第14話 ナナルの姉

※まえがき

今回はずっと三人称です。

なんと、ムウは登場しません。


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 サマチアの隣にある街、チギト。

 その中心部に、ナナルの屋敷があった。

 広大な敷地をレンガと柵で多い、数人の警備員までつけている。


 ナナルは馬車で帰宅すると、門を潜り、屋敷に入った。

 使用人たちが出迎えてくれる。


 その中に、肌着一枚のだらしない格好をした女性がいた。

 金色の長い髪。

 ナナルに似ているようで、どこか穏やかな表情の女性。


「ママルお姉ちゃん、帰っていたの?」


「だって私が買った家だものー。ナナルちゃんばかり住んでいたら、誰の家かわからなくなってしまうでしょ?」


「お仕事は?」


「あっという間に片付いちゃった。大型ドラゴンの群れといっても、大したことなかったなー」


 ナナルは使用人に上着を預けた。

 姉のママルが、ぐいっと笑顔を近づける。


「ねえねえ、サマチアを乗っ取るんですって? 大胆ね〜」


「チギトのギルドが大きくなれば、もっと仕事の幅が増える。強くなるために必要なの」


「ふふふ、野心家だ〜。はやくチギトなんて卒業して、マスターギルドに入っちゃおうね!!」


 マスターギルドとは、世界規模の依頼をこなす最高峰のギルドである。

 ただ地元の依頼をするわけではない。地元のギルドではどうにもならない異変、世界的に有名な学者の依頼、大陸を脅かす驚異の殲滅など、人類の平和と未来を守り、導く者たちなのだ。


 人数は決まって6人。メンバーには強さや功績に準じた序列があり、ママルは第2位であった。


「うん……」


「どうしたのー? 浮かない顔してえ」


「実はね」


 ナナルは語った。

 ムウという、スキルを持たない人間に負けたことを。


「あいつ、本当にスキルがないのかしら」


「うーん。蹴られた足が動かなくなった、ねえ。サマチアか……」


「なにか知っているの?」


「マスターギルドの1位がね、大昔にサマチアで負けたことがあるんですって。なんでも、敵は真経穴とかいうツボを刺激して、相手の体をコントロールするんだとか。端的に表現すれば……武術ってやつかなあ?」


「まさか……ムウは子供だった。私より年下くらいの」


「肉親かもしれないでしょ?」


 もしその話が本当なら、ムウの実力はいったい……。

 ナナルの全身に緊張が走る。


「大丈夫だよ。ナナルちゃんだって油断していたんでしょ? ナナルちゃんなら大丈夫。武術がなにさ、ナナルちゃんには無敵のスキルがあるもんね!!」


「う、うん」


「いつまでもくすぶってないで、さっさとマスターギルドになろ? ね? はやくナナルちゃんと一緒に仕事したいんだから」


「……うん」


 否が応でも意識する、姉との差。

 ママルが、現在のナナルと同じ17歳のときには、とっくにマスターギルド入りを果たしていた。

 親も、親戚も、知り合いも、みんなママルに期待した。

 それと同時に、ナナルのことは見限っていた。


 姉と違って才能がない、と。


 当のママルだけだ、ナナルをまだ期待し、大切に、愛してくれるのは。

 追いつきたい。隣に並びたい。

 でないと、どんどん姉が遠ざかってしまう気がするから。


「楽しみだな〜。ふふふ、ナナルちゃんがマスターギルドになったら、何位になれるかな〜」


 もし、ママルの期待を裏切ったらどうなってしまうのだろう。

 彼女の心の奥底は、ナナルですら読めない。


 だから、もっと強くならなくてはいけないのだ。

 期待に答えなくてはならないのだ。


「待っててお姉ちゃん。必ずリベンジして、圧勝してやるから」

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