第12話 隣町チギト

「天気悪いなー」


 今日はあいにくの小雨日和。

 なのにキューネやマーレはギルドの仕事に行っている。


 叔父さんだって、村民の定期検診のために出かけている。


 みんな真面目だなあ。

 さてと、自分はこれからどうしようか。

 釣りって天気じゃないし、積んである本でも読もうか?


 うーん、なんでもいいや、ぼーっとしていよう。


「たたたた、大変よムウ!!」


 玄関の方からキューネの声がしてきた。

 幼馴染みだし、無断で家に上がられることに抵抗はない。


 ドタドタと足音を立てて、寝室に向かってくる。

 しかも一人じゃない。三人? ドラゴリオンとマーレかな?


「大変よムウ!!」


「大変なんだムウ!!」


「大変ですムウさん!!」


 やっぱりこの三人か。

 なんだ騒がしい。

 確かデカスライムの討伐をしているはずじゃなかったか?


「どうしたの?」


「隣町のギルドが攻めてくるんですって!!」


「攻めてくる? 戦争でもするの?」


 ドラゴリオンが代わって説明する。


「僕たちのギルドの人数がどかっと減っただろう? だから乗っ取ろうとしているんだ」


「ふーん。そりゃ大変だ。一緒に頑張っていけばいいじゃない」


「そういうわけにもいかない!! いいかい? 僕たちの街にも魔晶石が取れるダンジョンや、加工に適したモンスターなどが生息している、それらを取る依頼を横取りされたり、利益の何割かを自分たちの街に持っていかれちゃうんだ。街の貴重な資金源が失われるんだよ!!」


 魔晶石とはスキルの発動に欠かせない宝石だ。

 ていうか、いまの説明だと『ギルドの収益が減る』の方が正しいと思うけど。


「他にも色々な魔石がーー」


「わかった、わかったよ。つまり縄張りを荒らされるってことでしょ?」


「そうなんだ!! これまでは両者の勢力が均等だったから退けることができたけど……」


「それで?」


「君の力で奴らをボコボコにできないか?」


「嫌だよ面倒くさい」


「そこをなんとか!! いまの僕らでは、どうにも……」


「無理」


 キューネも頭を下げた。


「頼れるのムウしかいないのよ」


「やだ」


 マーレが土下座までしてきた。


「ムウさん!! どうかお力添えを!!」


「しません。自分たちのギルドだろ? 自分たちで守りなよ。こっちだって忙しいんだから」


「「「いそが……」」」


 なんだその目は。

 三人して眉をひそめて首まで傾げちゃって。


 忙しいの!! ダラダラするのは忙しいの!!


「だいたい、縄張りと言っても、法律で定められているわけじゃないでしょ? サマチアから近いってだけで、区画整理されていない森やダンジョンに誰が入ろうが自由だ」


「それはそうだけど……頼むよムウ!! 僕らだけじゃ……」


「他を当たりなよ」


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 翌日未明、叔父に頼まれて魔石を取りにダンジョンへ潜ることになった。

 なんでも、アレレという魔石が胃腸薬の原料になるのだとか。


 火山の麓にある洞窟からダンジョンに入る。

 地元じゃ有名なダンジョンで、中はかなり熱い。


「ふぅ、ほんと人使いが荒いんだから」


 松明で先を照らしながら進んでいく。

 狭い通路には野蛮なニシキスネークやビッグマウスバットなどが生息して、時々襲いかかってくる。


「えーっと、地下に続く通路は……」


 ダンジョンといえど、散々地元民に開拓されているため、詳細な地図が作成されている。

 設置されたハシゴからさらに下に降りて、色とりどりの魔石が煌めく拓けたエリアに入った。

 あらかじめ設置されている篝に火を灯し、部屋をいっそう明るくする。


「えーっと、たしか」


 壁から突き出た赤い魔石の結晶を発見する。

 あとはこれを掘り出して、小分けにして持ち帰るだけだ。

 とはいえ、一部は壁に埋めておく。ダンジョンに漂う瘴気によって、そこから再生するのだ。


「さて」


 持参していたツルハシを握る。

 何者かの足音が響いてきた。


「ふーん、なるほど、ここの魔石を掘り尽くせば、良い金になりそう」


 肩まで伸びた銀髪の少女がやってきた。

 とうぜん、目が合う。


 誰だろう。


「先客がいたんだ。まさか、サマチアのギルドの人?」


「違うよ」


「そう。でも一人でこんなところに来るなんて、よほどスキルに自信があるのかしら」


「スキルなんて持ってないよ。魔晶石が肌に合わなかったんだ」


「スキルがない?」


 反応からして、ランドのギルドの人間じゃなさそうだ。

 だいたい、そっちだって一人じゃないか。

 スキルに自信があるわけね。


「まさか……この街のギルドリーダーを倒した、スキルを持たないチビって、あなた?」


「チビで悪かったね。確かにランドは倒したけど」


 銀髪の少女が微かに笑った。


「へえ、面白そう。手合わせしてほしいんだけど」


「なんで」


「腕試し」


「こっちは忙しいんだ。だいたい、あんた誰?」


「私はナナル。隣町『チギト』のギルドリーダー」





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※あとがき

ナナル編は少し長めです。

テイストもこれまでとちょっと違います。

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