第5話 パヴェルの記憶

パヴェルに連れられて星の丘を登っていくと、少し木々に囲まれたその場所には、大きな看板のようなものがあり、そこにはいびつな絵が描かれていた。


「なに…?これ…」


「エドラヒル星の言い伝えはな……

" ほかの惑星から侵略される。しかし、光をもたらす者が現れ、救世主となる" ……だ。」



その言い伝えとやらの絵は古めかしくてよく見えないが、明らかに人型の誰かが描かれている。

その人物が両手を広げていて、まるで光のようなものを放出しているような描写だ。

周りには7種の種族たちが彼に平伏すように描かれていて、上空にはその光に燃やされる無数の何かがいた。



「この中央の生命体が、エドラヒルで大昔から言い伝えられている伝説、"光をもたらす者"だ。」


পোহৰ কঢ়িয়াই অনা

という文字が描かれていて、それが、光をもたらす者という意味だと教えてくれた。



「何かを祈る度に、皆が星を持ってここに来る。」


パヴェルがそう言ったのに釣られて、浪漫も丘の上から周りを見回した。

やはりこの丘の無数の星の数は、自然と身体を身震いさせる。

それくらい凄い光景だ。



「……でも、どうして星なの?」


「茂は…こう言っていた。」



パヴェルの頭の中に、子供の頃の記憶が反芻した。

好奇心旺盛なパヴェル。赤ん坊の妹に構ってばかりの母親に嫉妬を感じつつ、いつも茂光の元へ行き、彼のやっていることを飽きずに何時間も見つめていた。

パヴェルがするどんな質問にも真剣に答えてくれた。


「はぁっ……また失敗だ。核融合反応が上手くいかない……」


茂光は、唇を触りながら唸っている。


「ねーねー茂ぇ〜、そんなに太陽を作りたいのー?もう何千回も失敗してるんでしょー?」


「失敗は成功のもと!

俺は死んでも諦めないぞ。太陽があれば、できることがたくさんあるんだ。この星の生物全員が救われる。」


「へぇ。たとえばどんなー?」


「電気や水、我々が生きる上で必要なものをなんだって無限に作り出すことが出来る。

動植物の生命維持にはかかせない酸素や水、電気、なんでも作り出せるんだ。

太陽は、生きる源なんだぞ。そしてなにより…」


茂光は道具を置いて、幼いパヴェルの両頬を包み込んだ。


「あったかい」


「……へぇ…すっごいなぁ……。ねぇ太陽って、どんな見た目なの?」


「太陽はな……我々の目から見ると、丸くて神々しい、大きな光の塊に見える。それは…」



パヴェルは思いを馳せるように言った。



「それは、何百万の星を集めたような圧倒的な光を発しているんだ…って。」


浪曼はハッと息を飲んだ。

どこかから風が吹き、近くの木の幹にかけてある星のチェーンの音が鼓膜を揺する。



「茂は、この星に襲撃にきた奴らから民を守るために死んだよ…

俺の父と、一緒に戦った何百もの生物たちと一緒に…。」


パヴェルのグリーンの目は、悲しみと言うより、怒りに燃える炎が揺れているように見えた。


「ねぇ……襲撃に来たのは、どんな生命体たちだったの?」



浪漫の問いに、パヴェルは目を伏せた。

近くにある星に触れながら言った。



「地球って星から来た、人間だよ。」



目を見開いて息を飲む浪漫。


だからこの星の民はみんな、人間を嫌っているのだと納得した。



目の前に広がる無限の星たち。

星々が無限に集まり続けているこの丘は、襲撃で死んだ同胞たちに対する追悼と、いつかの太陽を信じ、たくさんの願いが込められているのだと知った。



「死んだら皆、星になるんだとも言っていたな。」


星は光だ。

死んだら皆、光になって、天から見守ってくれていると。



「奴らが来た時のことを、今でも鮮明に覚えてる…」


幼いパヴェルは怯えて父にすがりついていた。

赤ん坊のパウリナを母が抱きしめながら、目の前に現れた宇宙船のような乗り物から吹き付ける突風に耐えていた。


" 皆と遠くへ避難してくれ!! "


そう言い残して、茂光は行ってしまった。

それを追うように父も行こうとする。


"いやだパパ!行かないで!!"


"大丈夫。茂光と退治して、必ず戻ってくるから "


" ダメーーー!!茂!パパ!やだーー!!"


叫びながら母親に引きづられる。


振り返ったとき、茂光と父に続いて、この星の各種生命体の力を持った者たちが戦いに挑んでいくのを見た。



" 人間様を舐めるなよー?珍獣どもが "


その言葉が聞こえた。


人間には無い力を持つエドラヒルの生命体たちは、人間が思うほど弱くない。

しかし人間も、その高度な頭脳を使った技術や武器を駆使してくるため、双方とも全く怠らず激戦と化した。



パヴェルは、既に息のない父の傍で、虫の息になっている茂光を茫然と見つめた。

幼い心にはあまりにも衝撃的すぎて、思考と感情が追いつかない。


「パ…ヴェル……」


「し…し、げっ……」


「…これをっ……」


茂光が懐からゆっくりと取り出したのは、細いペンだった。

それは、ライトになっているのだと後々知ることになる。


「欲しがってただろ……。世界に…一つだけの、お前にしか使えない玩具…」


「茂っっ!まっ、まさかこれを守って…」


茂光は虚ろな目で薄ら笑ったように見えた。

傷1つついていない。

これを守るために、命を懸けたのか…?


「俺の…わがままなんて…守らなくていいよ!」


パヴェルは泣き叫びながら茂の手を握った。


「まだまだ茂に聞きたいことも習いたいこともあったんだ!まだ一緒に遊びたいんだ!

なんでこんなもののために命張るんだよ!!」


茂の手から、温もりが消えていくのが分かった。


"あったかい"


そう言って触れてくれた茂光の手のひらの感触。


パヴェルの目から、一粒だけの涙が零れた。



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