第42話 戦いが終わり
うっすらと目を覚ます。
ここは……自分の部屋だ。
ゆっくりと上半身を起こすと、
「ムウさん!!」
突然マーレに抱きつかれた。
「マーレ」
「よかった、目を覚ましたんですね!!」
「ちょ、離れて」
「ご、ごめんなさい!! そ、そうですよね、ムウさん、裸ですし……」
「うわ、ホントだ」
マーレが頬を赤らめている。
「そっか……ムウさんって……」
「あんまり見ないでよ、手術跡が……あれ、そういえばサンドに腹を突かれた気がするんだけど……」
傷が塞がってる。
叔父さんがやったのか?
とか疑問に思っていると、叔父さんが部屋にやってきた。
「目を覚ましたか」
「うん」
「マーレ、悪いが2人で話がしたいから、部屋から出てくれ」
はい、と返事をして、マーレが出ていった。
なんだよ、改まってサシの会話なんて。
「お前、相当長いことオーガの力を覚醒させたな」
「あぁ〜、うん。完全覚醒させたかな」
「無茶しやがって。腹の傷はその力で塞がった、俺じゃない」
「へー、意外とデメリットないね。筋肉痛も、想像より辛くないし」
「そりゃ、一ヶ月寝てたからな」
「え」
一ヶ月!?
そんなに……。
「あ、ていうかキューネは!? ナナルも!!」
「2週間前に目覚めたよ」
「助かったんだ。さすが叔父さん。でもどうやって?」
「……まあ、いろいろとな。ったく、3人も同時に手術したのは初めてだ」
「3人?」
「あの青い髪の女の子も、お前の友達だろ?」
青い髪って……。
まさかミント?
あ、あいつも助けたんだ。
うーん、あいつに指示を出していたサンドは死んだし、もう物騒なことはしないのかな?
とはいえキューネたちを殺そうとしたしなあ。
「キューネはどこ? 会ってくる」
「さあな。……あと、しばらく朝の仕事はしなくていいぞ」
「ラッキー、でもなんで?」
「お前の体はまだボロボロだ。日常生活なら問題ないが、無理はさせられない。最低でもあと一週間は過度な運動をするな」
へー、案外優しいところあるじゃん、叔父さん。
「それと、オーガの力は絶対に30秒までにしておけ。あれは人の肉体には耐えきれん。今度またそれ以上覚醒させたら、次は助けんぞ」
「叔父さんは腹の傷を治してないんでしょ?」
「わかってねえな。危うく村人全員虐殺するところだったぞ、お前」
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キューネは家にいた。
自身の部屋でのんびり本を読んでいた。
「ムウ!! 起きたんだね!!」
「まあね」
それからまあ、「よかった」とか「叔父さんに感謝」とか、適当に喜びを分かち合ったあと、彼女のベッドに腰掛けた。
「珍しいね、読書なんて」
「ムウの叔父さんが、しばらく無茶するなって」
「同じこと言われたよ。あれからどうなったの? もろもろ」
「ナナルはチギトに帰った。サンドのことは、ドラゴリオンさんとママルさんが管理委員会に報告したらしいわ」
「ママルさんも? ふーん。ミントは?」
「さあ? 私もずっと家にいるし、ドラゴリオンさん忙しそうであんまり会えてないから、詳しくは知らない」
「そっか」
そのうち判明するか。
サンドの件、ミントの処遇、どう対処されるのだろう。
面倒なことにならないといいけど。
キューネは本を閉じると、自分の隣に座った。
「ありがとね、助けてくれて」
「気にしないで」
「私、はじめてだった。人と人の、本気の殺し合い」
「最初で最後になるといいね」
殺し合い、か。
そっか、殺したんだよな、サンドを。
不死とはいえ、心臓も脳もないのなら、死んだも同然だ。
「マーレから聞いたよ。私がやられたとき、ムウ、すっごい怒ったって」
「そりゃあ……」
なんか小っ恥ずかしいな。
「私がランドに負けたときも、ムウは怒ったでしょ。あのときから、ムウが怒るの、よく見るようになった気がする」
「それほどクズと関わる機会が増えたんだよ」
「本当にそれだけかな?」
「へ?」
「ムウ、変わったよね。昔のムウなら、そもそもサンドのところに駆けつけることもしなかったと思う」
「……」
そうかも。
確かに、キューネたちを心配したり、クズに怒るなんて、しなかったかもしれない。
これ、誰にも言えない秘密だけど、実はサンドと戦っているとき、ドキドキしていたんだ。
恐怖からくるものじゃない。オーガを覚醒させる前から気持ちが高ぶっていた。
あんなに強いやつを倒せるのか、試したかった。
だから、逃げなかったんだと思う。
でも、そのせいでキューネは死にかけたし、叔父さんにも迷惑をかけたから、反省しなければいけない。
「なんか、自分が自分でなくなっていく感じ」
「それが、成長なんじゃない?」
「……いいこと言うじゃん」
「ふふふ」
成長か……。
サンドは夢みた。世界の頂点を。
そんな彼を、自分は倒した。
真経穴と、オーガの力によって。
もしかしたら、マスターギルドって組織の連中も倒せるのかな。
ママルさんとか。
ダメだ。叔父さんにも注意されたじゃないか、もう無茶するなって。
けど……。
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