第35話 伝説の酒

気を取り直して、浪曼はようやくスイーツに合う酒について情報収集に入った。


「なるほどな。あのスイーツコンテストとやらに出るのか。万能なんだなマロ…いや、ロマン。」


「いや僕はお菓子を食べることは好きでも作ることに関しては無知で……

でも地球ではよく、お菓子にお酒が使われていたんです」


「「酒が?!」」


「えぇ。例えばウイスキーとかラム酒とか。」


ウイスキー入りのチョコレートやラム酒が効いたサヴァランなどといったスイーツは、よく自分も好んで食べていた。


「今回作るのはモンブランという、栗を使ったスイーツなので、栗に合うお酒とかあればなぁと思って……」


うーむ……と暫く皆考え出した。


「お。それならアレじゃね?」

「あぁ。そうだなアレだな絶対。」

「アレとマロンをつまむのは絶品に違いない」


「……アレってなんですか?」


「コレでしょ」


いつの間にかウェイトレスがデンっと酒瓶を置いた。


それは、なぜかバイソンという動物が描かれている透き通った黄金色をしているウォッカだった。


「って……コレって、さっきから皆さんが飲みまくってる、ズブロッカってやつですよね?」


「ふふ、そうなんだけど、実はコレたくさんの種類があってね。その中でも超プレミアムなズブロッカってのがあるのよ!」


まるで夢見る乙女のように目がとろーんとしてくるお姉さん。

それを前に、飲んだくれの彼らも同じような顔をした。


「あれうめぇんだよな〜格が違う……」

「なかなか希少で、年始に1度飲めればいい方なんだよな〜」

「もっと大量生産できるようになってくれりゃいーんだけどな〜」


よく分からないが、どうやら本当に美味しくて希少価値の高い酒なのだろう。


「どこに行ったら手に入りますか?そのプレミアムは」


「どこって、そりゃあズブロッカメーカー社のマグダ婆さんとこだよ」


聞くところによると彼女は蒸留酒の先駆けであり、エドラで一番古くて人気な酒メーカー設立者として大変有名人であるらしい。


「マグダ婆さんは元気だけどなかなか頑固な完璧主義でなぁ〜。蒸留酒のスペシャリストなんだが、プレミアムだけは婆さんにしか作れないらしいんだ。

だからなかなか製造が追いつかん希少な酒なんだぜ〜」


「なるほど……」


であれば直接行って、なんとか少量でも手に入らないか交渉してみたい。

と浪曼の好奇心がまた疼き出す。


「ありがとうございました!

では行ってきます!!」


「えっ?一滴も飲んでないくせに行くのかよ?!」


「あっ……そうでした」


飲んだことがないくせに図々しく押しかけていくのはさすがに失礼だろうと思い立ち、浪曼は恐る恐るそのきつい香りのウォッカに口をつけた。


「っっっっっ!!!!」


あまりの苦味とアルコールの強さに、まさに言葉を失ってしまった。


これは正直……飲み物ではない。


なんて失礼なことすら発せられないくらいに今の浪曼はむせ返っていた。

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