第50話 バルバラ
そこからコンテストは順に進んでいった。
まずは鱗や尾ひれなどのクオリティ審査。
髪や肌や目の美しさ、バランス……
実に細かく点数を付けているのは人魚特別審査員たち数名と、自分たち観客にも投票券がある。
しかし浪曼は、誰もが同じくらい美しく、そこにレベルの差は全くないと本気で思っていた。
一体どうやってあの人たちは審査を……
そう思いながら、物凄く真剣な顔をしている審査員たちをちらりと見た。
「うーん…とりあえず僕も、バルバラちゃんに投票するよ」
「当たり前だろ!浪曼には開業手伝ってもらうんだからな!」
こうも難しいコンテストだと、もしかしたら皆こんなふうに知り合いとかを贔屓して投票しているのかもと思った。
そうして最終審査項目の、「歌」になった。
自分の好きな曲を自由に歌う形式らしい。
人魚は歌が上手いという御伽噺の伝説は有名だ。
確かその歌声で舟人を誘い、海に引きづり混むなどというのも聞いたことがある。
やはり想像通り、あまりの美声に目眩がするくらいだった。
そして当然その素晴らしさにはどの人魚も大差ない。
「いやぁ…外見も歌も皆パーフェクトなんて……こんなに難しい競い合い初めてだよ」
「いやバルバラの歌はすごいぞ!オイラあいつの歌に適う奴はいないと断言できる!」
そんなにドヤ顔で断言できるとは大したものだ。
浪曼は驚きつつも、これ以上の歌声を想像できなくて半分疑っていた。
しばらくして、ついにバルバラの番になった。
〜♪
会場には小さなざわめきが起こった。
それほどまでに、バルバラの歌声は甘美だった。
もともとの美声と、音の強弱と高低音、これがまさに、"歌が上手い" ということなのだろうと。
終わってから、今までにないほどの拍手が起きた。
「すごい……今まで生きてきてあんなに綺麗な歌聞いたことないよ」
「だろ?去年のランク外が悔しくて、ここ1年間毎日練習させたんだぜ!」
「まっ、毎日?!」
そんなに努力したんなら、優勝しなくちゃだよなぁ……
毎日何かを続けることができる人なんて、実はそう居ない。
「ねぇ、バルバラちゃんがこのコンテストを頑張ってる理由って何かあるの?」
「あぁ。友達が欲しいんだと。」
「え?友達……?」
「言ったろ。あいつぁ友達がいないんだと。だからこのコンテストでより多くの奴に認められれば友達ができると思ってるらしいぞ」
なるほど……じゃあ昔の自分と同じだ。
憧れや尊敬の想いが、友達になりたいという想いに変わる場合は確かに多い。
「気持ち、凄くわかるなぁ。僕も、結局誰かに構って欲しくていろんな化学賞にトライしてたみたいなもんだし」
「ほーお。でも、やっぱ単純に嬉しいだろ?
たくさんの奴にチヤホヤされるってのは。」
「それは……皆そうだろうね。」
バルバラは顔を真っ赤にしてオドオドとしている。
いざたくさんの人から注目されると、たとえそれが望んでいたことだったとしても実際は戸惑ってしまうものだ。
それが心のどこかで恐ろしくて、だから無意識にそんな未来を避けていたりする。
バルバラもそうなのではないかと思った。
手に入れるということは、失ったり傷ついたりすることが必ず訪れるということだからだ。
なんだか少し、自分に似ていると感じてしまった。
コンテストも終盤となり、いよいよ投票の時間となったが、浪曼は文句無しにバルバラに決めていた。
「パヴェルは誰に決めたの?」
ずいっと覗き込むと、パヴェルは焦った顔をして身を捩った。
「っ!見るなよっ!」
けれど、一瞬だけ見えてしまった。
Aから始まる出場者は、あの子しかいない。
「……ん?」
そのとき浪曼もパヴェルも異変に気がついた。
なんだか自分の体が揺れている感じがする。というより、海水が揺れている感じがするのだ。
「「きゃーーーっ!!」」
突然そこかしこから悲鳴が聞こえてきた。
驚いてそちらの方向を見ると、なんと魚の大群がこちらに向かってくるではないか。
「なぜこんな時期にこんな所へっ……!」
マルチン王も驚愕している。
「全員逃げろ!!人魚は他種族全員ここから避難させろ!!」
皆が勢いよくその場から離れていく。
素早く泳げる人魚たちは、他の種族たちを懸命にサポートしている。
「パヴェル様っ!ご無事でっ!」
「馬鹿野郎!俺はお前の助けなんかなくていいから早く行けよ!」
パヴェルの元に泳いできたアニャをパヴェルが焦ったように引き剥がそうとするが、アニャの泳ぎによって一瞬で連れられていってしまった。
「浪曼!怪我はないか?!」
「うんっ、ありがとうマイク!僕泳ぎが下手だからっ」
浪曼はマイクの背に乗ってその場を離れていく。
するとしばらくして勢いよく目の前に来たのはバルバラだった。
「鯨に追いかけられてるみたいなの!」
「なんだって?!」
「私……行ってくる!」
「おっ、おい!待てバルバラ!!」
マイクが彼女を何度も止めようとするが、凄まじいスピードで行ってしまった。
「マイク!僕らも行こう!」
「っ!!」
マイクは浪曼をここに置いていけないと感じて追いかけることを渋っていた。
それは浪曼にも充分伝わっていた。
「早くバルバラちゃんのサポートに行こう!
君はずっと昔から、その役目なんだろマイク!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます