第15話 巨人族


次に来たのは巨人族の街だった。


今のところ何もかもに驚愕しているので、巨人にももちろん驚いたわけだが、身構えていたおかげかそこまで衝撃はなかった。

むしろ何十メートルもある巨人を想像していたのだが、平均的には4メートルくらいなので少し安心したのが事実だ。

しかも外見は普通の人間なので、怖い印象は全くない。


それでいてなんと……


「巨人族の連中はさ、結構ナイーブで臆病なんだ」


「えっ」


そういうことらしいから、あまり脅かしたりするなと言われた。

気をつけよう……いや、気をつけてほしい。パヴェルが。


「おーーーーい!皆聞いてくれーーっ!!」


巨人たちが歩く大きな街中に降り立った瞬間、パヴェルは今までにないほど大きな声を出したためギョッとする。

巨人たちは立ち止まってこちらを見下ろした。


「ちょっとちょっとパヴェル!

脅かしちゃダメなんじゃないの?!」


「こんくらいの声で喋んないと聞こえねぇんだって」


「いやそういうことじゃなくてっ」


自分で言ってるそばから何を考えているのだろう。

しかし続けてパヴェルは大きく息を吸った。

嫌な予感しかしない。


「ここにいるこいつ!こいつは地球から来た人間!光をもたらす者だぞーーー!!!」


いいいいいいきなりそれぇぇええ?!


当然ながら、巨人たちは誰もがギョッとした表情になり、軽くパニックになっている。

眩暈を起こしている者や、あたふたと右往左往している者、なにかを叫んでいる者もいる。


「ヨシっ!完璧だな。

これで一気に噂は広がるぞ」


「なっ、何が完璧なんだよっ!皆パニクっちゃってるよ!どうするの?!」


「はぁ?どうするってなんだよ。

ここの長は大の面倒くさがりだから俺が一役かってやったんだぞ」


「君がそんなことしなくたって別の方法があったでしょ絶対!」


ドシンドシンと巨人たちが騒がしく歩き回る足音などでお互いの声が聞こえなくなった。

巨人はパニックになると周りが見えづらくなるようだ。

浪曼たちは何度も踏み潰されそうになり、こちらまでパニックになっていると、ヒョイッと自分の体が浮いた。

何かに掴まれているのだと自覚した時には、巨人の大きな顔が自分を覗き込んでいた。


「何をしとんじゃお前らは」


「お〜う!ミコワイ!迎えに来てくれたのか!」


でっ、でっかい!周りの巨人たちより!

多分5メートル…いや6メートルあるんじゃ?!


見た感じ、サンタクロースのように威厳のある佇まいだ。

おまけにサンタクロースみたいな帽子を被っているようで、その上にヒョイと置かれた。


「しっかり掴まっておけ」


それだけ言った瞬間、すごい勢いで走り出した。

さすがに巨人に乗って走るなんて生まれて初めてなので地響きが身体中に響いて、また乗り物酔いをしてしまいそうだ。


そしてやはりパヴェルの言っていた通り、巨人たちの噂好きは本当らしく、ものの1分しか経っていないはずなのに、


「アレが伝説の生物よ!」

「光をもたらす者が来た!」

「わぁ〜っ!あれが例の地球人?!」


などと周りから好奇の目を向けられた。


そんな状況を走り抜いてもらい、到着したこれまたデカい家のデカいソファーに放り投げられた。

ボワンボワンと何度もバウンドし、起き上がるのにも苦労した。


周りを見渡すと、やはり何もかもが大きすぎて驚きを隠せない。


「ふわぁあ〜。叔父さん?なぁに、誰か来たのー?」


なんと隣の部屋の大きな扉から、またも大きな人が出てきたのだが、かなりの美青年で思わず「綺麗……」などと呟いてしまった。


「まーた寝てたのか!ピエトル!今朝方言ったばかりだろう!今日は重要人物が来ると!」


「あぁ、忘れてた……なんだっけ、えっとぉ……あ、光をもたらす者……だよね、うん確か……」


欠伸をしながら眠そうな顔であまり興味なさげに言う青年は、一見すると同い年くらいに見える。

初めて、このことにあまり興味なさげな人物に出会った。


「んん〜っ!叔父さん私の眼鏡はどこですー?」


「知るかっ!」


「あー、あったあった」


ピエトルは丸っこいメガネをかけると、とても賢そうなインテリイケメンに様変わりした。

多少寝ぼけているが。



「相変わらず寝坊助なんだなお前」


「あぁ、パヴェルくん久しぶり〜。

違うんだ、言い訳させて。寝不足なんだよ最近」


「お前は年中無休で寝不足男なんだな」


ったく……とパヴェルもミコワイも呆れ顔をしている。


「あ、えっと……はじめまして。

僕がその…、一応例の人間でして……浪曼です。」


微妙な空気に耐えきれなくて、自分から挨拶をすると、イケメン巨人のピエトルは寝ぼけ眼をパッと開いてズカズカと近づいてきた。

目の前で背をかがめ、メガネを両指で摘んでジィ〜っと見つめてくるピエトル。


「……そっかやっぱり!君が私の夢によく出てくる伝説の生物!浪曼くんだね!!!」


「え?」


「実は私の夢は、現実とリンクしているんだ。

君は最近よく私の夢に出てきていたよ」


思いもよらない発言に、しばし思考が停止する。


「そ、それで……夢の中で僕は何を……?」


「それはもちろんっ!」


ピエトルはにっこりと笑ってから、ゆったりとした冷静な口調でこう言った。


「光を、作っていたよ。」


どこか真剣でいて本質を見抜くような不思議な迫力の目に見つめられる。


「浪曼くん。私の見る夢はね、昔から必ず予知夢なんだよ。外れたことはない。100パーセント現実になるんだ。つまり……どういうことかわかるね?」


「はい……」


「君は、光をもたらす者。

そしてこの星を救う者だよ。」



〜〜〜♪♪♪


「おー、俺ぁ昼飯の支度をしてくる」


2度目の音楽、光をもたらす者が流れた。

つまりは昼ということだ。


ミコワイはキッチンへと引っ込んで行った。

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