第23話 忙しい日々

次の日から浪曼は大忙しだった。


各方面に伝授した知識の確認にてんてこまいで、しかもその連絡はパヴェルに来るので彼にも相当な負担をかけていた。



「茶渋を簡単にとるすごいタワシを開発したんじゃよ」


今日はホビット王のクルトがやってきていた。

得意げに見せてきたそれは、さっそく先日の一件で教えた成分を取り入れたものだった。


それで勝手にパヴェルの庭でお披露目会を始めてしまった。


「ほれほれ〜っ!汚れが取れん食器をどんどん持ってくるんじゃ!」


「わぁ!すご〜いっ!」

「新品みたいにピカピカよ!」

「これ気に入ってるコーヒーカップなの!」


わらわらとエルフたちが集まり、まるでなにかのお祭りのようになっていた。


「今なら100エドラじゃ!お買い得じゃよー!」


「買うわー!」

「私も買う!2つおねがい!」


どうやらそのタワシは売れ行き好調らしい。

しかし、戻ってきたパヴェルは当然怒りとともに呆れていた。


「クルトジジイ!勝手に俺んちで店開くなよ!」


「まぁいいじゃないかパヴェル。ほらコレ、ロケットや宇宙船の汚れもすぐ落ちる優れものだよ〜」


「あっ、おい勝手にそんなもんで擦るな!」


宇宙船の部品を楽しそうに磨いている浪曼に、パヴェルはあたふたする。

エルフたちも皆和気あいあいとしていて、こんな光景久々に見たなと肩の力を抜いた。


まーいいやもう。放っとこう。


「てゆーかホイ、これ!お前専用の!!」


「えっ!まさかっ」


浪曼専用の携帯電話…地球でいうスマートフォンみたいなものだが、電話やメールといった単純な操作のみできるものをパヴェルがプレゼントしてくれた。


「とりあえず知ってる奴らの連絡先は入れといたから。は〜ぁ疲れた〜!これでようやくお前の秘書係から開放されるぜ!」


「ありがとうパヴェル!さすがやることが早いエルフの王!」


「なんっ…これくらい普通だわっ」


最近気づいたのだが、パヴェルは褒められることにめっぽう弱く、すぐに耳が赤くなる。


「ところで今更だけどパヴェル。どうして王だってこと最初僕に言わなかったんだよ」


「……別に。言うタイミングなかったってかそんなことどうだっていいだろ?」


浪曼のロケットの隣で、宇宙船作りをしながらパヴェルは言った。


「ガキの頃、父親が死んだ話はしたよな。」


「うん…」


「もともとは父親が王だったけど、見てて思ったんだ。俺にはできないって。」


「立派にできてるじゃないか。

外から来た僕のことも受け入れてくれて、すぐに皆と馴染ませてくれて」


「……父親がそうだったからな。

茂のことを最初に見つけたのは、父親だったんだ。」


「えっ。そうだったんだ!」


「……なんで嬉しそうなんだよ。

ま…エルフの王家にはこういう縁があるもんなのかね」


パヴェルも少し嬉しそうだった。


浪曼が想像していた王というものとは少し違ったのが、このエドラ星の王たちだ。

王というと、たくさんの家来や兵を携え、大きな城で贅沢に暮らしているのを想像するのが普通だろう。

しかしここの王たちは、一見すると普通の住民と同じように生活していて、かなり馴染んでいる。

それが浪曼にとっては安心感のある心地良さだった。



「じゃあ僕、そろそろ太陽のほうに移るね」


「おう、宜しく頼むぜ。じゃあ俺はちょっくら婆さんとこ行ってくるわ。」


「うん!行ってらっしゃい!」


実はパヴェルには祖母が一人いる。もちろん何百年も生きている、現在最年長のエルフらしい。

しかし十分元気なようで、なんと1人で生活しているらしいから驚きだ。

ちなみにパヴェルの母親はパヴェルとパウリナを産んで3年後に亡くなってしまったらしい。

元々体の弱かった母親は、その時に流行した流行病に抗えなかったようだ。

ちなみに聞くところによると、その病はインフルエンザだと浪曼は確信した。

茂光の作った特効薬が幸をなし、収まったらしい。


パヴェルの部屋には両親の絵が置いてある。

その頃はまだ、写真という技術はなかったのだろう。


とはいえ浪曼も同じようなものだ。

母親を幼い頃に亡くし、父親は死んだばかりだ。



「命って儚いんだよなぁ……いつかは消えてなくなるのに…なんで僕らは皆こんなに必死なんだろうなぁー」



ある程度パヴェルには今日の宇宙船作りの過程を進めておいて、いつも通り浪曼は太陽の研究に入った。

毎日いろいろなことを試している。


人工的な太陽を模倣するには、今のところ考えられる方法は4つだ。


1つ目は「核融合」

太陽のエネルギー源を、核融合反応によって生み出す。

地球でも人類は長年、地球上で制御された核融合を実現することで、太陽のようなエネルギー源を作り出す研究を行ってきた。

これは非常に難しい技術的課題で、将来的にクリーンで持続可能なエネルギー源として期待されていたが、結局成し遂げられていない。


2つ目は「太陽光発電」

太陽からの光を利用して電力を生み出す技術だ。

地球でも、太陽光発電パネルは太陽の光を電気に変換するため、太陽のエネルギーを利用した持続可能なエネルギー源として広く利用されていたが、ここエドラ星ではどうだろうか?

太陽光が微弱で、充分ではないかもしれない。


3つ目は「人工太陽炉」

人工的な太陽炉は、高温プラズマを用いて太陽と同様の核融合反応を起こす試みだ。

これは地球でも長年実験的な段階にあったが、うまくいけばこちらもエネルギー供給の方法として開発される可能性があった。


4つ目は「恒星模倣実験」

宇宙物理学の研究では、恒星の形成や進化を模倣する実験が行われていた。

恒星は高温・高密度の環境下で水素やその他の軽元素が核融合反応を起こしてエネルギーを生み出している。また、プラズマと呼ばれる高温のイオン化ガスなどといった宇宙でのエネルギー源を調べて太陽や他の恒星の挙動を理解し、宇宙の基本的な物理学を探求していた。


正直どれも難しい。

どれも研究したことがあるが、人類が1000年以上力を入れてきても成し遂げられなかったことは、流石に容易ではない。


となると、なにか全く別の角度から別の考え方で研究してみるべきかもしれない。


この中で一番可能性のありそうなもの…

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