第38話 スイーツコンテスト
それから数日、何度も試作を繰り返し、いろんな人に味見をしてもらったりして、ついにオリジナルのモンブランが完成した。
そうしてドラゴン国でのスイーツコンテスト当日……
「うわぁ〜……すっごい盛り上がりだね
なんだか遊園地みたい……!」
ドラゴン国は完全に祭りのような派手な装飾がなされていて、そこらじゅうにたくさんの店が出ていた。
食べ物や様々なお土産類など、観光収入も得られるような感じになっていてとにかく圧倒されてしまった。
そして当然、ドラゴン族だけでなく、エルフもピクシーもホビットも巨人も砂漠族もいる。
「キャーっ!パヴェル様ぁ!」
その声に振り向くと、なんと向こうの方から人魚であるはずのアニャがマルチン王とこちらに歩いてくるではないか。
「えっ、足どうなってるの?!」
以前、砂漠国でも長女のモニカ姫とやらがボーイフレンドらしき男と歩いているのも見たが、人魚は足を生やすことができるのだろうか?
「あ、浪曼さんこんにちは!
んもう!パヴェル様どうしてワタクシの連絡無視するのですか?!」
「チッ。気付かなかっただけだ。」
見え見えの嘘をついてだいぶ面倒くさそうなパヴェルはさておき、浪曼はとにかく脚をジロジロと見てしまった。
傍から見るとかなりの変態だ。
「お、そういえば浪曼。」
「あっ!はい!王様!」
「以前キミが伝授してくれた海質を変えるための規定を設けたんだ」
「おっ、ついにですね?」
出会った時に約束した通り、浪曼はあの海のトラブルを改善するために様々なアドバイスをしてきていた。
たとえば、海洋生物や食物連鎖に影響を与えないようにするための廃棄物や漁業への配慮。
全体の海洋環境を整え保持するために、陸地の種族たちとも協力して様々なことに取り組んで行くことにしたのだ。
マルチン王はさらに細かく規定を設けたらしい。
「おかげで海中の皮膚病は改善したよ」
「それはよかったです!あとはもっと充分な太陽光さえあれば完璧ですね。」
「あぁ。期待しているよ」
そうだ。期待に答えるためにも……
僕はまだまだたくさんのエネルギーを集めないと。
ポケットの中のクリスタルをギュッと握り締めながら、ずっとずっとずーっと気になっていたことをようやく聞くべく、彼らの脚を見た。
「ところでその……」
「おっ!いたいた浪曼!お前はこっちだぞ!」
突然空から降ってきた声に顔を上げると、大きな翼を広げ、白い歯をニッと輝かせているアルトゥルがこちらを見下ろしていた。
「今日という日をどれだけ待ち望んでたことかーっ!お前の地球スイーツを楽しみにしてたんだぜ!行くぞっ!」
「うわぁっ?!」
アルトゥルにガッと抱えられ、たちまち宙を舞う。
呆れたようにこちらを見上げているパヴェルがどんどん遠ざかって行った。
こうして到着した場所にはしっかり自分用のブースができていて、前日に生産したスイーツがズラリと専用冷蔵庫に入れられていた。
「待ってたよ浪曼!」
「ミアちゃん!今日は宜しく!」
このドラゴンの少女ミアは、昨日スイーツを受け取りに来てくれた今日の担当補助だ。
かなり可愛い感じにブースの装飾までしてくれたらしく、じんわり感動してしまった。
「ミアちゃんセンスあるよね。凄い。」
「なっ……そそそんな褒めても何も出ないよ!」
どうやら照れやすい性格のようだ。
しかしとても明るく元気な子なのでとても安心していた。
「そんなことより浪曼の作ったやつ!言われた通り昨日試食したけどめちゃくちゃ美味しくて飛び跳ねたよ〜!」
「ホント?!良かった〜……」
「モンブランと……えっと、さ、サヴァランだよね。
慣れない言葉だから発音難しい〜。初めて聞いたけど地球では人気なの?」
「うん、かなり有名な洋酒菓子なんだよ。
今回はさ、ズブロッカのプレミアムを使わせていただけて」
「えぇ?!あのバイソンの?!」
やはりミアも驚いている。
「じゃあ絶対にマグダ社長にも食べて頂かなくちゃじゃない!今日来てくれるかなぁ〜。去年は見かけなかったけど」
「うん、もし来てくれなかったら、直接持っていく予定だけど……来てくれるといいなぁ」
そんなこんなで、コンテストは開幕した。
わいわいとそれぞれの種族の老若男女がたくさん集ってくる。
ミアがいてもてんやわんやになっていた。
やはり浪曼は地球人ということもあって、人気っぷりは半端じゃなかった。
ほかの出店者たちが焦りや嫉妬の表情になっている。
「チッ!こちとら3種類も出してるってのに!」
「こっちもよ!」
そう。このコンテストは何品出しても良いのだ。
だから浪曼は、せっかく手に入れた良いお酒を活かしたいと思ってサヴァランも作った。
そしてもちろん当初の予定だったモンブランも。
ミコワイから貰った栗とピクシーから貰った蜜やナッツなどをふんだんに使い、かなり頑張って地球で食べていたモンブランよりも美味しいものに近付けた。はずだ。
とはいえ全て手作りなので、そんなに大量生産はできない。
今回は、審査員代表の各種族の王の分を含めて300個ずつ。
ちなみに、作るのを手伝ってくれたのはミコワイだ。
手際がよく要領の良い彼の手助けがあって本当に良かったと心底思った。
でなければこの数は到底無理だったろう。
そして審査はというと、各スイーツに上限300の投票券がついている。
つまり、食べた者全員が審査員なのだ。
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