第13話 ナナル

※まえがき

案の定、今回も後半から三人称です。


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 隣町のギルドリーダー、ナナルがこちらをじっと見つめる。

 放たれる圧は、彼女が臨戦態勢であることを物語っていた。


「あなたの強さ、さっさと見せてちょうだいよ」


「いやだね、面倒くさい。なんでそんなことしなくちゃいけないのさ」


「試したくないの? 自分がどれほど強いのか」


「試したくないね」


「つまんないやつ」


 でたよ、それ。


「私は試したい。試して、手に汗握るスリルを潜り抜け、もっと強くなりたい」


「なんのために」


「それくらいしか……生き甲斐がないからよ!!」


 ナナルが突っ込んできた。


「スキル発動!! ソニック!!」


 速い。

 オーガの目がなければ捉えきれないほどに。


 手刀を構えて突進してくる。

 間一髪、横に逸れて回避した。


「かわした!?」


 速さのスキルか?

 とすればあの足、厄介だ。

 彼女の右足の付け根を蹴る。足の真経穴を刺激して、神経を麻痺させる。


「っ!? 足が……」


「自慢の足は使えない。終わりだよ」


「ふふ、ふふふ、なるほど。どんな技を使ったかわからないけど、噂通りの強さってわけ」


 なんだこいつ。

 まだ戦意を失っていないのか?


「あなたを倒せば、私はもっと強くなれる気がする。そしていずれは、マスターギルドの頂点に!!」


 また突っ込んできた。

 左足の踏ん張りだけでダッシュしたのか。

 しかし愚行だ。

 片足だけじゃ、限界がある。


 また回避する。

 このままだと、ナナルはまともに向きを変えることも、止まることもできずに、転ぶか壁に激突するだろう。


 だが、


「うおおお!!」


 左足一本で急停止し、くるりと反転してまた突っ込んできたのだ。

 なんつーフィジカルだ。


「スキル発動!! エナジードレイン!!」


「なっ!?」


 二つ目のスキル!?


 ナナルが拳を握る。

 近距離型のスキルなのか?

 なんにせよ、あれを喰らうわけにはいかない。


 ナナルの腕を掴んで、今度は左足の付け根を蹴った。


「くっ」


 当然、左足も麻痺させた。

 両足の自由を奪われ、ナナルが尻餅をつく。


「そ、そんな……」


「わ、悪いけど帰るよ。足は五分もすれば動くようになるし、ここらは滅多にモンスターが来ないから、安心してよ」


「私はまだやれるわ。まさかこれが私の全力だと思ってるの? 侮って、油断しただけよ」


 典型的な負けた言い訳。

 でも、事実っぽいから恐ろしい。


 普通、スキルは一人一つだ。

 魔晶石という異物を取り込む性質上、たとえ魔晶石に選ばれスキルを発動できた人間であっても、二つ以上は拒否反応を起こすから。


 なのに、この女は二つ目を発動させた。

 いったいどんな能力なのか、不明だけど。


「リベンジさせて!! 五分後に!!」


「勘弁してくれ。こっちはお使いで来ているんだ。急いでいるんだよ」


「……ちっ。あなた、名前は?」


「ムウ」


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※ここから三人称です。



 キューネとドラゴリオン、そしてマーレの三人は街の酒場に集まっていた。

 ドラゴリオンの頑張りで、どうにか隣町のギルド『チギト』との話し合いまで持ってくることができたのだ。


「ほ、本当に来るの? ドラゴリオンさん」


「た、たぶん」


「怖い人たちだったらどうしよう」


 マーレがぐいっとジュースを飲む。


「合併というか、移籍した方が無難な気がします」


「なんてこというのマーレ!! そりゃ私も考えたけど……少しくらい地元の意地を見せないと。よそ者にギルドを乗っ取られたくないでしょ」


「だって……」


「せっかく嫌なやつらがいなくなったんだから、私たちの手で再建していこうよ!!」


 酒場の扉が開いた。

 団体客だ。

 銀髪の少女ナナルを筆頭に、美しく可憐な乙女たちが連なっている。


 ナナルはドラゴリオンたちに気づくと、見合うように前の席に座った。


「で、どうするつもり?」


 代表して、ドラゴリオンが答える。


「や、やはり吸収されるつもりはない。この街は、地元民である僕らのものだ。モンスターだって、僕らだけで対処できる。……君たちの力はいらない」


「それで?」


「う、受け入れられないなら、武力で決着をつけるのも致し方ない。もともと、ギルド同士のいざこざはそういうものだし。……も、もちろん、代表を出し合っての一対一だ」


「……」


 三人相手によってたかって、ではナナルたちも格好がつかない。

 とはいえ、ナナルは不満だった。

 部下に偵察させたが、ドラゴリオンたちの実力は自分たちのギルドの二軍レベル。

 弱すぎて戦う気すらおきない。


 普通なら適当な部下にやらせるが……。


「ムウを出して」


「え」


「やつを代表にしなさい」


 キューネたちが顔を合わせる。

 なぜムウを知っているのだろう。


「で、でもムウはウチのギルドのメンバーじゃないんだ」


「いいから、あいつにリベンジさせて」


「リベンジ? け、けど本人はやる気なんてないだろうし……」


「他に戦えるやつがいるの? ふふ、まさか、あなた達程度の実力で、私のギルドに挑むつもり?」


 ナナルの挑発に、キューネは顔をしかめた。

 もとより敵わないことは察していたが、ここまで馬鹿にされては我慢ならない。


「だとしたら?」


「ふんっ、ランドが仕切っていた頃はまだマシだったけど、哀れなものね。……じゃあいい。明日の昼、決着をつけましょう。さっさと終わらせてやるから」


 ナナルは立ち上がると、酒場をあとにした。




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※あとがき

キューネって変な名前ですね。キツネみたい。


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