んだ。


 ドラゴリオンも、リナリオンも、マーレも、みんなサンドに敵意を向けていた。


「この状況で勝てると思ってんの?」


「思っているさ。私は、あらゆるスキル持ちのトップに値する人間だからね。君こそ、注意した方がいい」


「?」


「本当のスキル持ちの恐ろしさを、身をもって体験することになる。これまで戦ったザコとは、比べものにならない」


 ずいぶん自信満々だな。

 キューネたちだけでなく、手負とはいえナナルまでいるんだぞ。


 逆の立場なら、自分だって避けたい戦いだ。


「いつでもどうぞ、私の踏み台たちよ」

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