第39話 サンドの秘密

※三人称です。




 キューネ、リナリオン、ドラゴリオンの3人は、ムウの指示通りコカトリスに乗って戦場から遠ざかっていた。

 リナリオンが呟く。


「ムウ様とマーレちゃん、大丈夫かな、パパ」


「力になりたいが、一番恐ろしいのは僕らが足手まといになることだ。ムウを、信じるしかない」


 キューネが視線を落とす。

 ドラゴリオンの理屈はわかる。

 ムウの邪魔はしたくないし、ムウならきっと勝てると心の底から信じている。


 だってムウは、ヒーローだから。


 けれど、胸騒ぎが収まらない。

 信じているのに、不安が脳を支配する。


「私、戻るよ」


「え、でもキューネさん」


「ドラゴリオンさんとリナは、ムウの家に行って。ムウの叔父さん、お医者さんだし、強いから、きっと力になってくれる」


 そう言い残し、キューネはコカトリスから降下した。

 なかなかの高度にいたが、強化魔法で体を強化すれば着地は問題ない。


「ムウ……」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

※一人称です。




 正直状況はよろしくない。

 いっそマーレと一緒に逃げちゃおうかな?


 ナナルのことは、ママルさんにでも任せてさ。

 それが賢明な気がする。


 サンドの野望とかどうでもいいし、興味もない。

 自分たちの身を守れさえすればそれで……。


「どうした? もう諦めたのか? しょせん、スキルのないつまらん子供だな」


 変だなあ。

 逃げる気になれない。

 あいつをぶっ飛ばしてやりたくてしょうがない。


 胸がざわついて、落ち着かない。

 最近、こういう現象がよく起こる。

 前の自分だったら、挑発なんて軽く受け流していたのに。


 一泡吹かせてやりたいのだろうな。

 こうなったら、せめてナナルだけでも救ってやるか。


「ではさっそく、君に針を刺そう。……行けナナル。ムウの体力を奪い尽くせ」


 ナナルが超高速で接近してきた。

 単調な、シンプルな突進。意識が消えているせいで、策を練って戦うことができないのだろう。

 なら問題はない。


 オーガの目でナナルの動きを見極め、突進を回避する。

 そのまま腰を蹴り、彼女の全身を麻痺させる。

 とはいえ、一時的。しばらくしたら動き出してしまう。


 本当なら長時間止めてやりたいところだが、精神操作のスキルが解除されたあと逃げられなくなるので、一時的に留めておく。


「さて」


 残すはサンドだけだ。


「ちっ、姉と違ってクズだな。……すいみ」


 言い終わる直前、サンドが何かにぶつかったようにのけ反った。

 きっとマーレだ。


「ナイスだマーレ!!」


 いまのうちに接近して、腹を殴る。

 まただ、変な感触が拳に伝わる。


「真経穴など……効かん!! パワー!!」


「来たっ!!」


 剛腕の拳を手で弾き、サンドの顎を殴る。

 それだけでサンドは脳震とうを起こし、跪いた。


「いまだ!!」


 これは憶測だが、サンドは一度に使用できるスキルに限りがある。

 おそらく、2つ。

 マリオネットとパワーを発動したのなら、硬化は解除されているはず。


 なぜ真経穴が通用しないのか知らないが、こうなれば打撃技で仕留める。


「終わりだ!!」


「う、ぐうぅ!! 硬化!!」


 回復が早いな。


「だからなんだ!!」


 オーガの力で脚力をアップさせ、思いっきり頭部を蹴る。

 衝撃でサンドは吹っ飛び、地面に転がった。


「ぐっ……」


 やばい、オーガの力を覚醒させすぎた。

 体がキツい。頭もくらくらしてきた。


 これ以上の戦いは危険だ。


「な、舐めるなよ、小僧!!」


 サンドのやつ、意外とタフだな。

 くそ、こうなったらヤケだ。

 限界ギリギリまで拳を叩き込む。


「眠れ!! すいみーー」


「うおおおおおお!!!!」


 呼吸を止めて、一気に距離を詰め、殴る。

 ミントのスキルを使う間も与えない。

 一方的な殴打。


「う、うご!!」


 硬化していても、これだけ殴られたら堪えるだろうよ。


「ま、まだだ!!」


「しつこい!!」


 うっ、ダメだ。

 力が抜けていく。

 体が言うことを聞かない。


 腕が、もう上がらない。


「耐え切った!! パワーのスキルでぶっ飛ばしてやる!!」


「くそ」


 そのとき、


「どいて、ムウ!!」


 ナナルが叫んだ。

 そうか、やつは硬化の他に状態異常スキルやパワーのスキルを発動しようとした。

 だからマリオネットが解除されたのか。


 しかも、真経穴の効果も切れてる。


「バカめ、いまさらお前に何ができる!!」


「私だけじゃないわ!!」


 ナナルの背後から、キューネが現れた。

 戻ってきたのか。


「スキル発動!! 強化魔法!! ナナルさん、お願いします!!」


「ソニック!!」


 速い。

 オーガの目でも追い切れない。

 しかも上がったの速さだけじゃない。


 腕力もだ。

 たとえサンドが硬化を使っていても、


「出血死させてやるわ!!」


 ナナルの短剣がサンドの首筋を切り裂いた。


「終わりよ」


「バ、バカな……」


 サンドが倒れる。

 勝った。


 真経穴の出番はなかったけど、構うもんか。

 なんでサンドには効かなかったのか、叔父さんならわかるかな。


「や、やるじゃん、ナナル」


「あなたがサンドをボコしてるとき、あの子がやってきたのよ」


 キューネか。

 キューネはホッと安堵して、こっちにやってきた。


「力になれてよかったよ、ムウ、ナナルさん」


「助かった。ありがとうキューネ」


 さて、一旦帰ろう。

 帰って一眠りしてからこれからのことを考えよう。


 と、家に向かって歩き出そうとしたとき、


「あ!! ムウさん!!」


 マーレが叫んだ。

 と同時に、


「愚か者どもが」


 死んだはずのサンドの手刀が、背後からナナルを貫いたのだ。


「な、なんで……。い、いま確かに、私が……」


「あぁ、殺されたさ。いや、正確には殺せていただろうな」


 どうして生きているんだ。

 ありえない。

 まさか、回復魔法でも使えるのか?


「くく、くくく、ムウよ、私の首をよく見るがいい」


 首?

 確かに切られてる。


 いや、なにか変だ。

 こいつ、血が出ていない!!


「教えてやろう。私のスキルドレインは、この身に宿した2つ目のスキルだ。私が最初に手に入れたスキルは……不死」


「不死?」


「飢えて、死の淵に立たされたとき、奇跡的に授かったスキル。といっても、肉体はとっくに朽ちているがね。不死というより、ゾンビに近いかな?」


「だから、首を切られても……」


 トントンと、サンドが己の頭を指で叩いた。


「脳がある限り、私は決して死ぬことはない」


「……」


「幼い頃の私は愚かでね、何をしても死なないとわかったとき、我が身を売って金を得ることを選んだ。その金で、スキルドレインの魔晶石を買ったのだよ」


「売って? そうか、そうかお前!!!!」


「あぁ、私には内臓がない。心臓もない。必要がないからね。故に血が流れないし、出血もしない」


 だから臓器を刺激する真経穴が効かなかったのか。

 あの妙な手応えは、空っぽの体を殴ったからだったわけだ。


 なんてやつだ、この怪物。


 サンドがナナルから手刀を抜く。


「ふふふ、できればナナルは操って、ママルと戦わせたかったが、しょうがない」


 ナナルが、朽ちていく。


「さあ、さっそく使ってやるぞ!! ソニック!!」

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