第18話 妖精の女王
森の奥には一際目立つ大木があった。
そこには小さな小窓が付いていて、双子がトントンとノックをした。
「エヴァ様。パヴェル様と人間の方がお見えですよ」
「……。ご苦労さまです2人とも。今行きます。」
これまた歌うような美しい声が聞こえたかと思えば、大木の扉が開いた。
そして現れたのは、まるで天女を連想させるような、美しすぎる女性の妖精だった。
「パヴェル…久しぶりですね」
「ははははいっ!エヴァ様っ!コンニチハ!」
突然緊張した面持ちで頭を下げたパヴェルに、浪曼はギョッとする。
先程までの高圧的な態度はなんなのだろうと思ってしまうほど丁寧だ。
「本日はですね、メールでお知らせしました通り、こちらの地球人をご紹介したくてですね」
なんだか怪しいセールスマンのようになっているパヴェルの隣で、浪曼まで緊張し始めてしまった。
パヴェルほど誰に対しても態度の大きいエルフがこんなふうになってしまうほどの妖精って…一体なんなのだろうと考えてしまう。
どう見ても小さくて品のある、恐ろしい要素はまるでない可愛らしいピクシーなのだが…
「初めまして…。木葉浪曼です。」
「初めまして。ピクシー族の女王、エヴァです。」
うん。笑顔も口調も綺麗で、警戒する点は全く見られない。
「それで、あなたが光をもたらす者というのは本当ですか?」
ウワオ!笑顔でいきなり直球!
まぁ当たり前か…。
「えぇっと、それは…」
「そうですまさしく!この人間が絶対それなんです!」
えっ!またパヴェルはっ
「おいお前気をつけろよ。コイツ少しでも機嫌損ねたら大変なことになんだからな」
「えぇっ?!それってどういう」
コソッと耳打ちされた内容に一気に目の前のピクシーが恐ろしくなってきてしまった。
「では、証明してもらえますか?」
「へっ?あ、いや、今すぐここでというのは難しくてですね……少し研究とか実験とかいろいろと準備が……」
「おい、じゃなくてっ、いや〜流石にそんなすぐには無理ですよ女王。」
「そうなのですか……?」
「あっ!そうだっ!そういえばさっきヤクブくんが、なにやらとても綺麗な花を…ほら、ヤクブくん!」
微妙な空気が昔から大の苦手な浪曼は、ヤクブの背中を押した。
「あぁえっと!はい!エヴァ様!どうぞ!」
ヤクブは木陰に隠していた先程作った花束を持ってきた。
「っ!!ちょっと待ってくださっ」
「大丈夫ですよ女王様!これはあなたの症状に影響しません!」
慌てるエヴァに、浪曼がすかさずそう言ってにっこり笑った。
「浪曼さんは凄いんです!あらゆる知識が豊富で、植物や病気にも詳しいんです!」
エヴァは目を丸くしながら花束を受け取った。
さっきから薄々気がついていたが、妖精はこんなに小さいのにだいぶ力はあるようだ。
自分より大きな花を簡単に摘むし、花束も簡単に持つことができる。
全然重そうにしていない姿がなんとも違和感だ。
「わぁ…美しいですね…ありがとう」
嬉しそうにはにかむエヴァを前に、ヤクブもミレナも嬉しそうだ。
「ところで女王様の症状についてなんですが……」
浪曼は重要なことを説明しだした。
それは花粉症といって、風媒花の植物に影響を受けているのだと。
「地球でも長年、たくさんの人間がそれに悩まされてきた歴史があります。しかし、ここ100年あまりで、とっくに人類の中で花粉症という概念は消えたのです。」
浪曼は、花粉症の特効薬の作り方を教えることにした。
「花粉症っていうのは、花粉が体内に入ってきたときに放出されるヒスタミンという物質の影響なんだ。
つまりヒスタミンに対抗する、抗ヒスタミンを作れば良いわけなんだけど…」
一般的な抗ヒスタミン薬はロラタジン、セチリジン、ディフェンヒドラミン…
ただ、これらを作るのは時間も手間もかかるし、なにより知識が必要だ。
「あの……この星には、薬剤師はいないの?
薬を作っている博士だよ。」
「それならば、ドラゴンの一族におりますね。」
「ホントですか!」
エヴァの言葉に、希望が見えてきた。
「それと……あなたもそうですよね、ミレナ」
「えっ、あっ、いえ…私は……」
なんと、この女の子のほうの妖精も薬学に精通しているのか?!
「私はその……先程も全然知識がなくて恥をかきました…。そのお花、実は私の無知のせいでエヴァ様には隠すつもりで……」
しょぼんと下を向くミレナの肩に、ヤクブがポンと手を置いた。
「でも、花を育てようと提案して種を持ってきてくれたのはミレナだ。
大丈夫だという予想があったからだろ?
でもミレナは僕と違って慎重派だから、途中で少しのリスクすら考慮して、忠告してくれたんだよね」
「ヤクブ……」
優しさに溢れた素敵な双子なのに、こういう時に限って必ず、
「……こいつらくっだらねぇ事で喧嘩してすぐこうして仲直りすんだよ。なら始めっからすんなって話。マジ迷惑。」
などとパヴェルが口出しをしてしまう。
「あ…じゃあミレナちゃん、このあとちょうどドラゴン族の所へ行くから、一緒に来てくれる?」
「あ!はい!わかりました、浪曼さん。」
「じゃあヤクブくんには、花粉症に効く食べ物や飲み物を伝えるから、用意してくれるかい?」
「はいもちろん!!」
よかった。2人ともやる気満々になってくれた!
浪曼はヤクブにメモを用意させた。
「まず、オメガ3脂肪酸を含む魚だね。
鯖とか鰯とか鮭とか…あとはナッツ類もいいね。オリーブオイルとか。
それと、ビタミンCを多く含む果物!それは分かる?」
「ビタミンについての栄養知識くらいはあります!レモンやイチゴですよね!」
「うんうん!それから免疫を高める蜂蜜や、ハーブティーもとても良いと言われてる。ここではハーブもとれたりするかな?ペパーミントやカモミールとか」
「はいもちろん!そういったハーブティーなら、結構昔からこの星でブームで、とくに僕たちの妖精地域で採取できるのでたくさん輸出もしています!」
この優雅な自然のど真ん中に座って話をしていたら、いつの間にか周りにはたくさんの妖精たちが集まってきていた。
どうやら好奇心も旺盛らしい。
「あっ、それから辛いもの!鼻詰まりを良くしたりするんだ!」
「あぁ!スパイスなら砂漠名物なので、砂漠エリアで貰ってきましょう♪」
「よし今から行こう♪一緒に行く奴この指とまれとーまれ♪」
「ハーブの採取チームは私についてきて♪」
「いつもの蜂蜜隊はこっちに♪」
皆興味津々に聞いていたかと思えば、行動力も人一倍で、どんどんと散り散りになっていった。
「ありがとう浪曼さん。
私の花粉症が軽減したら、なんでも力になるので言ってください」
エヴァ女王は最後にそう言ってくれた。
そして、女王の機嫌を損ねずに居られたことにホッとしているパヴェルと、薬学者のミレナと共に、今から最後のドラゴン族地域へと行くことになった。
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