第19話ドラゴン
「え…どういうこと?
ドラゴン族ってドラゴンなんじゃないの?」
着いた先は、まるでコウモリのような羽の生えた人たちがビュンビュン飛びまわっている所だった。
「完全なるドラゴンはもういませんよ浪曼さん。
砂漠のフェレックのように、どんどん人化していったんです。」
「なるほど…なんかこういう人たちが出てくる昔の映画あったなぁ…。あぁ、マレフィ○ントだ。」
そう。まさにあのマレフィ○ントのような容姿の人たちがたくさんいるのだ。
すごい迫力だし、この光景はなかなか圧巻だ。
基本的には飛んで移動するらしい。
まぁ羽があるなら当たり前だろう。
「それにしても、パヴェル様。
あなた大丈夫なんですか?」
「あ?何がだよ」
「だってあなたとアルトゥル様って、」
「あ〜らっ!かわい子ちゃんたちぃ〜っ♡待ってたわよ〜っ♡♡」
すごい勢いで飛んできたのは、1人の…いや1羽の?ドラゴン人なのだが、彼女…いや彼?はとても派手なピアスや装飾をたくさん羽に付けているオシャレさんだった。
こういうタイプはだいたいデザイナーやアーティスト系だろう。と浪曼は地球での経験値から勝手に決めつけた。
「あぁっ!スワベックさん!今日私あなたに会いに来たんですよ!」
「あらっ♡可愛いこと言っちゃってぇ♡んもぉ♡なぁにデートのお誘いかしらぁ〜?」
なかなかパンチの効いたオネエだが、
「ち、違いますって!薬の共同開発のご提案です!」
なんとスワベック氏は、まさにエヴァ女王の言っていた例の薬剤師だった。
「なるほど。エヴァ女王様のためなら何肌でも脱ぐわよアタシ♡
で、パヴェルちゃん、こちらが例の地球人ちゃんよね?可愛い〜♡」
「おう。名前は浪曼。きっとお前みたいのに免疫ないから手ぇ出すなよ」
「いやいや大丈夫だよ、パヴェル…
はじめましてスワベックさん。木葉浪曼です」
「いやぁあん♡♡声もカワイーじゃないのぉ♡」
指輪やネイルでド派手な手でギュッと握手され、苦笑いする。
が、すぐにパヴェルに引き離された。
「ってぇことなんで、俺らは「奴」んとこ行くな。やだけど。じゃーな、ミレナ。」
「えっ!ちょっとちょっと!行っちゃうのぉ?」
「んだよ!急いでんだよ俺らは!お前はミレナととっとと薬作れよ!」
「だってアタシ、アルトゥルちゃんに頼まれてた薬を渡すついでにあなたたちを迎えに頼まれていたのよ?だからまずは一緒に行きましょ♡ね!ミレナちゃんもっ♡」
ということで、そのアルトゥルというドラゴン王のところへ行くことになったのだが……
「マッッジで、いつになったらバスとか車とか作るんだよ!」
「だぁってアタシたちにはそんなもの要らないものぉ〜」
徒歩で移動している者はほぼ自分たちだけだ。
もちろん辺りは他種族のエリアと同じように、店や家などの街が広がっている。
しかし、老若男女皆、足は宙に浮いているし、なんなら屋根の上を移動している者も多い。
「めんっどくせぇなったく」
「そーだ、パヴェルちゃん浪曼ちゃん!それからミレナちゃんも!ちょっとここに寄っていきましょーよ♡」
スワベックはとある店を指さした。
浪曼は目を瞬かせる。
真っピンクの建物の凄い可愛らしいカフェだ。
広いテラス席も出ていて、そこらじゅう可愛らしい装飾がされている。
彼らが食べているものを見ると、どうやら地球で言うスイーツ的なものに見えた。
「ここ最近できたお店なんだけど、ちょぉお可愛くない?!ずーっと気になっていたんだけれど、入る暇がなかなかなくってぇ」
「なんっだ、ここ…。おいお前が勝手にいけよ。俺らは先を急…っおい浪曼!!」
パヴェルが止める間もなく、全員店内に入っていってしまった。
「うわぁあ〜可愛い〜っ!この星にも、ケーキとかプリンとかってあるんだぁ〜」
ショーケースの中には、まさしく地球で長年愛されてきた数々のケーキやプリンやゼリーといったものが並んでいた。
「あとでお持ち帰りもするといいわよ♡」
「そうですね!そういえば僕まだ観光すらしてなかったから、こういうの楽しいなぁ。異国でのスイーツ食べ歩きって結構好きなんです!」
「おい浪曼!お前そんなことしてる場合じゃっ!っておい席に着くなよ!」
浪曼たちはとっとと席に着き、メニューを広げてしまったため、仕方なくパヴェルも席に着く。
こういった店は一応エルフエリアにも存在するが、どうにも落ち着かなくて苦手だ。
「おぉっ!パフェもある!僕これにします!」
「私は大好きなシュークリームにします!中のクリームをストローで吸うのが好きで、ヤクブは周りの生地を食べるのが好きだからお出かけの度にコレ食べるんですよ!」
「へぇっ!いいね!今度僕も別々に食べてみようかな」
「アタシはプリンアラモードっていつも決まってるのよ♡んで、持ち帰りではショートケーキとタルトを選ぶのが定番よ♡どう、可愛いでしょう?♡」
「へえっ!プリンアラモードまであるのかぁ!それ地球で昔から大人気でしたよ〜」
注文をし終えたあとも、まるで女子会のようにスイーツ話を繰り広げている3名。
の隣で、かなりくたびれた様子のパヴェル。
「お待たせ致しました〜!」
各々のスイーツが到着し、皆の感嘆の声が上がる。
「あっ、なんだパヴェルもなんだかんだスイーツ好きなんじゃないか。モンブランが好きなの?」
「うっ、うるせぇよ…ってか…モンブラン知ってんのかよ」
「もちろん知ってるよ!栗の美味しいケーキだよ」
「………。」
パヴェルは甘いものがそこまで得意ではない。
しかし、モンブランだけは思い入れがあった。
" お菓子作りや料理って、苦手なんだよ…"
そう言って苦笑いしていた茂光を思い出す。
" 茂にも苦手なことってあるのか?"
" そりゃもちろんあるよ!とくに科学に関係のないことは。
食べ物って、見た目はなんとなく伝えられるけど、レシピを知らないから味を正確には伝えられないのがもどかしくてな…"
そう言いながら、微妙そうな顔でモンブランを食べていた。
茂光は、故郷のモンブランというデザートが一番好きな食べ物なのだと語っていたのだ。
「………なぁ、浪曼。」
「ん?どうしたの?…食べないの?」
「これ、食ってみてくれ。」
「え?うん?」
浪曼は、ほぼ手をつけていないそのモンブランを言われた通りひとくち口に入れた。
「……それはお前んとこのモンブランと同じか?」
もぐもぐと口を動かしたあと、浪曼はうーん…と唸った。
「ちょっと…違うかなぁ。でもこれはこれですごく美味しいよ!」
やっぱり…とパヴェルは思いながら、ひとくち口に入れた。
「変わってねぇんだな…あの頃と…」
「?」
あまりにも切なそうな顔をしてそれを見つめるパヴェルに疑問符を浮かべながら、浪曼は言った。
「もしよかったら、僕がよく食べていたモンブランの作り方を教えるけど」
「本当か!」
「っ、うん。まぁこう見えて僕スイーツ男子だし、モンブランって難しそうに見えて実はそこまででもないし。」
真剣なパヴェルの表情に、そんなにモンブランにこだわりがあるのかと驚いてしまった。
ならば是非美味しいモンブランを食べてほしい。
ここのもここので美味しいとは思うが、父を真似て作ったことがかつてある。
たった1回だけだが。
それはさておき、この星の食べ物やスイーツは地球のそれらととても似ている。
まるで地球人と交流があったかのように。
この星の方がむしろ地球より先かもしれないよなとも思えてくる。
まぁなにはともあれ、これから先過ごす地の食が人間に合っていて本当によかったと胸を撫で下ろしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます