第10話 人魚族


次に移動したのは人魚族の砦だった。


そこにもモノレールで行ったのだが、上から見下ろして驚愕した。

人魚と言うからてっきり海を想像していたのだが、見えてきたものは海というよりも、まるで一種のウォーターアクティビティパークのように美しくも愉しげな世界が広がっていたのだ。


チラチラと見えるのは色とりどりの人魚たち。


「ほ……ホントにいるんだ、マーメイドって……」


浪曼は内心胸をなでおろしていた。

頭と胴体が逆バージョンの人魚だったらどうしようとか、かなりグロテスクな怪物系人魚だったらどうしようとか、正直かなりドキドキしていてあらゆるものを想像していたのだが、見えてきたのはきちんと御伽噺に出てくるような美しい人魚たちだった。


「こんにちはパヴェル様。今回はどちらへ?」


着いた先は、なんと海のド真ん中に作られている陸地だった。

四方八方を海に挟まれていて、まるで大きな水槽に囲まれているような、そんな感じだ。


「よぉ。マルチンに用があるんだ。

さっき一応メールしといたけど。」


そう言ってパヴェルはスマホのような小型機を取り出した。

こんなものまで作れるほど発展しているのだから、もしかしたら地球よりもこの星は画期的なのではないか?と思った。


「かしこまりました。ではこちらを…」


渡された小さなマスクのようなものと、薄い透明のカッパのようなものを手に取り、浪曼は首を傾げる。


「なぁに?これ」


「これはここの部分を鼻に突っ込んで、んで、これをこうしてこう。よしとっとと行くぞ」


勝手に取り付けられ、警備員の人魚が海でできた壁に、スっと触れた。

その瞬間、ズザザザザザーと海の中の扉が開いた。

声を発する間もなくポンッと背中を押され、浪曼は海の中へ送り込まれた。


「あれ……不思議だ……

濡れてる感覚がしないし、呼吸も普通にできる。会話も…」


現代の地球にも、水中で呼吸がし続けられるアイテムは存在した。

しかし会話は不可能だし、体が濡れない道具はさすがに聞いたことがない。

水圧に負けずに海底を歩けるのも不思議だ。



「わぁー……すっごく綺麗だね……」


たくさんの美しい魚たちが色とりどりの人魚と泳いでいて、あまりの非現実的な美しさに、自分は天国にでも来てしまったんじゃと錯覚した。

いや、もしかしたら、このエドラ星に来た時点で、そうかもしれない。


「よぉパヴェル〜」


「おおっ?うっわ、マイクまた一段とデカくなったなお前っ」


突然話しかけてきたのはなんと巨大なウミガメだった。


「だっろー!なんたってもう120歳!

お前と同い年だからな!!ハッハッハ!」


「そーだマイク!俺らをお前の背に乗っけてマルチンのとこ運んでくれよ!」


「えー。オイラ今から歯医者に行くとこなんだけどー?甘漬草っつー砂糖漬けの海藻食いすぎたら虫歯みたいなのが……」


「嘘をつけ。亀に歯はねぇだろ」


「あ、バレた?いやでも海藻のせいでクチバシが荒れたのは確かなんだ。

近頃太陽光が少なすぎて、上手い具合に海中のものは育たないし、他にも色々弊害が出てて……みーんな困ってるんだぜ」


浪曼はそういえば…とポケットから小さなケースを取りだした。

これは、肌が荒れやすい自分のために、たまに自分で作っていた軟膏だ。

ココナッツオイルやシアバターをダブルオイラーで湯煎し、ビタミンEとオリーブオイルなどを加えて丁寧に作ったもので、どこで処方されるものよりも、これが自分には一番良く効いた。


「これ……よかったら使ってみて。あ、塗ってあげるよ」


荒れているクチバシ部分は見て直ぐにわかったため、浪曼は徐にそこに軟膏を塗りこんだ。


「んわ……なんか痒くなくなってきた!すげー…

さんきゅー!てゆーか誰?」


「あ!えと、僕は木葉浪曼っていって、パヴェルの…と、友達で…えっと」


「こいつぁ地球から来た人間!光をもたらす者だぜ!」


「エッ!?!?!」


まーたこういう流れか……と浪曼はもう苦笑いしかできなくなっていた。


「てわけだから、挨拶させなきゃだろ?マルチンに!」


「そっ、そそそそういうことか!

確かにこりゃ一大事だ!ににに人間だなんてっ!……ん?でもホントに大丈夫かな……マルチン王の人間嫌い、お前もよく分かってるだろ?」


えっ……まさかこれから大海の王に会って、こ、殺されるかも?

と浪曼は顔を一気に青くする。


「だーいじょーぶだって!

なんたって俺とホビット王のお墨付きなんだから☆」


「そ、そうか……まぁオイラはすぐおいとまするしな。オイラに被害は出ない…

……よし!オイラの背中に乗れ!超特急で行くぞ!!」


マイクは大きなヒレを腕のように動かしてパヴェルと浪曼を瞬時に背に放り投げると、なんの合図もなしに、ビュンーー!と凄い勢いで泳ぎ出した。


必死に甲羅にしがみつきながら、浪曼はこんなスリル満点のアトラクション初めてだと思った。

そこかしこの海の生物やワカメや珊瑚やクラゲがすごいスピードですれ違っていく。


「っな?!っわ!危っねーなぁ!」

「キャッ!えっ?!今のパヴェル様じゃなかった?!」

「ひゃあっ!マイクっ?!あんたスピード違反よ!」


たまに人魚のような人たちとぶつかりそうになり、叫び声や話し声が聞こえたりした。

パヴェルは終始「ひゃほーーう!☆」とノリノリだった。


ビュンーーー!!!


「はい!とうちゃーーーく!!」


気がつくと、目の前に現れたのは大きな海の城だった。

まさか本当に御伽噺の中の人魚たちの城が登場するとは思っていなかったため、これにはさすがに度肝を抜かれてしまった。


警備の人魚が2人、険しい顔をしてこちらに向かってきた。


「そこの亀!海中交通スピード規約違反だぞ!

1ヶ月の遊泳禁止処分に処する!」


エッ!と浪曼が冷や汗を流して亀のマイクを見た。

しかしマイクはなぜかフンっと鼻で笑ってドヤ顔をしている。


「あれあれー?ここにいらっしゃるお方が見えないのかなー?オイラはこのお方が急いでいたから頑張って安全運転でお運びしていたんだぞー」


パヴェルに気がついた警備員たちは、ハッと飛び上がるように頭を下げた。


「申し訳ありません!パヴェル様でいらっしゃいましたか!お待ちしておりました!」


「おう。邪魔するぜ〜。ご苦労さんマイク。またな〜」


浪曼は訳が分からず目が点になっていた。


実はずっと感じていた違和感……

パヴェルは……一体何者なんだ???



「なにしてんだ浪曼。ほら行くぞ」


「あ、うん」


緊張感をMAXに滾らせながら、パヴェルの後を追って海の宮殿の中に入った。

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