マスターギルド編

第43話 目覚めの予感

 目を覚ましてから数日後、ドラゴリオン親子がお見舞いにきてくれた。


 2人からの情報によると、サンドが行った犯行が公になり、ギルド管理委員会はてんてこ舞いらしい。


 事実をもみ消されないか不安だったが、ナナルに手を出したのがマズかったようだ。

 マスターギルドの2位、ママルさんがかなりキレたらしく、委員会本部に乗り込んだとのこと。


 ちなみに、ミントは共犯者として収監されているそうだ。

 ちょっと残念。かなりクセが強いけど、気が合ったのに。


 そしてーー。


「おいムウ、お前に客だぞ」


 叔父さんに呼ばれ、部屋を出る。

 玄関に向かうと、そこには、


「あは☆ おはよー、ムウちゃん」


 そのママルさんがいた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「今度は何しに来たんですか?」


 家ではなんなので、お馴染みの小川まで移動する。

 相変わらず、ママルさんはニコニコ不気味に笑っていて感情が読めない。


「んー、お礼を言いたくて」


「ナナルは元気ですか?」


「うん。まだ戦ったりはできないけどねー。ムウちゃん、いろいろありがとお」


「まあ、はい」


「ふふふ」


 それだけかよ。

 別に感謝なんかしなくていいのに。


 じゃあ適当に話を切り上げて帰ろうかな。


「ねー、ムウちゃん」


「なんですか?」


「私と戦ってみる?」


「え」


「私に勝って、マスターギルドに入りたくない?」


「……」


 いきなり何を言い出すんだこの人は。


「サンドの妹がね、マスターギルドを退団して席が空いてるの。そこはナナルちゃんに座って欲しいから、ムウちゃんは私と入れ替わりってのは、どうかなー」


「マスターギルドに入る気なんてありませんし、ママルさんと戦いたくもありません」


「ふふふ、本当に?」


「本当です」


「どうかなー」


 なんだよ、その言い方。

 まるでこっちの本心を見抜いてるみたいな。


 戦いたいわけない。

 マスターギルドなんぞに入って何の得がある。


「強い人たくさんいるよー」


「そうですか」


「試してみたくない? 自分の限界と、その先」


「……別に」


「あはは、ムウちゃんわかりやすーい」


「はあ?」


 まったく、この人と話していると疲れる。

 それから雑に話を終わらせて、家に帰った。




 その日の晩。

 せっかくマーレが夜食を用意してくれたのに、いまいち味に集中できないでいた。


 ママルさんのことが頭から離れない。


 ママルさんは、どんなスキルを持っているんだろう。

 どれくらい強いんだろう。


 マスターギルドには、どんな人間がいて、どんなクエストをしているのだろう。


 通用するのか、自分の力は。

 真経穴は。


 そんなことを、考えてしまう。


 そもそも、マスターギルドとはどんな組織なのかもよくわかっていない。

 もしかしたら、思いのほか楽しくて愉快な所なのかも……。


「ねえ、叔父さん」


「なんだ」


「マスターギルドって、どんなとこ?」


「……入りたいのか?」


「別に」


「どんなとこ、かあ。……空気悪いぞ、みんな腹に一物抱えているからな」


「ふーん」


 なんだ、じゃあやっぱりいいや。


「叔父さんなら、倒せる? マスターギルドの誰か」


「相手によるな」


「へー」


「ただ、あそこは間違いなくトップクラスの実力者が揃っている。強いぞ、かなり。少なくとも、俺が若い頃の時代はな」


「……」


「お前、まさか……」


「ごちそうさま」


 自室に戻って、さっさと寝よう。

 明日も早いからね。


「おい、ムウ」


「なに」


「ちょっと、薬の材料を採ってきてくれ」


「え、いまから?」


「明日の朝は行かなくていいから」

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