第16話 ナナルとの再戦
※三人称です。
翌日の昼、フォーの村にある岸辺にて、キューネたちとナナルらが顔を合わせた。
キューネ、ドラゴリオン、マーレに対し、相手は5人。
とうぜん、一部のギルド幹部だけである。
全員で来るほどでもない、ということなのだろう。
苛立ちを隠せないナナルが、ぶっきらぼうに告げる。
「誰が出るの? さっさとしてよ」
キューネたちが円になる。
「私がいきます」
「待て、僕が行く」
「でも」
「僕は副リーダーだ。それに、戦闘経験は君らよりはある。ギルドの行く末を、君たちに任せるわけにはいかない」
マーレが不安げに眉をひそめた。
「で、でもドラゴリオンさん、いつも後援担当じゃないですか……」
「僕はこれでも、長年このギルドに尽くしてきたんだ。僕の手で、終わらせてくれ」
彼の言葉に、キューネの目頭が熱くなる。
本当に、サマチアのギルドは乗っ取られてしまうのだろうか。
ふと、周りを見渡す。
もしかしたら、なんて期待は儚く散る。
やるしかないのだ、自分たちで。
「ねえ、まだなの?」
「僕が行こう!!」
ドラゴリオンが中心に立つ。
ナナルの隣りにいた長身の乙女も、前に出た。
ほんのり、ドラゴリオンに希望が見える。
戦うのはナナルじゃない。舐めているのだろうが、これはチャンスだ。
ナナルがため息をつく。
「下がって、やっぱり私がやる。一瞬で終わらせて帰りたいもの」
ドラゴリオンの希望が崩れ落ちた。
「さあ、はじめましょうか」
「こ、こい!!」
「スキルはつ……」
瞬間、ナナルの目が大きく見開いた。
何事かと、ドラゴリオンが息を呑む。
自分を見ている? 違う、もっと後ろを眺めている様子だ。
いったい、なにを見ているのだろう。
ドラゴリオンが振り返る。
つられてキューネも、マーレまで。
そこには、
「ごめん、遅れた」
サマチアギルドの救世主、ムウが立っていたのだ。
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※ここから一人称です。
ギリギリ間に合ったようでよかった。
到着したことにみんなが気づくと、まず真っ先にキューネが走ってきた。
「ムウ!? どうして!?」
「戦うよ。いまだけギルドに入る」
「な、なんで……」
「ていうか、まだギルドの管理書はこっちが持ってるし。臨時の代表ってことで」
「ムウ……」
「先に言っとくけど、暇つぶしだから」
「暇つぶし? 本当に?」
「暇つぶしです!!」
「ふふふ、ムウ〜!!」
うがっ、なんだよ急に抱きついて。
「うぅ……結局ムウが来てくれて、ホッとしているよわたし〜」
「気にしないでよ」
続けてマーレとドラゴリオンさんも近づいてきた。
「ムウさん!!」
「マーレ、今日の晩飯、叔父さんは多めにしといて、いろいろ急いでくれたから」
「は、はい?」
「さて」
足を動かす。
前へ進む。
ナナルの整った顔立ちが、狂気で歪んだ。
「ふふ、ふふふ、待ってた。あなたが来るのを、心から!!」
「そりゃどうも」
「私はいずれマスターギルドに入る。あなたはそのための踏み台。おかしな武術なんて返り討ちにして、すぐに頭を垂れさせてやる」
「へえ、怖い怖い」
武術? 真経穴のことか。
にしても嬉しそうだな、あいつ。
戦闘狂ってやつなのかな。
マスターギルドとやらに入ると、なにか良いことでもあるのか?
まあいいや、『暇つぶし』なんだから。
ゆる〜くやるさ。
ナナルが短剣を取り出す。
なるほど、あれがナナルの得物。
最初から本気で来るのか。
「スキル発動!! ソニック!! エナジードレイン!!」
来た。
高速の接近攻撃。
しかもいきなりスキルを2つも発動しやがって。
けど大丈夫、目で捉えてる。
オーガの瞳は、人の動体視力を遥かに上回るのだから。
ナナルが間合いに入った。
また回避して真経穴を突いてやる。
「ん?」
ナナルが下がった。
距離を取ったのか?
さらに後ろに回り込んでくる。
くるくると、こっちの周囲を走り回り始める。
高速移動を利用しての撹乱か。
攻撃のタイミングを悟らせないのが狙いだろう。
面倒だな。
それから数秒、ナナルは走り続けて……。
「ッ!!」
横から突っ込んできた。
こっちの首を狙うように、右手で短剣を向けてくる。
もちろん身構える。
ナイフを払って一発お見舞いしてやる。
だが、ナイフで切りかかる前に、彼女の動きが一瞬止まった。
強く握った左の拳を前に出してくる。
くそ、右手の短剣はフェイントか。
最初から、左手で腹を殴るのが狙いだったのか。
防御は間に合わない。
なら。
ナナルの拳が直撃する。
腹に鈍い痛みが走る。
速さが乗ったなかなかのパンチ。けれど、耐えきれないほどではない。
ナナルの攻撃に合わせて、こっちも人差し指と中指で彼女の胸を突いた。
だけど……なんだ? 手応えが浅い。
というか、妙に力が入らない。
ナナルが一気に距離を取った。
苦しそうに跪き、吐血する。
「くっ」
「本当はしばらく心臓を止めるつもりだったんだけど……浅かった」
「でしょうね。ふふ、まるで威力が死んでいたわ」
原因を知っている言い方だな。
もう一つのスキル、エナジードレインか。
殴ったときに、エネルギー的なもんを吸われたのだろう。
「ふぅ、ふぅ、気をつけさえすれば、怖くないわね、真経穴とやら」
「なんで知ってんの? 真経穴のこと」
「別にいいでしょ。代わりに私も教えてあげる。エナジードレインは、触れた相手の活力を奪う。触れるだけで充分なの」
通りで、腕に力が入らないどころか、さっきから若干足が震えるわけだ。
ナナルが殴ったときだけじゃない。
こっちが胸を突いたときにも、発動したんだ。ドレインが。
攻撃をしても、受けても、触れたら問答無用でエネルギーを奪うか……。
おまけにあの速さ。
そりゃ強さに自信があるわけだ。
「しょうがない、ちょっと本気出すか」
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※あとがき
ナナルとのバトル、次で決着です。
もしかたらムウは負けちゃうかも。
不安だなあ。勝てるかなあ。勝ってほしいなあ。
でもナナルちゃん、強そうだしなあ。
うーん、心配。
応援よろしくお願いします。
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