第38話 サンドのスキル
サンドとの睨み合いが続く。
途中、ナナルが耳打ちしてきた。
「お姉ちゃん情報」
「なに?」
「サンドは管理委員会きっての武闘派。マスターギルドにいてもおかしくない、だそうよ」
「家にママルさんがいる。呼んできたら?」
「嫌よ。お姉ちゃんは頼りたくない」
「そうですか。スキル情報は?」
「知らない」
「なるほどね」
まず真っ先にナナルが仕掛けた。
ソニックのスキルでサンドへ接近する。
しかし、
「スキル発動……硬化」
ナナルの短剣がサンドに触れるも、弾かれてしまう。
石のように硬くなっているのか。
以前戦ったランドの部下のようだ。
硬化、あれだけがサンドのスキルとは考え難い。きっと他にもあるはずだろう。
まあいい、あとは戦いながら見極める。
硬化しか使っていないうちに畳み掛ける!!
オーガの力を解放し、接近する。
パワーが増したいまなら硬くなった皮膚すら貫ける。
心臓部の経穴を突いて、気絶させてやる。
「ふふふ……睡眠」
「え」
ドッと眠気が襲ってきた。
やばい、抗えない。
意識が……ぼんやりしていく……。
「ブ、ブリザード!!」
凄まじい冷気の竜巻に襲われて、吹っ飛んでしまった。
地面に転がり、痛みと寒さで眠気が引いていく。
「大丈夫かムウ!!」
「あ、ありがとうドラゴリオンさん」
それより、あいつ、サンドのやつ。
なんでミントのスキルを……。
「ムウ様は休んでて!! ゴブリン軍団召喚!! 行けえ!!」
リナリオンが5匹のゴブリンを呼び出す。
ゴブリンたちは棍棒片手にサンドを襲った。
硬化していても、多少のダメージは入るだろう。
サンドの瞳が侮蔑に染まる。
「汚らしい獣どもが。蹴散らしてやろう。……パワー!!」
サンドが1匹のゴブリンの頭部を殴った。
殴られた頭部は、破裂したスライムのようにぐちゃぐちゃになって地に落ちた。
ありえない。人間の腕力じゃないぞ。
他のゴブリンたちも一撃で屠っていく。
おそらく、己を怪力にする系統のスキルだ。
まさか……。
「あんた、そのスキル、もしかして……」
「おや、気付いたかな? そうか、君は確か戦ったんだったな、やつと」
「ランドの……スキル……」
「あぁ、どうせもう生きていても意味がないし、いただいた」
いただいた?
そうか、わかったぞこいつのスキル。
なんて悪魔的な能力なんだ。
「察したようだね。そう、私のスキルは『スキルドレイン』だ。殺した人間のスキルを奪うことができる」
だからわざわざミントを殺したのか。
あいつのスキルを奪うために!!
待てよ、確か先日、イカラビのギルドリーダー、ルナクが謎の死を遂げた。
もし、それがこいつの手によって行われたのなら……。
「リナリオン!! ドラゴリオンさんとキューネ、マーレを連れて早く逃げろ!!」
「え、でも……」
「早くしろ!! じゃなきゃ結婚しないぞ!!」
サンドがクククと喉を鳴らす。
「させないよ」
「させるんだよ!!」
構わず突っ込んでいく。
呼吸を止めて、オーガの力で最速で。
「ちっ、速い。硬化!!」
だからなんだ!!
力を込めた拳で胸部を突く。
心臓を刺激して、気絶させてやる。
拳は見事直撃した。
けれど、なんだ? 妙な違和感が腕から伝わってくる。
硬化しているから、じゃない。手応えがおかしいのだ。
「な、なるほど、ただのパンチではないな。……真経穴というやつか」
「なっ!?」
真経穴が効いていない!?
ナナルがサンドに触れる。
「エナジードレイン!!」
「バカめ、止まったお前に価値はない!! 混乱!!」
ナナルの手がだらんと落ちた。
ポカンと口を開けて、意識が失われているようだ。
さらに、今度はサンドがナナルに触れる。
いや、触れるというより、何かを刺した。
「くくく、では試してみようか……マリオネット!!」
まずい。
間に合え!!
「もう一度!!」
再度サンドを殴る。
やはり、気絶しない。
なんでだ。なんで真経穴が通用しないんだ。
「ナナル、サマチアのザコども……殺せ」
ナナルが短剣を握る。
キューネたちの方を向く。
やられた、ルナクのスキルを使われた。
よりにもよって、ナナルに。
針を刺した相手を操る、おぞましいルナクのスキルを。
しょうがない、また視力を奪うか。
と腕を動かそうとしたとき。
「やらせるか!!」
サンドが殴りかかってきた。
かわしきれない。
頬を殴られ、倒れてしまう。
あれ? 普通のパンチだ。ランドのスキルは使わなかったのか。
一方、ナナルは……。
「スキル……発動!!」
若干身をかがめ、走り出す体勢に移っていた。
間に合わないか。
そのとき、
「うわああああ!!」
マーレの声と共に、ナナルが倒れた。
よ、よし、透明になったマーレがナナルを押し倒したのか。
「いまだリナリオン!! コカトリスを呼んで逃げろ!!」
「あ、う……」
「急げ!!」
「は、はい!! コカトリス召喚!!」
巨大鳥を召喚し、父親と共にその背に乗る。
もちろん、キューネもだ。
「ム、ムウ、大丈夫なの?」
「うん。どうにかなる。だから行って」
「……」
コカトリスが飛び去っていく。
その姿を、憎々しそうにサンドが眺めていた。
「ちっ、ザコを取り逃したか。まあいいあんな虫ケラども、どうにでもなる」
「マーレも早く逃げるんだ」
透明になっていたマーレが姿を見せる。
「ほ、本気でヤバそうだったら逃げます」
「ダメだ」
「今回ばかりは、ムウさん一人じゃ無理ですよ……」
そうかよ。
どうなっても知らないぞ。
まあ、マーレは透明になれるし、狙われる心配は少ないか。
ナナルが起き上がる。
「サンド、まだナナルを操るつもりか」
「当然だろう? いずれ君も操る。私の手駒とする。スキルはなくても、君は使えるからね」
「効かないよ、針は。針で操るんだろ? その程度の状態異常は通用しない」
「らしいね。不思議だが、おそらく、そういう体質なのだろう。……だが、それはあくまで、針を一本刺した場合だろう?」
「なにが言いたい」
「残る針は4本。全部刺したらどうなるだろうか」
ナナルがこっちに向けて短剣を構える。
操られたナナル。
複数の厄介なスキルが使えるサンド。
真経穴が効かない謎。
あぁ、マーレの言う通りだ。
今回ばかりは、厳しいかも。
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※あとがき
スキルドレインで手に入れたスキルは一ヶ月間使えます。
一度に保有できるスキルの数は5つまでです。
応援よろしくお願いしまする。
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