第5話 ランドとの決着

「けっ、調子に乗んなよ。いけ、コチン」


 ランドが呼ぶと、坊主頭の男が前に出た。

 誰だ? こいつ。


「こんなガキ、俺が倒してやりますよランドさん!! スキル発動!! 硬化!!」


 コチンの体がみるみる黒く染まっていく。

 日の光を反射し、黒光りしているさまは、まるで……。


「俺のスキルは鋼鉄化!! この強固な体を傷つけられるものか!! さらに!!」


 コチンはギュムっと屈んで丸くなると、坂道を転がる玉のように高スピードで接近してきたのだ。

 なるほど、こっちの戦術を学習して対策を練ってきたわけか。


 間一髪、肉鉄球攻撃を回避すると、ランドが爆笑した。


「ガハハハ!! どうすることもできねえだろ!! 鋼鉄相手じゃツボを押すことも、脳震盪を起こすこともできねえ!!」


「……舐めるなよ」


「は?」


「経穴は、人の弱点になるだけじゃない」


 右手五本の指で、自分の胸の中心部にある経穴を刺激する。

 心臓がドクンと跳ね、徐々に鼓動が速まっていく。

 反対に、肺はキュッと締め付けられて呼吸機能を失った。


 幼い頃、叔父によってオーガの内蔵や部位を移植されてから身につけた、真経穴以外のもう一つの力。


 自分の真経穴を刺激して、意図的に生命の危機を引き起こすことで、オーガの血肉に眠るパワーを呼び覚ますのだ。

 むろん、長時間使うと本当に体が乗っ取られてしまうので、三〇秒。

 三〇秒間だけしか、経穴の効果は持続しない。


 キューネがぼそっとつぶやく。

 蚊の羽音のように弱い声でも、いまなら聞き取ることができる。


「ムウ、目が赤く……」


 肉鉄球がくるりと反転し、再度迫ってきた。


 それをゴムボールのように軽く蹴り飛ばした。

 ランドの目が見開く。


「なにっ!?」


 今度はこちらから仕掛ける番だ。

 跳躍し、寝転がったコチンに馬乗りになる。


「ど、どこからそんなパワーが……」


 いまなら力もスピードも、常人を遥かに凌ぐ。


「む、無駄だ!! 俺の体は鉄のように硬い!! ツボを押すことなんか……」


 腕力が増したいまなら、たとえ鉄の皮膚で守られていようが関係ない。

 まず腹を一発殴る。


「ぐおっ!!」


 さらに両太ももの外側を押し、続けて二の腕の経穴を刺激する。


「お? おおおお??」


 コチンはピンとまっすぐ体を伸ばすと、上半身を起こしたり寝かしたりを繰り返した。

 腹筋を鍛えるときの、あれだ。


「な、なんだこれ!! と、止めてくれええ!!」


 残念ながら、こいつは二度と自分の意志で体を動かすことができない。

 永遠に、この反復運動をし続けるのだ。


 ぷはぁ、と息を吐いてオーガの力を眠らせる。


「スキルがなくても、腹が固くなるね。よかったよかった」


「う、うおおおおお???? た、助けてくれ、は、腹が痛いぃぃ!!」


「さて……」


 次はランドだ。

 ランドのやつめ、腰を抜かしてガタガタと震えていやがる。

 作戦が水泡に帰したんだから、こんなもんか。


「お、おい!! 誰か!! 誰かあいつを止めろ!!」


 別の手下が出てくる。

 スキルを発動し、1メートル前後の子供のオークを召喚した。


「先日、ランド様が一対一で倒した中型のオークです!!」


「おぉ!! 捉えておいたのか!! さすがだ!!」


 中型? 小型だろ。

 だいたい、オークなど召喚してなんになる。

 オークとオーガ、一文字違いだけど実力は雲泥の差だ。


 襲いかかってきたオークの腹部を突き、内蔵にダメージを与えて気絶させる。

 モンスターの真経穴だって学習済みだ。


「終わりか? ランド」


「そ、そんなあ!! な、なんでこんな、スキルもないガキに!!」


「ランド、死に方を選べると思うなよ」


「ま、待ってくれ!! こ、これ!!」


 ランドが懐から紙切れを取り出した。


「ギルドの管理書、つまりリーダーの証だ!! これを、これをやる!!」


「はぁ……哀れだな」


「くっ!!」


「もはやお前はギルドのリーダーですらなくなる。しかもスキルのないつまらない人間に負けて……お前にいったい何が残る?」


「い、命だけは……」


「無様だな、楽にしてやる価値もない」


「み、見逃してくれるのか!?」


「望み通り生かしておいてやるよ。だが」


 ランドに近づく。


 管理書を奪ったあと、まずは足を動かせないようにした。

 手を動かせないようにした。

 喋れないようにした。


 その他言語能力を奪った。

 五臓六腑の機能を低下させ、ついでに味覚も消滅させた。


 昨日とは違って、一時的ではない。

 ずっとだ。

 もう二度と、イキることは不可能だろう。


「視力と聴力だけ残してやる。これからお前は嫌というほど味わうだろう。横柄な性格のくせに情けない負け方をしたことを蔑む、みんなからの嘲笑を。邪悪な笑みを」


「あ、あう……」


「どうせ相当恨みを買っているんだろ? お前を嫌う者たちはここぞとばかりに逆襲し、いずれ部下もお前を裏切る。その先にあるのは、孤独だ」


「……」


「お前はもう、なにもできない。すべてを失い、希望を語ることも、誰かを見下すことすらできない。喜びも、幸せも感じない。生き方を選べず、野良犬の糞より価値のない生き物になる。……そうだ、ついでに肛門に力が入らないようにしてやろう。常に汚物が垂れ流しだ」


「う……あ……」


「つまんねー人間になったな、ランド」





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※あとがき

なんでランドという名前なのか。

たまたま夢の国のCMを観たからです。

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