第48話 不安

 ゴクール山でオーガを討伐するに際し、叔父さんはオーガの力の使用を許可してくれた。

 もともと、幼い俺に移植されたオーガは、ゴクール山で発見されたオーガらしい。

 思わぬ帰省だ。


「もう、山脈には入ったか」


 地元の山とは明らかに違う。

 緑なんてこれっぽっちもない。

 巨大な岩の群れ、といった具合いか。


 谷を下り、さらに奥へ。

 もうじき、夜になるだろう。


「ん、水の音……滝か」


 ちょうどいい、滝壺の辺りで野宿でもしよう。

 少し速歩きをして、滝の下までたどり着く。


「……ぷはっ、うめー」


 喉を潤すついでに、軽く顔を洗う。

 瞬間、


「なんだ……」


 気配を感じる。

 悍ましい、禍々しい気配。


 耳を済ませる。

 滝の音に紛れて、足音が聞こえる。


 恐る恐る振り返れば、そこにはーー。


「こいつか」


 大きな人型の怪物、オーガがいた。

 紫色の肌。筋骨隆々な肉体。額の角。牙。

 身長は……5メートルはあるか。


 あの胸部、メスか?

 そういえば、出発前に叔父さんが言っていたな。


 ーー俺の匂いを感じたら、たぶん死にもの狂いで襲ってくるぞ。


 それってさ、俺に移植されたオーガの赤ちゃんとやらはさ、


「ゥガアアアアアアアアア!!!!」


 叔父さんがこいつから取り上げたってことかよ。

 オーガが襲いかかってくる。

 速いっ。ナナルと同じくらいに。


 大振りな拳を振るってくる。

 合わせて回避し、接近して、内臓を殴りつける。

 一撃必殺の真経穴だ。


 なのに……。


「ちょっと腹が痛いくらいかよ」


 多少怯んだ程度だ。

 たぶん、威力が弱くてきちんと刺激できなかったのだろう。


「なんつー耐久。スキル頼りのザコよりよっぽど手強いぞ、これは」


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※三人称です


 ムウがゴクール山へ出かけている間、キューネたちサマチアギルドはクエストを遂行していた。


 スライムを8体討伐する、簡単な仕事である。


 全員揃っての久しぶりのクエストなので、ちょっとしたウォーミングアップのようなものだった。


 それから無事に任務を終えて、いつもの酒場で休息を取る。


「や〜ん、わたしもムウ様と山に行きたかった〜ん」


「こらリナリオン、ワガママ言うんじゃない」


「パパはわたしとムウ様がイチャイチャしてほしくないだけでしょ」


「そ、そんなことは……」


 と、そこへ。


「集まっているわね」


 元チギトのギルドリーダー、ナナルがやってきた。

 全員の目が見開く。


「ど、どうして君が……」


「ムウにようがあるの。どこ?」


 キューネが首を横に振る。


「私たちも知らないの」


「そう」


「噂で聞いたんだけど、あなた、マスターギルドになったって」


「……こんな形で入団するつもりはなかったけどね。まあ、まだ顔合わせもしてないけど」


「おめでとう、でいいのかな?」


「どうも」


 元々、キューネはナナルが苦手であったが、いまはそうでもなかった。

 共にサンドと戦った仲。とくに中盤ではお互いにスキルを組み合わせてサンドを追い詰めた。

 その経験が、彼女たちの距離を縮めたのだろう。


「どうしてムウを捜しているの?」


「質問しに来たのよ。なんで姉さんと戦うことにしたのか」


「え!?」


「それも知らなかったの?」


 ドラゴリオンも、リナリオンも驚いていた。

 マーレを除いては。


 キューネが問う。


「マーレは、知ってたの?」


「えぇ、まあ。でも、言うなってムウさんが……。私も詳しくは知らないです」


「……」


 ナナルがため息をついた。


「無駄足だったようね」


 それだけ吐き捨てて、ナナルは去っていた。

 まるで嵐のように、静けさだけを残して消えてしまう。


 妙な不安が、キューネを襲う。


 たぶん、あのふたりのことだ、殺し合うわけではないだろう。

 単なる力比べのようなもののはず。


 それなのに、どうしてこうも怖いのだろう。

 どうして気持ち悪いドキドキがするのだろう。


「マーレ」


「な、なんですか、キューネさん」


「他に、なにか言ってた?」


「へ?」


「もしママルさんに勝ったら、とか」


「……いえ」


 嘘をついている。

 マーレは耳にしている。


 もし、ママルに勝ったら、たぶんムウは、サマチアからいなくなる。





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※少し投稿期間が空いちゃいます。

 一週間くらい……かも。


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