第44話 科学教師


ここ最近の浪曼は、パウリナの務めている学校に、なんと科学教師として赴いていた。

パウリナが推薦し、校長であるツェザリに頼まれたのだ。


浪曼自身、好きなことや知識を教えることは苦ではなく、むしろ楽しいと感じていたし、生徒たちも好奇心が強く、やりがいがあった。



ちなみに今日は、全国から全種族の生徒が集まる公開授業の日だった。



「科学っていうのはね、僕たちが生きる上で生活に役立つことがたくさんあるんだ。たとえば、料理や掃除なんてのは、科学の力を利用していかようにでも楽しく簡単にすることができる」


浪曼は大勢の生徒たちの前で、様々な化学道具を並べた。


「たとえばこれはリトマス紙という、酸性とアルカリ性を見分けることができるもの。

じゃあ試しにやってみよう!誰か手伝ってくれないかな?」


「「「ハイハイハイ!!!」」」


あまりの熱気と積極さに、浪曼は嬉しくなった。


「じゃあ…フィリプくん!

この中から、好きなものを選んでリトマス紙を置いてみて。」


砂漠族のフィリプはレモンを選び、リトマス紙を置く。

すると、みるみる赤に変化した。


「「うわぁ…」」と皆の感嘆の声が広がる。


次に指名した人魚族のアネタは石鹸を選び、リトマス紙は青に変化した。


「こんなふうに、赤に変わるものは、酸性。

青に変わるものはアルカリ性なんだ。

これは君たちの日常生活において、いろいろなことで役に立つ。

たとえば、酸性のレモンやビールは肉などのタンパク質を柔らかくするし、アルカリ性の洗剤や石鹸は汚れをよく落とすし。

科学を学ぶことで、生活はもっと豊かになるんだ!」



「すごーい!早速試してみよう!」

「帰ってママに教えてあげなきゃ」

「やって見せて驚かせてやろう!」

など様々な声が聞こえ、浪曼は満足した。

やっぱり自分の知識で誰かを喜ばせることほど自己肯定感をあげるものはない。



「先生!質問いいですか?」


「あ、はいどうぞ!えっと…チェスワフくん!」


ピクシーのチェスワフ君。

彼は授業の度にいつも質問をしてくる意欲のある子だ。


「こないだ、ミルクにレモンを搾ったんです。そしたら混ざらなくて…。それもこの科学の反応ですか?」


「おっ、良い質問だね!

まさしくその通り。レモンや酢などの酸は、乳製品のタンパク質を固まらせる性質がある。これを分離っていうんだ。

でもそれを利用して、見た目が綺麗で面白いデザートを作れたりもするよ」


浪曼は目の前にある実験道具を使って実験を始めた。

それを、参加している皆が興味津々にまじまじと見つめている。


こんなふうに、いつのまにか浪曼は教師の仕事が多くなっていた。




「浪曼くん今日もありがとうね。これよかったら持って帰ってよ。」


帰り際、ツェザリ校長に渡された包み。

中を覗くと、美しい桜色の石鹸が入っていた。


「こないだ浪曼くんに教わった科学知識を妻に教えたら、さっそく張り切ってたくさん作ったんだよ。」


「す、すごいっ!ありがとうございます!ちゃんと桜の花びらも入ってる!」


石鹸は一般的に、脂肪や油を熱しアルカリ物質を混合したりして作るのだが、その過程で好きなアロマや花や香りなどのオプションをプラスすることができる。


「それに、桜の良い香りだ…

そっか…。もう春なんですね…」


もうすぐこの地へ来て3ヶ月。

桜を見ると、故郷を思い出す。

両親が生きていた幼い頃に一度、3人で満開の桜道を歩いたことがあった。

その時の桜が今でもハッキリと脳裏に焼き付いている。

まさかこの星にも咲いているとは思わなかった。

最近桜がチラホラと花を咲かせている。


「あ、そうだっ!今度皆でお花見をしようか!実はエドラはね、桜の絶景の場所があるんだよ!毎年そこで各国の教師陣が集まってお花見をしたりするんだ!」


ツェザリ校長は、どこかぽわぽわと癒し系な性格と喋り方をしているエルフだ。

浪曼だけでなく誰でも、彼を前にするとなんでもYESと言いたくなってしまう。


「是非!!あ、そうだ。どうせだったら夜桜とか花火とか、夜も楽しんだらどうでしょうか?」


「……?なぁにそれ?」


「あっ、そっか!花火ないのか!」


ならばこれは、また1つの楽しさを皆に教えられるチャンスだと思った。

またこの地に1つ、新たな娯楽を増やしたい。


「花火っていうのは、内部に火薬や爆発物を含んだ球体や筒状の殻に、花火の形や色を決定する化学物質が詰め込んで作るんです。」


「爆発物?!大丈夫なのそれ?!」


「正しく作れば危険ではありません。

火花が内部の火薬に触れると爆発が起こり、空に打ち上げられるんですけど、空中で内部の化学物質が燃えて美しい模様や色が生み出される仕組みなんです。」


「へ、へぇ……想像がつかないなぁ……」


まぁ口で言っただけじゃ分からないだろう。

だから実際に見てもらって驚かせたい。

最近浪曼は化学で人を喜ばさたり驚かせたりすることに楽しみを感じてきていた。


「期待しててください!

花火はものすっごく綺麗で、空に打上げるものだけでなく、手持ち花火って言って、手に持って楽しむものもあるんですよ!」


大人も子供も楽しめる花火。

これは絶対に作るべきだ!

となると……火薬などといった危険物を扱える者に協力を仰ぐ必要がある。

思い当たる人物はやはり……職人気質のホビットあたりだろうか?

それとも耐性のある巨人族……?

はたまた細かい作業が得意なピクシーか?


浪曼は無意識に紙に花火の絵を描きながら考えていた。

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