第25話 光の結晶
なるほど。これを応用して、もしかしたら太陽が作れるかもしれない。
浪曼の瞳の中に、希望の光が灯った。
フォトニッククリスタルは特殊な構造を持つ素材で、特定の波長の光を反射したり透過させたりする性質を持つ。
音波を利用してフォトニッククリスタルの構造を変化させることで、光の特性を制御することができるかもしれない。
フォトニッククリスタルの素材となるものにはいくつか考えられる。
半導体素材……半導体レーザーの製造にも用いられるシリコンやガリウムアーセナイドなどの材料が利用できる。
光学ガラス……ガラスを微細な構造体に加工することで、フォトニッククリスタルの特性を実現できる。
ポリマー素材……特定のポリマーを用いて微細な構造を形成しフォトニッククリスタルの基板とできる。
きっとこの中で1番この地で試せる可能性のあるものは……まず……
「クルトさん。質の良い水晶が手に入ったりするかな?」
「水晶?もちろんだとも。
それならばうちのあの鉱山がよかろう。そして質の良いものとなると、色、音、硬さ、全てを兼ね備えたものじゃな。任せときんしゃい!」
「ホントですか?!ありがとうございます!」
ここは地球じゃない。
だからこそ、地球での研究を条件に考えて諦めるのはお門違いだ。
この地でしか手に入らないもの、空気や音や重力、きっといろんなものが違う。
だからきっとできる。
思い描いた通りのロマンが叶う気がする。
「良い水晶が掘り起こせる鉱山となると、結構高く険しい山の洞窟の中にある。じゃから実は儂らホビットだけで行くには難儀なんじゃ」
「つまりまた巨人族の力を借りたいというわけですね?任せてください!」
「それからもちろんドラゴン族も必要よね♡いいわ、誰か見繕っておくから安心して♡」
どうやら高質水晶を手に入れるためには、一筋縄では辿り着けない場所にあるようだ。
「あのそれ…僕も行ってもいいでしょうか?」
天然石の宝庫である本物の鉱山など、もちろん行ったことがないため正直浪曼は興味津々だった。
「勿論だとも。というか、本人自らが採取して確認せねばこちらも多少不安なのでな。お前さんも来てくれんと。」
浪曼の表情が、パァと分かりやすく明るくなる。
「足でまといにならないよう頑張ります!」
ウキウキを隠せずさっそく張り切ってしまいそうだ。
未知の世界の探検はいつだって心をときめかせる。
「ふむ。ではいつにしようかの…」
「なるべく天候の良い日がいいのでは?ちょっと待っててください。聞いてみます。」
もごもごとピザを飲み込みながらそう言ったのはヤクブだった。
そしてなぜか近くに咲いている花の前に飛んで行った。
「……ふむふむ……うん、なるほど。ありがとう!」
「え」とつい目を丸くしてしまった。
今更知ったことなのだが、なんと妖精は植物と意思疎通ができるらしい。
「今日から3日間は天候に大差ないようです。しかし4日後は雨が降ると言ってますね」
なるほど。この星では、植物に聞くことで天気予報となっているんだ。
「ほんなら2日後。どうじゃね?」
「「賛成です!」」
ということで我々は2日後、フォトニッククリスタルの基板である水晶の採掘に行くことになった。
「おいおい一体何してんだよ、俺んちの前でっ」
「あぁ、パヴェルおかえり〜」
「おかえりなさいパヴェル様!」
「パヴェルちゃんおつ〜♡」
不機嫌な顔のパヴェルがテーブルの上を見て呆れ声を出した。
「まぁた食い散らかしてんのか?ってかここらの奴らみぃんなタワシと紅茶持って喜んでたけどまさかお前らがばら蒔いてたんじゃ」
「その通りじゃよ!おかげで完売じゃ!」
「勝手に俺んちの前で売店開くな!せめてタダにしろよな!」
「それはできんよ。結構コストかかってるんじゃから!はははっ」
「まぁまぁいいじゃないのパヴェルちゃん、皆喜んでたんなら♡ささ、あなたもティータイムにしなさいな♡これ美味しいわよ〜♡」
パヴェルは盛大にため息を吐いてからドンッと大きな瓶を置いた。
「なぁにこれ〜?」
「婆ちゃんからもらったんだよ」
美しい赤色の液体に、たくさんの泡がキラキラと光っている。
「あぁっ!パヴェル様のおばあ様が作る、神の飲み物ですね!」
「神の飲み物…?」
「あまりにも美味しくてシュワシュワと不思議な刺激があるドリンクなので、みんなそう呼んでいるんですよ!」
グラスに注がれたその美しく透き通った赤い飲み物に口をつけた瞬間、その懐かしさに目を見開いた。
「これは……炭酸だ!
苺…いやザクロ?ザクロサイダー?!」
「サイダーっつーのか、これ。
まぁ俺はこのシュワシュワが喉にくる感じが苦手なんだけどさー。皆好きなんだよな」
「そこがいいんじゃないか!身も心もスッキリして眠気が一気に吹き飛ぶよ!はははっ」
ピエトルが明るくそう言い、自分にとっては小さすぎるグラスに何度もそれを注いで飲んでいる。
そう、炭酸の力は凄いのだ。
「こんなに美味しいものを楽しめないなんて損してるわぁパヴェルちゃん!ほほほほほほ!」
こんなふうに、人を清々しく陽気にもさせる。
パヴェルのお婆さんは、パヴェルに似て知識欲があり、昔から自分でいろいろなことを試してしまうエルフだと聞いた。
これはもしかしたら、茂光さんからの伝授の可能性もあるが、クエン酸と重曹から作ったか、炭酸ガスを作り出す発酵の工程を既に熟知しているのかもしれない。
とすると……
「あの……もしかしてこの星に、ビールって存在する?」
「ビール?もちろんあるぞ。ほかにもいろいろと美味い酒があるぜ。」
「私はあれが好きだなぁ、ハイボール!ミコワイの作る料理によく合うんだよ!」
「あらあら、ワインもウイスキーも合うじゃないの。アタシはそっち派よ♡」
浪曼は一瞬目が点になってしまった。
なんだ、あるんじゃないか!
……って、あれ……???
「おいおい大丈夫か、浪曼?!」
突然クラクラとしてきて、体が熱くなってきた。
頭がボーっとする。
いやいや、待ってよ、この症状って完全に……
「これが酔っ払うってやつかー。久々に見たぜ。」
「そういえば地球人はお酒に弱いという説がありましたね」
「ふんっ、この程度で何を。ホビット族はバケツ1杯飲んでも顔色1つ変わらんぞ」
「まぁ酒豪と言われているホビット族と比べるのはちょっと〜ははは」
「なんじゃ、おぬしらピクシーもドラゴンも巨人も、酔っ払っとる奴なんぞ見たことないぞ」
「このお酒には名前ついてなかったから、ザクロサイダーと命名されてよかったですね!」
「パヴェルちゃんの代わりにアタシたちで飲みましょ飲みましょ〜♡」
キャッキャと愉しげな笑いが溢れているのが、浪曼の朦朧とする頭の中でもわかった。
そして自分の持っているクリスタルが光っていることも。
フォトニッククリスタルはもしかしたら……
喜びの波長に一番反応するものなのかもしれない。
そう思いながら、ぽわぽわと宇宙空間に浮かんでいるような錯覚に陥り、いつのまにか意識を手放していた。
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