スキルなし、人間性なしのつまんねーやつによるギルド改革 ーー相手が誰だろうがツボを押して無双しますーー

いくかいおう

第0話

 朝、というにはまだ暗い頃に目を覚ます。

 寝巻きから着替えて質素な丸太小屋から出ると、遅れて叔父がやってきた。


「気をつけてな」


 そう言って、何も入っていないペラペラの麻袋を渡してきた。

 空を見上げる。まだ群青色のなかに小さな星々が煌めいている。


 村の外れにある家だから、耳を澄ますと風に揺れる森の木々や、川のせせらぎが聞こえてくる。


「はぁ、めんどくさい」


「朝ごはんの準備をしておくから」


「んー」


「なにがいい?」


「なんでもいい」


「まったく、相変わらず拘りのないやつだ」


 軽くストレッチをしてから、遠方に見える山に向かって走り出す。

 鳥を追い越し、風を追い越し、走り続ける。


 山に入り、さらに山道を抜けて、獣道へ。

 さすがに空は白みがかってきたけれど、森の中はまだ暗い。


 怪しい光が見える。

 松明だ。あれは……。


「ジェイさん」


 叔父の古い友人、ジェイさんだった。


「ん!? ム、ムウか? 何してるんだこんなところで」


「そっちこそ」


「実は……妻との思い出の指輪をこの辺で落としてしまってな。バレる前に見つけ出そうとこんな時間に」


「ふーん」


「で、お前は?」


「叔父が薬の材料を取ってこいって」


「お前が!? そういうのはギルドに頼めばいいだろう。なのによりにもよって、スキルのないムウに頼むとは……」


 ギルドに頼むとお金がかかるから嫌なんだって。


「わかっているのか? この辺は危ないモンスターがウヨウヨいるんだぞ?」


「でも、ジェイさんだって指輪を探しにきてるじゃない」


「バレたらどのみち妻に殺されるからだ!!」


「奥さんを殺人犯にするくらいならモンスターに食べられたほうがマシってこと?」


「……お前も結婚すればわかる」


 へえ。

 大変だなあ、結婚生活って。


 いまいちよくわからない。

 なんで結婚なんかするんだろう。


 モンスターみたいに怖くて強い奥さんと一緒に暮らして、楽しいのかな?

 たとえ誰かを好きになったとして、なんで同じ家で生活しようと思うんだろ。


 ……あ。


「だいたい、お前は背が低くて力もないじゃないか、万が一の時には逃げることすらーー」


「ジェイさん、静かに」


「へ?」


 囲まれている。

 気配からして、中型モンスターが5体か。

 ジェイさんも警戒しだす。


 彼が松明の明かりを頼りに辺りを見渡していると、2メートルほどのオークが姿を現した。


「ひぃ!!」


「ちょうどいい、オークの肝が欲しかったんだ」


「な、何言ってる!! あのサイズのオークじゃあ、街のギルドが総出でかかってやっとーー」


「ジェイさん」


「な、なんだ!?」


「危ないから伏せていて」


「バ、バカ!! はやく逃げないと!!」


「……まあいいや、伏せなくていいから、じっとしてて」


 それから5分くらいして、すべてのオークを倒し終えた。

 適当に一匹選び、短剣を向ける。

 腹をかっさばいて肝を取るために。


「ム、ムウ……」


「あ、ジェイさん。怪我はない?」


「お前、スキルはないはずなのに、いったいなにを……」


「あれ? ジェイさん、あそこに落ちてるの指輪じゃない?」


「え? あ、あぁ」


「よかったね、ジェイさん」

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