第31話 託されたもの


浪曼が泉で見たのはそこまでだった。


さっき茂光さんがここに隠していたもの……

確かこのあたり……


浪曼は急いで周りのクリスタルを探り出した。

結晶たちに囲まれているなかにポツンと、ソレはあった。


これ……見たことがある。



「浪曼さん!!大丈夫すか?!そこにいるんすよね?!返事してくださいっ!」


ようやくその声が耳に届いた。


「し、シモンくん?!」


「浪曼さん!!出られますかっ?!てかどうやってそんなところにっ」


そうだ!一体僕はどうやってここに?!


岩の向こうからするシモンの声。

入口も出口もどこにもない。


すると徐々に周りで光っていたクリスタルたちの光が消えていき、あたりは真っ暗になった。


「何も見えないっ……!」


浪曼は急いで先程クリスタルの隙間から見つけたものを取り出した。

そこから光る灯りによって、目の前の岩を照らそうとした。


しかしなぜか……


「わぁっ?!眩しっ!!」


「っ?!シモンくん?!」


そこには出入口を塞いでいた岩ではなく、なぜかシモンが立っていた。


「まっ眩しっすよ!」


「あっ!ごめんっ」


「って……あれっ?よ、よかったーっ!浪曼さん!!どこでなにやってたんすか?!もう!!」


何が起きたのか全くわからない。


「そうだね僕は……どこで何をしていたんだろう……」


「あ!それっ!!」


浪曼が手に持っているのは、パヴェルも持っていた、ペンライトだった。


「お揃い?!いいなぁッ!俺も欲しいんすけど!」


「………。」


そうだ、どこかで見たことあると思ったらこれは……

パヴェルが茂光さんから貰ったと言っていたペンライトだ!


「まぁ洞窟って不思議なことあるって言われてるっすからね〜。浪曼さんが消えたように見えたのも不思議現象ってことっすね〜。いやぁめちゃめちゃ焦ったっすよ〜」


単純思考のシモンは、全く深く考えていないようだった。



戻ってから、皆に今あった出来事を報告し、心配をかけてしまったことを謝った。


「なるほどのぅ」


特に誰もそこまで驚かなかったことが意外だった。


この異世界での異次元な出来事は、そんなに珍しいことじゃないのかもしれない。


「ここの泉には、記憶の泉という名前がある。泉で顔を洗った者は、自分の記憶を泉に保存しておくことができるんじゃ」


「あぁ〜、そういやそんな話聞いたことあったな〜」

「へぇ〜おもしろいっすねー」


摩訶不思議な話なのに、皆はとくに興味がなさそうなのでその反応に逆に驚いてしまった。


「なるほど……。だから僕自身の今までと、茂光さんの人生が見えたのか……」


「他人の記憶が見えることなんてあんのかよ?」


「あ……確かに……でも本当に見えたんだよ。あれは……茂光さんだったと思う」


「まぁそうだろうな。現に俺と全く同じもの持ってきたし。これは茂の手作りなんだ。」


パヴェルはもうひとつのペンライトを取りだした。

浪曼のそれと共に、クルトが虫眼鏡でじっくりと調べ始めた。


「うーむ…白翡翠と水晶が混じったような石じゃな……」


「あの、それって……これも同じですか?」


クルトの前にこのフォトニッククリスタルを出すのは2度目だが、クルトはそれをじっくりと観察して頷いた。

どうやら全く同じ質の石らしい。


皆が採掘してくれたたくさんの鉱石は、どれも違うものだった。

つまり、探し求めていた自分の納得出来る原石は、今ここにある3つの欠片だけということになる。


しばらくの沈黙の末、浪曼は覚悟を決めた瞳で立ち上がった。


「これで充分です。絶対に成功させてみせます」



帰りはなんと、来た時と同じロープウェイではなく……


「えぇぇえ?!冗談だよね?!ソリってっ!!」


「大丈夫だって。これ意外と楽しいんだぜ」


浪曼はパヴェルの後ろに捕まりながら、本当にソリで山道を滑っていくこととなってしまった。


クルトは慣れた様子でまるでサンタクロースのように勢いよく滑っていってしまい、ほかの3人は当然余裕そうに飛んでいってしまった。


「よし浪曼!しっかり掴まってろよ!途中で落ちたりしたら大怪我じゃ済まないからな!」


「えっ!!ちょっと待って待って!!」


ビュンー……!!

と息ができないほどの速さで滑っていき、その間浪曼はそのスピードと恐ろしさに本当に息を止めていたらしく、下に着いた時には窒息死しそうになっていた。



その夜、浪曼とパヴェルは星の丘に来ていた。


「なんだか今日は、あまり星が見えないね」


「おー…まぁこんな日もあるよ。」


そう言ってパヴェルがペンライトをつけた。

周りがボゥっと照らされ、たくさんの星型が照らされていく。


浪曼は今日手に入れた同じペンライトを取り出し、ゆっくりとそこに当てた。

2倍になった光によって、まるで空から星が落ちてきたかのようにたくさんの星々が照らされる。


「うわぁ……ん??ちょっと待って!コレ……」


ハッとパヴェルも気がついたようだった。


同じ鉱石のライトが重なると、なんと文字が浮かび上がってきていた。


「……なんて書いてあるんだ?俺には読めねぇ」


「日本語だ……」


「は?」


「地球の言葉だよ……」


浪曼の見開いた目の中には、たくさんの文字が映っていた。


「これはきっと……太陽の作り方だ……」


「?!なんだって?!」


厳密には、フォトニッククリスタルからの人工太陽光の作り方なんじゃないか……

そう浪曼は認知した。



「……そっか……茂は……だからこれを俺に託したんだ……」


あの時、命を懸けてこれを俺に託した。

いつかこんな日が来ることを願って。


" 俺は死んでも諦めないぞ!"


そう言って汗を光らせ研究に没頭していた茂光が脳裏に蘇った。


ククッとパヴェルは笑った。

本当に、死んでも諦めてねぇじゃんか…




「茂光さんは、地球人だったんだよ…」



パヴェルの目が細まった。

それはなんとなく、予想していたことだった。



「人間だったんだ。僕と同じ。」



そう。


だからきっと俺はあの時、無根拠に確信したんだ。


やっぱり浪曼が、光をもたらす者なんだって。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る