第45話 花火を作る
早速翌日から花火作りを開始したわけだが……
「えっ、皆さんもしかして花火を弄ったことあるんですか?!」
「じーちゃんに教わった〜」
集まったのは、クルトの孫であるハイムくん。
そして、ドラゴン王アルトゥルの世話役であるポーラさん。
いつもの騒がしいピクシーのヤクブミレナコンビ。
そして巨人族のギャル…ドミニカと、友達のギャル男…クレメンスくん。
そして人魚族の王直属の兵士…オスカルくん。
全員、ずば抜けた手先の器用さで推薦された者たちだ。
なのだが、それが想像以上で驚いていた。
全員もれなくとても器用で初めてとは思えない。
「花火……というもんは知らんが、武器ならよく生産している。」
「えっ?!武器っ?!」
人魚族の兵、オスカルは平然とそう言いながら作業をしている。
「いつ何が襲ってきてもいいように、各々の国が独自の武器を生産し、所有してんだよ」
続いてギャル男のクレメンスくんが説明してくれた。
どうやら過去人間が襲ってきた経験から、各地域でそれぞれが使える得意分野として武器を製造するようになったようだ。
たとえばエルフは昔から得意な弓矢。ホビットは斧などの工具。ピクシーは草木を使った攻撃、人魚は水、巨人は砲丸、ドラゴンは風……などなどなわけだが、そこに火薬を使った武器を揃えることにしたらしい。
一般的に言う、鉄砲や大砲のような類だ。
「地球でも……戦争のために科学は利用されてきました。科学によって数え切れないほどの人間が死に、国が滅ぼされてきた。
科学は生活を豊かにする幸せの知識でもあるけど、生物を殺す殺戮の知識でもある。」
歴史上では、科学の発展によって、より殺戮が激しくなった。
科学のせいで大量の人間、動物が死んだのだ。
取り返しのつかないことが何度も起きた。
だから人類は、いきすぎた科学に対してあまり良いイメージを持っていなかった。
「でも僕は……科学を恐れの対象にしたくはないんです。
科学をますます発展させていきたいと思ってるから。
何に関しても……発展を恐れたくない。」
発展は良きもののはずだから。
悪いなんてイメージには絶対にしないような活用方法のみを研究してきた。
「お前はすごいよ、浪曼」
「あぁ。本当にすごい」
顔を上げると、すすのついた顔で皆笑っていた。
「ウチのアイシャドウも口紅も作ってくれたし、ウチの店のパンの発酵の工夫も教えてくれたし」
「ドミニカちゃん……」
「スイーツコンテストも優勝しましたしねぇ。私んとこのが賞に入らなくて悔しかったけど、尊敬します。科学者ってなんでもできるのですね。」
ポーラの言葉に少し照れながら言葉を探す。
「海でも、皮膚病予防水とか海水環境を守る装置など、様々なものを作ってくれて、王も民も助かった。人魚を代表して礼を言うよ」
オスカルが頭を下げてきたので、浪曼は慌てる。
人に頭を下げられたことなんてほとんどない。
「こちらも、エヴァ様のことを助けてもらえて本当に助かったわ!」
「そう!浪曼さんは天才なんです!できなかったことなんて、今まで1個もないじゃないですか!!」
「あ、ありがとう…ミレナ、ヤクブ。
でも、天才なんかじゃないし……僕にだってできないことはたくさんあるよ……」
「「「え??」」」
全員の声が重なり、驚いたような視線がたくさんつき刺さる。
「えっ?いやいや…逆に……どうしてなんでもできるなんて思ってるのさ?人間なんて、できないことだらけだよ」
「浪曼さんにできないこなんてあるの?」
「例えばなによ?」
「たとえば……人の感情を読むのが苦手だったり、空気を読むことや人の輪に馴染むことがなかなかできない……自分の意見を強く言うことが出来なくて、よく人をイラつかせちゃうらしい。
スポーツだって楽器だって昔からうまくできないし、女の子にだってモテたことないんだ。
ね、できないことだらけでしょ。」
皆が目を丸くして沈黙しているから、とりあえず笑って誤魔化してみるものの、やっぱりこういう空気の時にどうしていいか分からない自分も情けなく思った。
「誰だって向き不向きはある。
不得意なことは切り捨てていいんだよ」
そう平然と声に出したのはアルトゥルの世話係のポーラさんだった。
「そーだよ。俺だってさー、爺ちゃんたちみたいに鉱石の目利きはないし力仕事なんて以ての外だけど、お前にできることだけしてりゃいいって言われてきたぜ」
「クルトさんが……?」
ハイムの祖父クルトはお堅いホビットに見えるから意外だと思った。
「ウチだって、実家のサンドイッチ屋継ぐって言ったって、ファッションやメイクとか好きなことの方が第一優先。料理は親ほど上手くいかないけど、それでもいいって言われてるよ?誰かに頼ればいいんだもん」
ドミニカが自由にギャルを楽しんでいる理由が分かった。
「オレもできることとできないことの差が激しいぜ?デザインセンスはあるのに裁縫のセンスはないし数学できねーから寸法とかバランスとか測れねぇ」
確かこのギャル男のクレメンス君は洋服屋をやっていると言っていた。
「でも役割分担って重要で、それぞれがそれぞれの得意分野をやったほうが効率がいい。
そのために自分以外の生物が存在してるんだぜ。」
「そ。皆どんどん頼ろうよってこと。
てか、クレメンスのくせにいいこと言うじゃん」
「はっ、だろー?」
「なるほど…。この世に自分以外がたくさん存在している理由は…助け合うため…」
そんなふうに考えたことがなかった。
なにか起きても全て自己責任で、だからなにもかもを自分一人でやらなきゃならないものだと思っていた。
一人で生きていた方が楽だというのもあった。
でも……この星に来て自分はどんどん変わっていくのがわかる。
頼ること、頼れる存在がいること…
それがこの星では当たり前なんだ。
「あっ、おい、ミレナヤコブ!
そこは俺がやるからいーって!」
「え?このくらいできますけど?舐めてます?」
ハイムは突然ミレナとヤコブの作業を中断させた。
「ちげーよ!少しでも失敗したら、お前ら一瞬で爆発しちまうだろ!」
「こんくらい間違えませんから大丈夫です!細かい作業はピクシーの仕事です!」
「跡形もなく吹っ飛んで消滅してもいいのか?ひやひやすんだよ単純に!」
「ったくあんたたち…。頼りあって支えあおうって話をしてる最中に…」
「はは…これこそまさにそれですね」
彼らの思いやりの精神には感服してしまうなぁと思った。
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