第37話 マグダの秘密
「ところでプレミアムの話なんですけど、今よりも生産量を上げるのは難しいんでしょうか?」
「……そうですね……実はプレミアムに関しては、マグダ社長がなかなか僕たちに伝授してくれないんですよ」
「えっ、どうしてですか?」
「それが、わからないんです。
もちろん製造方法がかなり緻密で難しいということは分かるんですが……正直、社長が今後いつまで現役で体を動かしていられるか分からないから、僕ら従業員は不安で……」
「そう…ですよね……その技術が途絶えてしまったら大変ですもんね……」
どうしてだろう……?
一番人気のプレミアムズブロッカを伝承させたくないのだろうか?
「でもマグダ社長は凄いですよ!
お若い頃から様々なお酒作りを試行錯誤してきて、ついに国民から愛されるこのウォッカメーカーを創設したということですから。しかも生涯未婚のまま、人生の全てをズブロッカに注いだんです!」
ラデックはマグダをかなり尊敬しているらしく、まさに憧れの人を語る眼差しだ。
「そっか……若い頃からたった1人で好きなことを極められるなんて、僕も尊敬するな」
「けど……実は僕見ちゃったんですよね」
「え?何をですか?」
「写真です」
「写真?!写真の技術があるんですね!!」
「……??浪曼さん何を言ってるんです?」
「あ……ごめんなさい。なんでもないです」
まさかこの星に写真技術があるとは思わなかったし、なぜか写真屋さんにも気が付かなかった。それはカラー写真だろうか?
「ある日、社長と、バイソングラスの採取に行ったことがあったんです。
バイソングラスはこの星のあちこちにかなり少量ずつ生えています。
星の丘の近くにもあって、採取のついでにお祈りをしたいから、どうせなら例の戦争勃発日…英霊たちの命日に行こうということになりました。
そのときに社長が捧げた星のペンダント……つい好奇心で見てしまったんです。」
「……それが、恋人の写真だったってことですか?」
「今のマグダ社長じゃ信じられないんですけど、
我々ホビットではない人物に、かなり若い頃のマグダ社長が満面の笑みで抱きついていたんですよ。」
「えっ」
「それってそれって!絶対に恋人ということですよね?!恋人じゃないと笑いあって抱き合ったりなんてしないですよね?!」
「うっ、うん……まぁ…多分…」
正直そこのところは自分も疎いし経験がないので分からないが……。
あのマグダさんが満面の笑みで男性にハグ……か……。
恋人でないにしても好意を寄せていたことは確かだろう。
「だから本当は社長、恋人をあの戦争で亡くしてるんじゃないかなって。
それでたった一人で酒屋をやることになった……とか……」
「うーん……なるほど……」
「こっ、これって僕気持ち悪い妄想ですかね?!
あれから僕いろんな妄想が止まらなくてっ!」
「えっ、やっ……そんなことは……」
こういった現象が起きていることも、きっと本当にマグダの大ファンである証拠だろうと思った。
「マグダ社長にはお子さんがいません。跡継ぎがいないから、その辺もどうなるのか分かりません。
できることなら僕が跡継ぎになりたいですけど……」
「僕が、それとなくマグダさんに聞いてみますよ」
「本当ですかっ?有難いです。僕こう見えて結構ビビりで…他人とのコミュニケーション自体が昔から苦手なんですよね」
なんとなくこのラデックという青年は、自分に少し似ているところがある気がした。
「貴重なお酒も頂いてしまったし、蒸留酒の体験もさせて頂いたし……なにより皆を笑顔にしているこのお酒を、永遠に絶やしたくはないですからね。」
ニッコリ笑ってそう言うと、ラデックも微笑んだ。
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