第9話 覚悟を決めろ!!

 今朝もキューネと共にモンスターを狩り、昼過ぎまで二度寝した。

 キューネはそのままドラゴリオンとギルドの仕事をしに行っている。


 早起きしてこっちの手伝いまでしているのにね。

 偉いよ。本人曰く、「たくさん経験を積みたいから」らしい。

 キューネはまだ未熟だけど、汎用性の高いスキルを持っているから、確かに経験を積めば強くなれるだろう。


 立派なギルド戦士になってほしい。

 身体を壊さないといいけど。


「ふわぁ、さてと、釣りでもしにいこうかな」


 一瞬、マーレの顔が脳裏を過ぎった。

 想像できないような苦労をしているであろう少女の顔が。


 助けてあげるべきだったか。

 いや、関係ない。自分はヒーローじゃないし、なるつもりもない。

 面倒事はごめんだ。


「……」


 しょうがないなぁ。

 釣りをしながら、少し考えてみるか。

 単にベゲリンを痛めつけたって、状況が好転するとは思えないし。






 山の麓に流れる川に腰を降ろし、竿を振る。

 今日は日差しが心地良い。


「おい」


 誰かが話しかけてきた。

 腰に刀を指した小太りの男だった。


「やっぱりここにいたか。村の人に聞いたら、暇なときは釣りをしていると聞いたんだ」


「だれ?」


「名乗るほどのものじゃない。ギルドの関係者だ。……管理書、まだ持っているんだろ?」


 あ、そうだった。

 返さなきゃだった。

 あぁ〜、なんでこうも忘れっぽいんだろう。


「ごめん、家にあるんだ」


「マジか。まあいいや、聞かせてくれよ、ランドを倒したときのこと。俺、あいつのこと嫌いだったんだ」


 とりあえず立ち上がる。









「マーレ、足音には気をつけているみたいだが、気配を消しきれてないよ」


 小太りの男の顔つきが変わった。

 ギョっと、目を見開いている。


「まるで飢えたゴブリンみたいにビンビンだよ。……言ったよね? 次は容赦しないって」


 ナイフが落ちた音がする。

 鼻水をすする音がする。


 振り返ると、スキルを解除したマーレが立っていた。


「やっぱり、私には無理です……人は殺せません」


 となると、この小太りがベゲリンか。

 ベゲリンの顔がみるみる赤くなっていく。


「せっかく気を引いてやったのにこのクソ使えねえ奴隷がよ!! ユクイエバ人は平気で人を食う連中じゃねえのかよ!!」


「わ、私は……そんなことしたことありません」


「黙れ!!」


「もう許してください。それ以外のことはなんでもしますから。自由が欲しいなんて願いませんから、それだけは……」


「いいから殺れ!! できねえならお前が隙を作れ!!」


「うぅ……」


 見てられないな。


「勘弁してあげなよ」


「くっ、黙れ!! お前はここで俺たちに殺されるんだよ!!」


「自分の力で挑んでくればいいじゃん。マーレには無理だ」


「ふんっ、俺の奴隷に同情しているのか? そいつはユクイエバ人だぞ」


「だから?」


「そいつの先祖は人を食っていた。罪深く汚れた一族なんだよ。人間じゃねえ!! 俺がどう扱おうが俺の勝手だろ!!」


「人間でしょ、どっからどう見ても」


 ギルドってのはこういう人間ばっかりなのか?

 ドラゴリオンも苦労していたんだろうな。


 マーレに近づく。

 殺されるんじゃないかと腰を抜かしている彼女の肩を、ポンと叩いた。


「君はいくらで買われたの?」


「に、20ギルです」


 川魚5匹分かよ。


「ベゲリン、この子を50ギルで買う。だからもう解放してあげな。ギルドリーダーの管理書も渡すからさ」


「勝手に決めるな!! そいつは俺の奴隷だし、お前は殺す!!」


「なんで殺されなくちゃいけないのさ。ランドの復讐?」


「ランドの腰巾着をアッと驚かせるためにだ!!」


「はあ?」


「ランドを倒したお前を殺す。俺の評判はうなぎのぼりだろうが!!」


 なるほど。

 てっきり部下による復讐なのかと推察してたけど、そういうパターンもあるのね。


「くだらない」


「お前の偽善のほうがくだらないねえ。可哀想なユクイエバ人の女を救って気持ちよくなりたいのか? どうせ性奴隷にでもするんだろ。犬とやる方がまだ清潔だぜ」


「しないよ、そんなこと。マーレの出生なんてどうでもいい。彼女が実際に人を食べていたとしても、実は男だったとしても、どうでもいいし、関係ない。興味がない」


「ちっ、噂通りつまんねー奴だ。癪に障るぜ」


 また言われた。

 そんなにつまんねーのかな。

 見栄のために人を殺そうとする人間のほうがつまんないと思うけど。


「マーレは売らない。ユクイエバ人に自由なんぞ与えない。永遠にコキ使って、生まれたことを後悔しながら死んでもらう。それが償いだ」


「あんたこそ、自分より弱い立場の人間をいじめて気持ちよくなってるんじゃないの? 日頃の鬱憤晴らしにしてさ。先祖がどうの、罪がどうのなんて、ただの言い訳」


「だから?」


 ……いい加減腹が立ってきたな。


「開き直ってんじゃねえよカスが」


「あ?」


「マーレはこれまでお前に尽くしてきたんだろ? 愚直に、精一杯さ。少しは情をかけてやりなよ。肝心なのは血じゃない。彼女自身の中身だ」


「……」


「マーレもだ。ユクイエバ人だからなんだ。先祖がなんだ。そんなもんに縛られて生きるな。本人が正しく生きている限り、誰であろうと、幸福になる権利があるはずだ」


「でも、わたし、どんくさいし……」


「幸せを、自分の手で掴むことを諦めるなよ。誰かに人生を委ねるな。どうせ辛い人生なら、勝ち取る苦しみを耐え続けなよ」


「ムウ……さん……」


「決めるのは君だ。行動するのも君だ。立ち止まるか、戦うのか」


 少女の瞳が潤みだす。

 強く拳を握り、こちらを見上げる。


 一方のベゲリンは、


「説教臭えこと抜かしてんじゃねえ。そろそろ死ねや!!」


 殺意が膨れがって破裂しかけていた。

 鬱陶しいな、望み通り戦ってやるか。


「殺せるもんなら殺してみろよ、三下さんした




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※あとがき


子供の頃、お気に入りの服に釣り針が引っかかってガチ泣きしたことがあります。

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