第12話 砂漠族
次に電車でパヴェルに連れられた場所は、なんと無限に広がる砂漠だった。
「う、海の次は砂漠っっ!!」
地球にある砂漠は宇宙から見たことがあったが、着陸したことは無かったし、いつかその土を直に踏んでみるのが夢だった。
電車を降り、おそるおそる足を踏み入れると、細かい砂の山に靴がめり込む感覚がなんとも心地よかった。
ここに太陽が出ていたら、きっともっと素晴らしい光景なんだろうなぁと、どこまでも広がる砂漠を前に想像をふくらませる。
バサッ!
「うわぁっ?!」
砂の中から顔がぁあっ!!!
「ん?おいおい脅かすなよシモン」
ヌ〜と砂漠の中から姿を現したのは、狐のような耳としっぽを持った少年だった。
「ちっす!女王に言われたんでお迎えにきたっすよ、パヴェル兄貴ぃ!」
「はいはいサンキューね。つーかそれ本当?
お前また勝手に待ち伏せてたんじゃないのか?」
「ち違うっすよ!いくら俺がパヴェル兄貴のファンだからって!そりゃー会えたの嬉しすぎて今にも抱きつきたいの必死に我慢してるのは確かっすけど!」
「ヤメロ。俺に舐めた態度をとるなよこれ以上」
「ひゃぁああ〜っ!相変わらずパヴェル兄貴カッケェ〜」
シモンのシッポがすごい勢いでブンブンと揺れている。
ここで初めて知った。
パヴェルはこんな態度とは裏腹に、老若男女結構モテていることを。
そしてこれから砂漠の女王に会うのだということも。
「とりあえず紹介しとくな。コイツが今日の重要人物の浪曼。」
パヴェルがそう言うと、シモンは耳と尻尾をピン!と張り、鋭い視線で品定めをするように浪曼を見た。
「フン!兄貴に手ぇ出したらただじゃおかないっすからね!」
パシッ!
「ってぇ……!」
「失礼な態度を取るな馬鹿!
こいつのことなんだと思ってんだ!」
パヴェルに頭をひっぱたかれたシモンの耳と尻尾は分かりやすく垂れ下がっている。
「へ?パヴェル兄貴をいやらしい目で見る輩の1人なんじゃねっすか?」
「馬鹿野郎!このお方はな!
地球よりお越しの、光をもたらす者様だぞ!!」
「!!!!」
シモンはこれでもかと言うほど目を見開き、固まってしまった。
浪曼は、またそんな大袈裟な言い方を……ある意味パヴェルって凄いな、本当に根拠ないのにここまでの自信……と思いながら頭を搔く。
「はっははぁぁあ〜〜っ!!!」
「えっ」
突然シモンがその場に土下座しだした。
「たいっへん失礼しましたっす!!も、申し訳ありませんっす!お許しをっ!!なんでも言うこと聞きますのでどうかっ!」
「いっ、いやいややめてよそんなっ…シモンくんっ」
バッと顔を上げたシモンは大きな目をうるうるとさせていて、それを見た瞬間、あれ?と妙な既視感を覚えた。
なんかどっかで見たことある……さっきからこの耳に尻尾にこの瞳……
っは!そうだ!
「フェネック」だ!!
地球だとサハラ砂漠に生息してるイヌ科の動物!
何度も動物園で見てきた可愛すぎるあの……!
「なるほど……!ここは砂漠!
フェネックの進化系的な生命体か……?
かっ、可愛いなぁ……!」
「へっ?かわ…っ?」
浪曼の独り言にポッと顔を赤く染めたシモンは突然照れ照れとしだした。
「やっ、やだなぁ〜!浪曼兄貴〜!
いっくら俺が可愛くたって俺はパヴェル兄貴にしか処女はあげられなっ」
パシッ!
「ってぇ!」
「馬鹿言ってねぇでとっとと行くぞ!早くしろ」
へい~とどこか嬉しそうに目元を下げ、シモンはトントンと裸足の足で砂漠を踏んだ。
よく見ると、その足の形もフェネックさながらだった。
ズババっ!!
砂の中から突然不思議な形のソリのようなものが現れたので、浪曼は目を丸くする。
シモンが運転席に乗り、浪曼とパヴェルが後部座席に乗る形となった。
「よしっ!じゃあ兄貴たち、振り落とされないようにしっかり掴まってくださいねっ!」
ビュンッー!!!
「っ!?!?!?」
なんの合図もなしにスタートしたため、声を出す余裕もなかった。
ものすごいスピードで砂漠上を滑っていく。
運転が荒いなんてもんじゃない。
デタラメにただ面白おかしく滑りまくっているだけなのではないかと思うほどだった。
ちゃんと目的地をめざしているとは信じられない速さで、ただ振り落とされないように必死にソリに捕まった。
たまにシモンと似たような生物たちがソリなしのその足で同じように砂漠上を滑っているのが見えたりしたため、このソリはおそらく砂漠民ではない生物用なのだと理解した。
が……慣れてないこっちの身にもなってほしい。
これじゃ完全に砂漠酔いしてしまう。
案の定、目的のポイントで降ろされた時には吐き気を催し、浪曼は急いで乗り物酔い用の薬を飲んだ。
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