第33話 食材集め

重い酒は最後にしようと思い、とりあえずミコワイに教えてもらった通り、最適な材料集めのため、まずはピクシーの国に来た。

ここは最初にパヴェルと来て以来なので2度目だ。


「蜂蜜ならもちろんここのがダントツですよ!」


「そうだと聞いてきたんだ!ぜひスイーツ作りに合うやつを頼むよ!」


ヤクブははりきった様子で蜂蜜の壺を取りに行った。


「ここは相変わらず美しい場所だなぁ……

まるで天国みたいだ……」


前回来た時も思ったが、ここの草木や色とりどりの花はイキイキしていてそよ風も気持ちいい。

いつでも来たいくらいに実に癒される場所だ。

思えば地球にいた頃は、こんなふうに思う存分自然を感じることなんてなかったなぁ……


いつの間にか寝落ちしていて、夢の中ではオーブンで何かを爆発させて自分の髪まで爆発する夢を見ていた。


「浪曼さん、うなされてる……」

「なんの夢見てるのかしら」

「なんか騒いでるよ」

「もうっ、せっかくエヴァ様が特製ハニーを持ってきてくださったのに」

「きっと疲れてしまったのでしょう。寝かせといてあげましょう」


「んんっ……っは!」


「「起きた!」」


浪曼が目を開くと、顔を覗き込んでいるエヴァ女王とヤクブとミレナ、そして数匹のピクシーたちがいた。


「っぼ、僕の髪っ!!…っあ……!」


自分の髪を触り、夢だったと胸をなで下ろすと同時にもちろん恥ずかしくもなる。


「すっ、すいません!完全に寝ちゃってました……。こんにちは、エヴァ女王……」


「構いませんよ。この場所は眠気を誘う場所なのです。

睡眠とは、体と心がこの世から離れ、精神世界で休むことができる唯一の方法。だから疲れたらここへ来ると良いですよ」


エヴァは相変わらず美しく優しい表情でそう言った。


「あ……そういえば、花粉症は完全克服されたんですか?」


「ええ。そのことであなたに御礼をするつもりでしたので今日はちょうど良かった。」


エヴァは、既に置かれている数個の蜂蜜の壺を指さした。


「全て差し上げます」


「えっ?!全部ですかっ?!」


周りの妖精たちが、味見をしろとばかりに葉っぱでできたスプーンと器を差し出してきた。


「全てエヴァ様が厳選した蜂蜜たちなんですよ!」


「……うん!どれも違う風味がして美味しいよ!こんなに貰えちゃうなんて贅沢だ……」


濃度や粘り気、甘みや香り…全てが全然違う5つもの蜂蜜を頂けることになった。


ついでにピクシーたちの茶会にも参加することになり、様々なフレーバーのお茶だけでなく、木の実や果物なども出されてしまった。

周りは絶景の花畑とカラフルな妖精たち……

こんな凄い場所でなんとも贅沢なお茶会だ。


「これは……ヘーゼルナッツとアーモンド……これも使える!貰ってもいいですか?!」


エヴァに聞いたつもりだったが目の前にすかさずヤクブが現れた。


「もちろんですよ!浪曼さん!よかったらこのレーズンなんかもどうですかね?」


「ヤクブ!浪曼さんは栗のお菓子を作るのよ?!それは合わないわよ!」


「そんなの試してみないと分からないじゃないか!」


「ひまわりの種かかぼちゃの種の方がいいに決まってるわ!」


またミレナと喧嘩を始めてしまった。

しかし浪曼は、「それ全部使えるかも……」とぶつぶつ言いながら頭の中でレシピを想像していた。


「浪曼さんは、お菓子作りが得意なのですね」


喧嘩の光景は日常茶飯事なのか、エヴァがにこやかに茶を啜ってそう言った。

周りの他の妖精たちも楽しげに浪曼の話を待っている。


「あー、いえそれが……甘いものは大好きなんですけど、実は手作りってやったこと1度もないんですよね」


苦笑いしてそう言った瞬間、ミレナたちの喧嘩の声がピタリと止まり、気がつけば全員の動きが止まっていた。


「え」


その瞬間、ドッと笑い声が起こった。

まるで歌うような、美しい声がたくさん入り交じった合唱のように。


「そっ、そんなに面白いですかァ?

笑いすぎだよみんなー……」


「だ、だってだって浪曼さんっ!ははっ!

1度もやったことないことをこの星最大のスイーツコンテストで初挑戦なんてっ!すっ、ははっすごいですって!」


「そこじゃないわよヤクブ!ふはは!人生初の手作りスイーツに私たちの最高級の材料を使うってところが面白いんじゃないのっ!ふふっ!」


正直何がそんなに面白いのか分からないし、どうにも妖精のツボは分からない。

しかし妖精たちの笑い声に悪い気はしない。

それどころか不思議と癒され、自分まで楽しい気分になり一緒になって笑っていた。


「あ……っ!」


ふと気がついて、クリスタルを取り出すと、そこに凄まじいほどのエネルギーが入ってきているのがわかった。


「すごい……やっぱり笑いってすごい……」


やっぱり……フォトニッククリスタルはプラスの波長に一番反応するんだ。




こうして浪曼はひとまずピクシー国で、

5種の蜂蜜に果物、ナッツ類や種やレーズンなどなど大量の材料と、大量のエネルギーを集めることができたのだった。

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