第26話 心配

「ムウ!! いる!?」


「ムウさーん!!」


 翌日の夕方、街に行っていたキューネとマーレが帰ってきた。

 ズカズカと家に入り、部屋を開けてくる。


「どうしたの?」


「ねえ、この前会ったリナリオンって子、覚えてる?」


「あぁ」


「あの子、ドラゴリオンさんの娘なんですって」


「へえ、通りで名前が似てるわけだ」


「昨夜から行方不明らしいの。ムウに会いにきてない?」


「……いや」


 行方不明、家出か?

 家族仲良くないみたいなことを口にしていたけど……。


「ドラゴリオンさんは?」


「街中を捜索してる。それとね、ムウ、私たちのギルドにこんなものが……」


 キューネが懐から紙を取り出した。


「なにこれ」


「イカラビのギルドが、リーダー同士の決闘を申し込んできたの。負けたら傘下に入れって」


 前にナナルが話していたやつか。

 てっきり直接自分を名指してくるかと思ったけど、ギルドのリーダーじゃドラゴリオンだ。


 勘違いしているのか?


「日にちは?」


「明日の昼。逃げたなんて風潮されたくないし、受けるつもりではあるけど……」


「それどころじゃないんだから、延期してもらいなよ」


「うん。明日、待ち合わせ場所でそう伝えるつもり。ドラゴリオンさんには、娘さんの捜索に集中してほしいし」


「一応、明日ついて行ってあげるよ。キューネとマーレだけじゃ心配だ」


「ありがと〜。助かる」


 しかし、妙に事件が重なったな。

 ドラゴリオンの娘、リナリオン。

 確か真経穴について調べていた様子だった。


 そしてイカラビのギルドリーダーからの果し状。

 繋がりがある? 考えすぎか?


 なんだか胸騒ぎがする。


「にしてもビックリ」


「なにが?」


「ムウに心配されたの、はじめてな気がする」


「……」


 そんなことないよ、きっと。


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 夜、マーレと食器を片していると、


「ムウ、いるかい?」


 ドラゴリオンが尋ねてきた。

 汗まみれで、心なしかげっそりとやつれている。


「どうしたの? 娘は見つかったの?」


「いや……いまいろんな人に協力してもらって、捜しているよ。もしやワンの村にいないかと、こうしてやってきたんだ」


「残念だけど、たぶんいないよ」


「そうか……」


 ガックリと、ドラゴリオンが膝から崩れ落ちた。

 相当疲れているだろう。


「少しお茶でも飲んだら?」


「しかし……」


「一旦休んで、冷静にならないと」


「ありがとう」


 家に招き、マーレにお茶を用意させる。


「リナリオン、だっけ? 先日森で会ったんだよ」


「聞いたよ、キューネさんからね。最近、やけに夜外出するなと思っていたけど、本当になにをしているのか……」


「注意したの?」


「したが……僕の言うことなんて聞いてくれやしない。嫌われているから」


「……」


「ギルドでの立場が弱く、給料も低いうえに仕事ばかりでロクに構ってあげられなかったから……」


「けどいまは」


「いまなんて関係ないさ。肝心なのは積み重ねだよ。妻には懐いているから、家出だけはしないと思っていた」


 苦労しているんだな

 どうしてそんなに苦労する必要があるのだろう。

 ドラゴリオンは優秀な人だ。他の仕事をしたって、それなりにやっていけるはずだ。


「なんでギルドに拘るの? キューネみたいに、ヒーロー願望があるとか?」


「拘っているわけじゃないよ。ヒーローになりたいわけじゃない」


「じゃあ……」


「僕しか、いないんだ」


「ドラゴリオンさんしか?」


「ランドのときから、いまでも、僕がやるしかないことが、たくさんあるんだ」


 戦いだけがギルドじゃない。

 役所とのやり取り、クエストの準備、報酬の精算、スケジュール管理やその他事務仕事。

 たしかに、ドラゴリオンしかやれる者はいない。

 キューネやマーレではてんてこ舞いになるだろう。


 責任感、というやつか。


「マーレは文字の読み書きがまだ苦手だけど、キューネなら教えれば徐々に覚えてくれるよ。勉強は多少できるタイプだし。性格的にも、快く引き受けくれるはず」


「でも、彼女はまだ子供だ」


「関係ないでしょ、同じギルドメンバーなんだから。ドラゴリオンさんは、自分一人で背負い込みすぎ」


「……」


「とにかく、娘捜しに集中して。明日のギルド抗争は、こっちで上手いこと延期するなり中止にするなりやるからさ」


「……」


「聞いてる?」


「え? あぁ、うん」


 それからドラゴリオンはお茶を飲み干して、娘捜しを再会した。

 大丈夫だろうか。

 まあ、関係ないけ……うーん、素直に心配だな。

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