第46話 お花見と花火と。
早速お花見の日になった。
当日、浪曼はなぜか迎えが来るまで家で待つよう言われてしまい、中庭で宇宙船作りに励んでいた。
そこにふと現れたのは…
「っお!レオンくん!」
この星で初日に母親と丘に来て出会った男の子レオン。
彼はパウリナが手を焼いているくらい自分の好きなこと以外には興味を示さず、浪曼の講義にも顔を出さないことがしばしばある子だ。
でも浪曼はそれでも良いと思っている。
「どうしたの?レオンくんも今日お花見行くよね?」
「……何作ってるの?」
レオンは小さく頷いたあと、興味深そうに作業を覗いてきた。
「あ、これは宇宙船だよ」
「うっ、宇宙船っ…?」
まぁ驚くのも無理はないだろう。
それに、宇宙船なんてきっと男の子のロマンだ。
「そうだ、レオンくん!ちょっとまってて!」
浪曼は1度家に入り、急いで"あるもの"を持って戻ってきた。
「これってレオンくんの絵だよね!
捨ててたらしいから、僕貰っちゃったけどいいよね!」
「これ…っ」
それは、初めてパウリナの手伝いとして学校へ赴いた際にたくさん箱に詰められていたレオンの絵の1つだった。
あまりにも精巧で素晴らしすぎる絵なので1枚貰って今まで部屋に飾っていた。
パウリナは、レオンが描いては捨てを繰り返してはいても勿体なくて箱に取っておいたらしい。
「授業中にいつも描いてたやつ…」
「うん、レオンくんすごいよ!絵の才能があるんだね!」
「っ……」
レオンは褒められ慣れていないのか、顔を仄かに染めて目を逸らした。
「捨てるなんて勿体ないよ!
これからは僕にちょうだいね!」
「でっ…でも……勉強もせず絵ばっか描いてるからいつも叱られてる。勉強できないくせにゴミばっか増やすなって周りに言われたことも…」
「ゴミなんかじゃないよ!たとえ君の絵が下手くそだったとしても!」
ハッと驚いたように目を丸くしたレオンが、浪曼を見る。
浪曼は目を細めて眩しそうに絵を見つめている。
「真心込めて作り出したものは、それがどんなものでもロマンなんだよ。宝物なんだ。二度と生み出せない。誰にも真似できない。だから価値がある。」
「……そう…なの…?」
「そう!だからレオンくんは、絵を描き続けるんだ。いつかこれも…本物になる。」
レオンの目が見開かれる。
浪曼が手に持っている絵は、エドラの星の丘に眩い太陽が差し込んでいる風景だった。
「あ……ていうか……」
「ん?どうしたの?」
「ぼく…迎えに来たんだった。あなたを…」
「えっ?そうなの?じゃあ行こう!」
浪曼はレオンの手を引いた。
そして到着した先で、浪曼は驚愕することとなる。
「「誕生日おめでとう浪曼!!」」
星の丘には装飾がされていて、桜は満開に咲き誇っていた。
「なんでっ…えっ、あ、そっか…今日って僕の誕生日……」
いろんな種族の皆がお祭りのように集まっていて、食べ物もたくさん用意されている。
お花見というよりも、自分のバースデーパーティーがメインになっていて驚いてしまった。
思いもよらなかったサプライズだ。
「浪曼さん、おめでとうございます」
「エヴァ女王も!花粉症完全に治ったんですね!」
この桜の絶景を一緒に見ることが出来て良かったと思った。しかもエヴァは今までなかなか遠出ができなかったと言っていた。
「お陰様で。本当にありがとう。こちら私からの贈り物です。」
そう言って渡してきたのは、なにかの植物の球根のようだった。
「浪曼さんをイメージして、皆の魔法を集めて作ったんです。何が育つかは浪曼さん次第です。」
「え……いいんですか?ありがとうございます。大切に育てますね」
なんだか凄いワクワクするものを貰ってしまった!
と目を輝かせていると、次々と皆がプレゼントを押し付けてきた。
主に手作りの生活用品や香水、食べ物や文房具といった数々だ。
「俺からはこのでっっけぇバースデーケーキ!すっげぇだろぉ?!上等な素材ばかりで作ったんだぜ!」
「ありがとう……でもこれは…も、もはやウエディングケーキじゃ…」
アルトゥルが用意してくれた大きすぎるケーキは2段のスクエアケーキになっていてデコレーションもなんだかすごいことになっている。
「浪曼さん」
「……あっ!」
呼び止められて振り向くと、バイソン社のラデックたち従業員と共に、マグダがいた。
「これをアンタに…」
マグダが渡してきたのは、新しく生まれ変わったプレミアムズブロッカだった。
「僕ら従業員みんなで作ったんですよ」
とラデックが付け加えた。
あれからマグダは自ら進んでプレミアムズブロッカの製造法を伝授するようになり、生産量も質も向上したと聞いていた。
だからあの時に頂いた瓶よりもどこか重く更に特別なものに感じた。
皆に大感謝をしながらお花見兼誕生日会を楽しんだ。
こんなにたくさんの人に囲まれて賑やかに祝ってもらったことは生まれて初めてだ。
「浪曼さん、紹介するわね」
そう言って近寄ってきたのはパウリナだった。
その隣には、背が高くこれまた男前なエルフがにこやかに笑みを浮かべていた。
「恋人の、モリスよ」
「はじめまして、モリスです!何度もお話を伺っていたのに挨拶が遅れてすみません!」
「いえいえこちらこそですよ!木葉浪曼です!」
この星に来て3ヶ月目で初対面となってしまった理由は、お互いの生活ルーティンが合わなかったというよりも、モリスの多忙にあった。
モリスは貿易仕事をしているため、各国に泊まりがけでいつも出向いている。
たまに帰ってきても、浪曼に会っているほど余裕がなかった。
「お会いできて嬉しいですよー。それにしてもパウリナさんとモリスさんはお似合いですね!」
浪曼特有の遠慮のない発言は、目の前の2人を真っ赤にさせた。
モリスは本当に良い人そうなので胸をなで下ろしていた。
「これよかったら…プレゼントというか土産物みたいなものですけど…」
「えっ、そんなわざわざありがとうございます」
各国の象徴の置物を貰ってしまった。
そこで初めて、それぞれの象徴がどのようなデザインなのかを知った。
その後も、人魚族のマルチン王やアニャ姫、砂漠族のシンシア女王やシモンも仲間たちを引き連れて来ていて、いろいろなプレゼントを渡されてしまった。
「浪曼!そろそろライトアップするか!」
薄らと暗くなってきたあたりで、夜桜鑑賞するためのライトを付ける。
桜がより美しい色合いに見えるように工夫して、しかも例の鉱山でとった鉱石で作ったものなため、誰もが息を飲むほどの美しさとなった。
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