第49話 伝説の人魚
「まずは今年のコンテスト出場者の入場です!!」
ざっと十数名の色とりどりの人魚たちが可憐に現れた。
「うわぁ…」と、つい感嘆してしまう。
どの人魚も申し分なく美しい。
「おい、いたぞ!あの紫のお下げ髪で尾が薄青いのがバルバラだ!」
「ん?あぁっあれが…へぇ!とても綺麗じゃないか!」
三つ編みをしたどう見ても若い人魚。バルバラは少しオドオドしているように見えるが、整った顔立ちでとても美しいと思った。
「では!去年の優勝者、準優勝者、準準優勝者にご入場いただきましょう!」
たくさんの魚たちに囲まれながら現れたのは……
「まずは準準優勝3位であられたアニャ姫です!!」
久しぶりに見たが、マルチン王の娘であるアニャ姫は、綺麗というよりもどちらかというと可愛いといった雰囲気である。
愛嬌もあるその若々しさで、これはコアなファンの心を掴んで離さないだろうと誰がどう見ても分かる。
そこらじゅうからアニャ姫コールが響き渡っている。
「っあ!パヴェル様ぁ〜っ!♡♡」
さっそくパヴェルを見つけると、満面の笑みで大きく手を振るアニャ。
パヴェルはギョッとした顔で視線を逸らした。
「そしてお次は!惜しくも去年は第2位でした、タマラ嬢!!」
クルクルとダンスをするように現れたのは、カーブしたふわふわの長い金髪を持つ、それはそれはとても色気のある美女だった。
深海のような瞳と、長いまつ毛、ぷっくりと分厚い唇に、どの男もメロメロに落とす転生の魅力の持ち主だった。
「タマラさーーーんっ!♡」
たくさんの歓声の中、一際大きなその声は…
アルトゥルだった。
確かに鉱山の時にタマラのファンと言っていたことを思い出した。
「ねぇマイク…。皆さん申し分ないくらいに美しいのに、3年連続優勝者って一体どんななのさ?」
目の前にいる十数名の人魚たちは、皆本当に美しい。
このレベルの頂点に立つ人魚なんて一体どんななんだろうと、なんだか不安になって隣のマイクに問う。
「テレサは25歳。このコンテスト出場者の中では若い方ではないが、全ての審査点がほぼ満点に近い伝説級の美しさと言われてるぜ」
「そんなの想像できないよっ…」
目が潰れたらどうしようなどと半ば本気で恐怖していると、ついに司会者の声が上がる。
「それではおまたせしました!
ついに我が国の伝説!出場してから3年連続優勝者!テレサ嬢の登場です!!」
まさに言葉を失った。
なんとなく頭の中で、優雅で上品な感じの人魚を想像していた。
しかし現れたのは、全くの予想外な外見。
泡の中から生まれるようにして現れたのは、
白いベリーショートヘアに白い肌、白い尾ひれに薄グリーンの瞳。
真珠のイヤリングとネックレスを付けていて、白い鱗は真珠のようにキラキラと輝いている。
まさに真珠そのものを擬人化したような人魚だった。
神秘的で幻想的……そんな言葉がピッタリだ。
会場は、明らかに先程までの騒がしさとは違った雰囲気となっている。
皆、息を飲み言葉を失っている者が半分、感嘆している者が半分。
「はー。こりゃまたテレサが優勝かっさらっちゃうかな〜」
「な、なんていうか…思っていたのと違ったよ…。なんだろう…人魚というよりも、何か違う生物に感じちゃうというか…か、神?」
そのときだった。
「実は今日!こちらのテレサ嬢から、お話がございます」
「……皆さん、こんにちは。」
突然テレサが発言したのだが、その声すらも歌声のように透き通っていて美しい。
「私は今年から、このコンテストへの出場を辞退いたします。今日はその挨拶のために来ました。」
ざわざわと会場が騒ぎ始める。
「な、な、な、なぜじゃあテレサちゃん!!」
えっ?まさかクルト王?
その声に視線を走らせると、目をうるませて懇願するようにテレサに何かを言っているクルトが見えた。
「わしはテレサちゃんのその可憐なる姿を見、歌声を聞くために生き長らえておるんじゃあ〜」
んな大袈裟な…と浪曼は苦笑いする。
「でも私、もう3度も優勝を頂きましたし、土地の面積も増えましたので、趣味の貝ギャラリーは充分広がりました。これ以上はむしろ厳しいので…」
なるほど。土地の管理も大変ということか?
しかしそれならば報酬だけ辞退してもいいような気もするが、きっとこのテレサという女性は、ただ自分の夢のために出場していただけだったということだろう。
達成したため、もう出る理由がないのである。
「しかし皆さん。私のことは、私の貝ギャラリーのお店に来ていただければいつでも見られますし、購入してくださればたまに歌も歌うかもしれませんよ」
なるほどそうきたか、と、つい笑ってしまった。
つまりは今日はこの場を大いに利用して宣伝するためだったということだ。
外見だけでなく、頭もかなり賢いタイプだ。
「行く行く!今日買いに行くぞぉワシはぁ〜っ!」
「ジジイめ…貝も真珠もいらねぇくせに」
とパヴェルが呆れたように呟いたが、クルト以外もテレサに拍手とエールを送っている。
「ということなので…私は今日、授与式の担当をさせていただきますね」
薄らと妖艶に微笑んだテレサに、会場はまたざわめいたのだった。
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