第47話 一週間

※三人称です



 満月がナナルの屋敷を照らす。

 その庭先で、ふたりの姉妹が相対していた。


 息を切らしているナナルに対し、姉のママルは汗一つかいていない。


「お姉ちゃん、前より強くなってる」


「えへへ〜、ナナルちゃんだって腕を上げたよお」


「そのわりには、余裕そうだけど、お姉ちゃん」


「あはは〜」


 使用人のメイドからタオルを受け取り、汗を拭う。

 ナナルはふぅ、と一息ついて、姉を一瞥した。


 夜空に浮かぶ満月を眺める姉の顔に、つい見惚れてしまう。


「お姉ちゃん、なんでミントの代わりに私をマスターギルドに入れるの?」


「なんでえ? 入りたかったんじゃないのお?」


「だって……」


「ふふ、ムウちゃんのことお?」


「悔しいけど、あいつの方が強いじゃない」


「ムウちゃんだって入るかもよ?」


「どういうこと?」


 ママルが意味深に微笑む。

 直後、他のメイドがこちらに向かって走ってきた。


「ママル様」


 手に持った紙をママルに渡す。

 ママルがそこに書かれた文字を読むと、


「ふふ、やっぱりい」


「お姉ちゃん、どうしたの?」


「ムウちゃんからのラブレターが届いちゃった♡」


「は!?」


「デートしたいんだってえ〜。えへへ〜」


 反射的に紙を奪い取る。

 そこに書かれていたのは……本当にラブレターであった。



 あなたの言葉や顔が忘れられない。

 会いたい。ふたりで会いたい。

 準備はできています。


 俺を、俺自身を、試したい。



「こ、これは……どういう?」


「だからあ、デートのお誘い」


「えぇ……」


「むふふ♡ ムウちゃんってば積極的ねえ。どうしましょう、ムウちゃんがナナルちゃんのお義父さんになっちゃうかも〜」


「そ、そう」


 改めて文面を読み直す。

 冷静になって考えれば、これは果たし状だ。


 つまり、もうじき戦うのだ。

 自分に勝った男と、自分が憧れる最強の姉が。


 そうか、だからママルは最近さらに強くなったのか。

 こうなる気がして。


「大丈夫だよ。私、勝つつもりだから」


「……」


「私に勝てるのは、ナナルちゃんだけだもんね」


 勝てたことなどないが。


 もし本当にふたりが戦ったら、どちらが勝つのだろう。


 ママルだと信じたい。

 けど、ムウの可能性は計り知れない。

 

 まさかムウは、サンドとの戦いよりさらに強くなっているのか。


 なら、自分は?

 あれから成長した実感は、ない。


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※ここから一人称です。



 朝の狩りを終えて、家に帰る。

 叔父さんからの指示で、朝の素材集めをまた再開することになったのだ。

 もちろん、オーガの力は封じて。


「はい、オークの睾丸3セット」


 叔父さんの研究室のテーブルに、頼まれていた物を置く。


「ごくろう。……遅いがな」


「悪かったね」


「いつだったか、その……マスターギルドの娘と戦うのは」


「来週の予定。もう手紙も出した」


「そうか」


 マーレが走ってきた。


「ムウさん、朝ごはん温め直しました」


「ありがとう」


 叔父さんに背を向ける。

 ダイニングへ移動しようと足を動かす。


「おい」


 叔父さんに呼ばれ、振り返った。


「なに?」


「ゴクール山、行って来い」


「へ?」


「とってこい、オーガの心臓」





 意味がわからなかった。

 なに言ってんだ、この人。


 オーガは……確かに怖い。

 戦うのもはじめてだ。


 だけど、そんなことより、


「ゴクール山まで、急いでも3日はかかるんだけど」


「そうだな」


「往復で6日なんだけど」


「だからなんだ」


「一週間後に俺は!!」


「だから、何なんだ」


 叔父さんの眼力が俺を萎縮させる。


「あそこの山にいるオーガの討伐難易度は……Sってとこかな」


「……」


「そいつを倒した上でマスターギルドの2位に勝ってこい。それくらいできなきゃ、マスターギルドに入ったところで続かない」


「……」


「心配するな、いまのお前ならできる」

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