第29話 異世界の催しとは

「なんだか楽しいな。こんなところでピクニックなんて、僕初めてだよ」


「これってピクニックっていうのか?」


「そうでしょ。地球にいたとき僕はあまりしたことなかったから。いや、こんなワイワイ皆でなんて初めてだな…」


考えてみたら、地球にいた時もあまり誘われたことがなかったな。

常にどこでも最年少でやってきたから、お酒が飲めない年齢だし誘われなかったというのもあるだろう。

もちろん自分が空気読めないKY人間ってやつだからってのも。


「ピクニックが好きなら、そんなんしょっちゅう皆やってっから参加すればいんじゃね」


「おぅ、そうだな。各地域でイベントやら祭りやらなんやらとかこつけて結局皆飲んだり食ったりをやりたいだけだからな」


アルトゥルとパヴェルはもごもごと口を動かしながらそう言った。


「おっ!直近で言やぁ、来週末!ドラゴン国で年に一度のスイーツコンテスト開催すんだぜ!」


「スイーツコンテスト?!」


「各店の新作スイーツの優勝を決めるんだ!審査員は参加する一般民全員!毎年種族問わず、スイーツ好きはみーんなくるんだぜ☆

よかったら浪曼も参加しろよ!楽しいぜ〜っ!」


いかにもスイーツに目がないアルトゥルがやりそうなことだ。

とはいえ浪曼も負けないくらい甘党スイーツ男子。


「行く行く!絶対に行くよっ!」


「はっ。くっだらな。お前らただ甘いもん食いてぇってだけだろ」


「だったら何が悪いんだよパヴェル!お前んとこだってよく、魔法弓矢選手権にぎやかにやってんじゃねぇか」


「魔法弓矢選手権?!」


それは一体どんなものなのだろう?!

たしかにエルフは弓矢を得意としていると聞いたことがある。



「それから巨人国は腕相撲大会とか料理対決とか、ホビット国は鉱石マーケットとかよ〜。

人魚の連中なんてもっとすげぇぜ〜?宝探しやら泳ぎ競走やら」


「わしは去年、人魚美コンテストを見に行ったぞ!去年の美しい人魚NO.1に選ばれたのは、推しのテレサ嬢じゃった!やはりわしの審美眼は凄いんじゃ♡」


「え〜俺も行ったけど、惜しくも2位だったタマラちゃんがやっぱいっちゃん美人だろ〜♡あぁ、最近会ってねぇなぁ……会いに行くか。」


なんだかもう聞いているだけで楽しそうなイベント盛り沢山だ。

人魚ってだけで美しいのに、その中の更なる美を競うなんて一体どんなだろうと想像してしまう。



「お前は3位のアニャ姫推しだよなっ、パヴェル!」


「ちっ、違ぇわ!推しとかねぇわ、くだらねぇ!」


「えー、アニャ姫はお前に見せたくて今年もリベンジするって言ってたのに可哀想〜」


「知るかよっっ!」


あの明らかにパヴェルに惚れてそうなアニャ姫もコンテストに参加していたんだな。

とても綺麗な子だったけど、あれで3位ってことは1位2位って……



「砂漠国では砂滑り競走と、あとカレー祭りあるっすよ☆」


スパイス大国の砂漠ではどうやら様々な種類のカレーが食べられるイベントがあるらしい。



「あ、ちなみに今年もウチは料理対決出場するからアンタら応援来な。去年はミコワイに優勝持ってかれたからね。今年はもーっと気合い入れたメニューを作る予定!」


バーガーを食べながらかなり意気込んでいるドミニカの瞳には本気の炎が見える。

やはりあのミコワイの料理は別格なのだろう。

短時間であんなにたくさんのメニューを作れちゃう巨人だもんな……



「だからアンタも来てよね!浪曼!」

「今年の砂滑りは俺も出場するから応援来てっす!去年は怪我で出れなくて」

「鉱石マーケットにも来なさい。いろんな加工技術が見れて楽しいぞ〜」


いろいろな想像が膨らんでいく。

異世界の催しに参加する日が来るなんて夢にも思わなかった。


「うんもちろん!是非みんなの出場するイベントには参加したいよ」


「おっ、そんならさ、浪曼もうちのスイーツコンテストに出場したらどうだ?」


「えっ?僕が?」


「だってお前、地球人としていろいろ変わったもん作れるだろー?!大盛況間違いなしだ!まぁ俺が食いてぇだけだけど!」


「あぁ!それならうちのカレーコンテストにも是非!地球のカレーなんてみーんな気になってるっすよ!」


「ならウチの料理対決にも出場しなよ。この星にない地球の名物、ウチも気になるもん」


「なんなら浪曼さん、砂滑りも出場するっすか?」


「は?それならこっちの弓矢対決が先だろ」


「待って待って!全部は無理だと思うけど、参加出来るものは是非参加させてもらうよ。」


ということでこの異国の地で、浪曼は今後様々な催しに参加することになった。



「オホンッ。では諸君、そろそろ鉱石の選別を始めるぞ。」


ようやく当初の目的である、フォトニッククリスタルの原石を選別することになった。


ザッと並べられている石たちは、どうやら色別に分けられているようだ。

それらをさらに細かく、鉱石名人のクルトが仕分けている。


「どうじゃ、浪曼」


「……うーん……」


浪曼は水晶だけ見れば良いはずなのだが、いろいろな鉱石を手に取っては戻しを繰り返している。


「ごめんなさい……わかりません。」


「「「え???」」」


「これだけあると逆に分かんなくなりました……。正直どれも使えそうですし……」


コツコツとスプーンで叩いて音の反響を確かめ、手で触って硬さや感触を確かめた。

しかし浪曼は困ったように唸っている。


「浪曼。こういうときは勘なんじゃよ」


「勘……」


「鉱石を扱うにあたってわしらホビットの中で一番大切にしているもの。それは勘じゃ。

勘でビビビっとくるもんがないんなら、どれも違うということなんじゃろう。」


クルトの言葉に呆然としてしまっていると、


「ピンとくるもんがないなら、もういっちょ掘り起こせばいいだろ。」


「そうっすよ。せっかくここまで来たんすから。」


「中途半端で帰るなんてバカバカしいからな」


「今度はもうちょい奥の方行ったらどう」



それは悪いと思ったから言わなかったのだが、止める間もなく全員作業に取り掛かってしまった。


それからまた1時間ほど続けて、疲れが限界になった浪曼は疲労回復の泉を水を飲み、ため息を吐いた。


「はぁ……まずいなぁ…。勘とかピンとくるものとかって、僕にはわかんないんだよなぁ……」


なんならクルトさんに選んでもらった方が……と、泉に映る自分の疲れ顔を見つめる。


「……。え……?!」


そこにはなぜか、幼い頃の自分の顔が映っていた。



「フォトニッククリスタルは、石の性質もそうですが、高度な加工技術が重要なんです。」

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