第32話 コンテスト準備


次の日からさっそく浪曼は人工太陽光作りに励んだ。

寝食を疎かにしてまでそれに没頭していた。

この作業は大変ではあるが、希望が先にあると思うと楽しかった。

それに、今は独りじゃない。

力強い協力者たちが沢山いる。

まず、クルトを中心としたホビット族は天性の職人気質だ。

彼らの協力を得ながら、それは徐々に完成間近になっていた。


なによりあの時急いでメモした、茂光が残したであろう光の文字。

あのレシピ通りにうまくいけば、本当に人工の太陽が作れるはずだ。


それはまず、浪漫とパヴェル双方のペンライトに埋め込まれていた原石を取り出し、さらに浪曼の持っていた父のフォトニッククリスタルと合わせて加工する作業。


皆で協力し、数日後にはそれが完成した。

そしてここからがメインの作業だ。


出来上がったこのクリスタルの中にエネルギーを溜め込まなくてはならない。

その方法はもうすでに、浪曼が思い当たっていた。


「皆のエネルギーが必要なんだ」


「どういうことだ?」


フォトニッククリスタルは特殊な構造を持つ素材で、特定の波長の光を反射したり透過させたりする性質を持つ。

音波を利用してフォトニッククリスタルの構造を変化させることで、光の特性を制御するというものだ。


浪曼は以前、皆の笑い声によって、持っていたフォトニッククリスタルが強く光を放っていたことを覚えていた。


「つまり、皆の幸せの波長だよ。」


ポジティブな波長ほど、より大きな光のエネルギーとなる。


「ふぅん……よく分かんねぇけど、なら祭りにでも参加してくれば?直近だとほら、こないだ言ってたあのクソドラゴンとこのスイーツなんちゃら?

あれに浪曼も参加することになったんだろ?」


「はっ!そうだ忘れてた!!」


没頭しすぎててすっかり忘れていたのだが、思い返せばたくさんの催しに参加することになっていた気が……


「や、やばいな。なんにも考えてないや、スイーツ……何がいいかなぁ……」


「そりゃあお前、モンブラン一択だろ!」


そういえば以前、パヴェルはドラゴン国で行ったケーキ屋でモンブランを頼んでいた。

その時、これは地球のと同じかと聞かれ、少し違うと答えると残念そうな顔をしていた。

確か、地球のレシピを教える約束をしたことを今更思い出した。


「茂が1番好きなもんだったんだよ。でもここのは味が違うんだと。だからお前作ってくれよ、本物を。」


「そういうことだったのか」


まぁ僕もモンブランは大好物だし。ていうか甘いもの全般大好物だ。

モンブランは作ったことがあるにはある。

父が作ってくれたことがあり、それを真似たのだ。1度だけの経験だから、上手くいくか分からないが。


「うん、わかったよ!」


パヴェルのこんな顔見ちゃったらなぁ……

そもそもあの時約束しちゃったし。


ということで浪曼は、最上級に美味いモンブラン作りを研究することになった。


「ねぇまず栗なんだけど……どこの栗が1番美味しいの?」


「栗ぃ〜?そんなのどこのも同じだろ。うちのエリアでも採れるし、他のエリアでも採れるし」


「えぇ…そんな適当な……せっかくなら1番甘くて美味しいやつが……あ……」


そうだ、多分こういうことってパヴェルは専門じゃない。

料理好きのミコワイさんに聞こう。


そうしてその日のうちに、浪曼はミコワイの元を尋ねた。


「ピエトルの言ってた通りだな」


「え?」


「夢ん中で、アンタがうちに来てたんだと。何かを聞きに来たんだろう?」


開口一番にミコワイはそう言った。

どうやらピエトルはいつも通り爆睡中らしい。


「実はその通りなんです!

料理好きのミコワイさんなら食材についても詳しいんじゃないかと思いまして」


浪曼はさっそく本題に入った。


「あぁ、栗。それなら……」


キッチンに引っ込んでいったミコワイはしばらくしてめちゃくちゃ大きなツボを持って現れた。

しかし巨人の彼が持つと、かなり小さく見える。

ドンッと目の前に置かれると、やはりその大きさには驚愕したが。


「これをやってもいい」


そう言ってパカッと開けたツボの中を覗くと、たくさんの栗の蜜漬けが入っていた。


「えっ!良いんですか?!」


「この地で採れる栗の質は、どれもそんなに変わらん。となると全ては保存方法と味付けにかかっているだろう。」


まさにその通りだ。

皿に出してくれた栗を試食してみると、なんとも芳醇な香りと甘みが広がった。


「美味しいっ!この栗、本当に頂いちゃっていいんですか?」


「あぁもちろんだ。これはピエトルと俺の酒のツマミでね。何度も試行錯誤して、気に入ってるラム酒に合うようにしたのさ」


ラム酒という言葉にピンときてしまった。


「そのラム酒って、どこのですか?」


「酒と言えばもちろん酒豪のホビットたちんとこに決まってるじゃないか〜」


「ピエトルくんっ!」


いつの間にか、寝癖のついたピエトルが現れ、呆れたような顔をしたミコワイが渡した眼鏡をかけていた。


「私もぜひ君のスイーツを食べに当日は参加させてもらうよ!私用になるべく大きく作ってくれよ!」


「あ…うん、わかった。」


そうか、今気づいたけど、全国からお客さんというか審査員が集まるなら、巨人用の大きさも作った方がいいな。

となると、材料揃えなきゃな……


「あ!それからそうそう!さっきも君の夢を見たよ!」


「えっ、また?」


なぜかピエトルがクスクスと笑いをこらえるように言った。


「何かを爆発させて、髪が大変なことになっちゃってて!ブフッ!っあ〜面白かった!」


「なっ……」


言葉を失ってしまった。

ピエトルのほぼ100%現実になるという夢が、99%になることを願うしかなかった。

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