第7話 光をもたらす者
「……わかった。」
ゆっくりと顔を上げた浪曼の真剣な瞳に、2人の兄妹の希望に満ちた表情が映る。
「僕が、光をもたらす者になるよ」
雲を通して朧気な薄明かりが地上をほんの少し明るくした。
浪曼の背中を押すように、後ろからそれが熱を持つ。
「僕は、ロマンだから。」
浪漫は、この世で唯一、絶対的不滅のものだ。
♪~~〜~♪~~~~♪
その時突然、村中に音楽が鳴り渡った。
ハッとしている浪曼に、パヴェルは笑って言った。
「これは、朝になったことを知らせる音色だ。
俺は、むかーし茂が作ってくれた目覚まし時計があるからいつも早起きしてるけど、この星には時間感覚がないだろ?
だから日の出、日の入りのときにはこうしてエドラ中に音楽を鳴らして全員に分かるようになってるんだ。」
呆然としている浪曼に首を傾げる。
「……おい、浪曼聞いてる?」
「知ってる……」
「はぁ?ここ来たばっかなのに知ってたの?」
「違うよ、この曲…」
僕はこの曲を知ってる。
小さい頃から、父が教えてくれていた歌だ。
「これはホントは……曲じゃなくて歌なんだよ。歌詞があるんだ。」
「かし……?」
~~~♪
夜空に輝く星々のように
暗闇に光をもたらす者
心に灯す希望の火
皆を包み温める陽
大地を染める灯
全ては黄金に輝く
道を示す導き手
全てを守る守護者
勇気を与える存在
光をもたらす者
口ずさんでいると、懐かしい父との思い出が甦った。
なんという曲か聞いた時、父は分からないと言った。ただ父も、自分の父から聞いた歌なのだと。
「……この曲のタイトルは?」
「これは、"光をもたらす者"。
俺の父親が、生前に作曲してたやつだ。」
パヴェルのお父さんが……?
「私たちの父は、この星に最初にオンガクというものを布教したエルフなのよ。」
「へぇっ!作曲家なのかぁ!」
「……さっきょくか…って言うの?」
「うん。音楽っていうのは、光と同じくらい大切なものだよ」
ここに来る途中で、誰も歩いていないのがどうしてか尋ねた時、いずれ分かると言われた理由はコレだったのか、と思った。
つまり、この国での時間はこの曲によって知らされることになっているということだ。
先程から、ほかのエルフたちがちらほらと動き出している気配がする。
「1度目の音楽のときは、朝。
2度目は昼、3度目は夜。そう決まってるんだ」
なるほど。
それによって、この星の住民たちは行動しているのか。
きっと星中に響き渡るこのシステムも、茂光さんという人物が作り出したものなのだろうなぁ。
「そういえば…その茂光さんって生命体は、なんという星から来たの?」
「それはわからない。
茂自身も、小さな息子がいたことだけしか覚えていないと言ったんだ。」
「えっ、記憶喪失だったってこと?」
そのとき、小さい子供と母親らしきエルフがテクテクとこちらに歩いてきた。
「おはよう!パヴェルお兄ちゃん!パウリナお姉ちゃん!」
「おはようございますパヴェル様パウリナ様」
「「おはよう」」
初めて子供のエルフを見た。
スカイブルーの澄んだ晴天のような大きな瞳が美しい。
そしてよく見ると、歪な星型の何かを持っていた。
「レオン、また上手くなったなぁ」
「えぇ!とても腕が上がったわね!」
2人に褒められたそのレオンという男の子は、照れたように笑った。
そして、チラリと浪曼を見上げて疑問符を浮かべた。
「レオン、こいつがあの伝説の"光をもたらす者"だぜ」
「!!!ちょっとパヴェルッ」
レオンは当然目を丸くし、たちまち輝かせ、母親の方は口に手を当てて涙ぐみはじめた。
浪曼はどうしていいか分からなくなり咄嗟の言葉が出てこない。
「じゃあお兄ちゃん…太陽を作ってくれるんだね」
ふと視線を落とすと、小さなその星型には、歪な字で、「たいようとへいわ」と書かれていた。
レオンは母親と共に星の丘にそれを置くと、パヴェルたちと二言三言話して去っていった。
「あいつも昔ここの戦いで父親を亡くしたんだよ。母親の腹の中にいたから記憶がないことが救いだ。
だが歴史の授業である程度習うからな。毎朝ここに来て祈りを捧げてる、健気な子なんだよ」
浪曼はレオンの希望に満ち溢れた空のような瞳を思い出した。
あんな目で見つめられれば、必ず成し遂げなくてはならないと覚悟せざるを得ない。
「あ…そういえばあの子のママ、浪曼のこと言いふらすんじゃないかしら。ものすごく噂好きで口が軽いから」
パウリナが苦笑い気味でそう言ったので、浪曼は「えっ」と冷や汗をかく。
「まーいいじゃねぇかよ。どっちみち全員知ってもらわなきゃなんねーことなんだし」
「ちょ、ちょっと待ってよ。そんなに大事にされても困るよ」
「は?なんでだよ?」
「だってそんなに期待されたら……」
言ってしまってからハッとした。
自分は昔から、多くの人から期待されることを望んでいたはずだった。
誰かの役に立ちたいと、常々思ってきた。
けれど実際は、こんなにプレッシャーに感じることなんだと初めて知った。
生前の母親はよく自分に言っていた。
" 期待や賞賛を得ようとして誰かの人生を生きるのではなくて、自分に自信を持つためにそれをしなさい。それは、自分の人生を強く生きるためよ "
と。
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