第4話 太陽
「その……茂光さんには特別な力があったってこと?」
「あぁ。俺はまだ子供だったが、よぉく覚えてるぜ。
茂にはいろんな玩具も作ってもらったし、いろんなことを教えてもらった。
そのどれもが、まるで魔法のようなすごい力だったよ。」
「え!魔法使いだったってこと?」
「いや。茂はそれを……」
パヴェルはポケットから何かを取りだしてこう言った。
「科学の力。そう呼んでいた。」
浪曼は目を見開いた。
パヴェルが取りだしたペンライトが光り、辺り一面に積み上げられた星型たちに反射する。
「茂は、この世で1番大切なものの一つ。
"光" も作り出したんだ。」
きっとそのペンライトも、ここで光っている街灯も、水が流れる川も、電気も……
生活を豊かにするもののほとんどを、この人物が科学の力で作り出したのだろう。
「この惑星には、太陽がないのよ。」
パウリナの言葉に耳を疑う。
「太陽がっ、ない?!」
ならどうやって、植物たちを、木々たちを保っていられるんだ?!
「茂さんが言うには、この惑星の空が原因なんですって。
厳密に言えば、太陽はあっても隠されてしまっていて、出てくることができない角度にあるのがこの星だと言っていたわ。」
なるほど…と浪曼は思った。
ここに来た時から感じていた違和感の1つは、天候だ。
どうにもずっと曇っていて、朝なのか夜なのか、時間が全く掴めない。
「だから茂さんは、科学で太陽を作り出すことに力を入れていた。
それまで私たちは、太陽というものの存在すら知らなかったのよ。」
太陽は隠れてしまっていても、ここの動植物に少しは恩恵を与えられるようだ。
そうじゃないと、この地で生物が生きることは不可能だ。
太陽からの光や熱は、植物が光合成を行い、その他の生物がエネルギーを得るために絶対に必要。
光合成によって生み出される酸素も生物の生存に不可欠だから、太陽がないと生物が生存すること自体ほぼありえないだろう。
特殊な体をしている生物ならば別だが。
「太陽は、とても重要なものなんだ。
太陽がないと、植物は育たないし、僕たち生命体だって必要な細胞が形成されなくて体がおかしくなる。精神的にも安定しなくて……」
「えぇ。だから彼の来る前のエドラは、全く安定していなくてよく争いを繰り返す平和とは程遠い星だったの。
だけど、彼は科学の力で、太陽の代わりとなるものを与えてくれた。」
「え?それって……核融合エネルギー的なものかな?それとも高温プラズマの制御とか…」
浪曼は唇を触りながらブツブツと呟いた。
「いろいろよ。微弱な太陽光でもなんとか使えるような道具や知識を与えてくれたの。
だけど茂さんは最終的に、"科学の太陽" を作ることを1番の目的としていたわ。」
浪曼は目を見開いた。
科学の……太陽だって?!
それは、人類が何百年と研究してきて未だに実現されていない難題である。
人工の太陽を作るというのは、非常に高度な技術的課題であり、現時点では科学的に実現することは困難だ。
自分の父親も、長年それを研究していて、結局成し遂げられないまま去年病に倒れ、亡くなった。
亡くなる直前に、父はこう言い残した。
「浪曼……いつかお前は太陽を作れ。」と。
太陽は非常に高温でプラズマ状態の水素が核融合反応を起こしてエネルギーを放射している星だ。
太陽光で受けられる恩恵は大きいため、大昔から世界中の研究者や機関が核融合エネルギーの実現や、太陽光の模倣に向けて取り組んできた。
実用化までにはさらなる科学的・技術的な進展が必要だと言われ続け、こんにちに至る。
「僕も…研究していたことがある。
僕の父も祖父も、それを研究していたらしいんだ。」
「そうなのか?!浪曼!
ならお前がその研究を引き継いでくれ!」
パヴェルの希望に満ち溢れたグリーンの目が痛いほど突き刺さる。
「もうずっと、茂を継いでくれる奴が現れてない。
茂のもたらした科学という技術は、ある程度はこの星に浸透したよ。そのおかげで今もこうして皆生活ができている。でも、茂のいない今、もともと無知な俺らには限度がある。
お前みたいに、科学に触れてきた研究者が必要だ!
そのためならきっと、お前が人間であってもみんな絶対受け入れる!」
パヴェルは必死だ。
きっと太陽の恩恵をよく理解しているんだろうと思った。
「や……本当に難しいことなんだ。
子供の頃は、僕ならできるんじゃないかとか思っていたことがあった。
でも…気がついたんだよ。
それはもしかしたら……ふ…」
" 不可能という言葉だけは、決して口にするなよ浪曼 "
脳内に、父親の言葉が反芻した。
" 科学者に不可能という言葉は存在しない。いいか、浪曼。不可能を可能にするのが、科学者だ。"
その頃の浪曼は目を輝かせて頷いた。
単純に、それがものすごくカッコ良いことだと思ったからだ。
しかし、成長するにつれ、それの本当の意味を知った。
不可能を認めないということは、諦めることを許さないということだ。
それは一生激しい苦労を覚悟するということであり、誰も試したことのない茨の道を自ら見いだし、死の覚悟を持って突き進むこと。
すなわち、なにがあろうと人類を先導する人間になるという意志である。
「僕は…そんなに強くない…」
浪曼は弱々しく呟いた。
パウリナは悲しげに下を向いてしまった。
しかし、諦めの悪いパヴェルが浪曼の手首を掴んだ。
「お前ならできる!俺にはわかる!」
「どっ、どうしてさ?」
パヴェルは真剣な顔をして浪漫の手を引っ張った。
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