第02話 ふたりでのる
映画の出演者のオーディション。
大作映画ではなかった小規模な映画の出演者のオーディションだった
高校の制服に身を包んだふたりは、狭いエレベーターへ乗り込み、四階ボタンを押す。
最大八人乗りと記載してあるエレベーターは、ふたり乗った時点で、ぎゅうぎゅうだった。そのため、どうしても、ふたりが乗ると、肩が触れ合いそうになる。すると、京一と「強制的に親密な関係の距離感になりつつ、エレベーターで上昇か」と述べた。
七見は無反応だった。沈黙のまま、四階ボタンを押す。すかさず、京一が「後はおれに任せろ」と、いって、閉じるボタンを押す。
ふたりを乗せたエレベーターが上昇する。お互い、何もしゃべらない。
やがて、沈黙のエレベーターが四階へと到着した。扉は整備不良と思しき、あやうさのある動きで開いた。その先に、くすんだ乳白色の壁とフロアがあった。
そこへ二人同時で足を乗り出す。しかし、扉が狭く、ふたり同時に出ると、みごとにつまった。だが、彼らは無言のまま、ぐりぐりと無理やり二人同時にエレベーターを降りた。
その様は、なにか、昆虫の孵化にも似た動きである。
「ここから先はライバルだね」と、七見が穏やかにいった。
京一は通路の先を見据えたまま「それもわるくない」と返す。
通路にはコピー用紙に印刷された『オーディション会場 こちら』と漠然と表記された紙が通路の壁に張ってある。ふたりの視線の先には『株式会社 エダ・プロダクション』と書いた扉があった。
七見はその名を黙ってみつめた。そして、ドアノブに手を伸ばさない。
「入らないのか」
京一が問う。
すると、七見は言った。
「コワいからね」
七見は彼を見返しいった。
そして、視線を外す。
「いや、オーディションはいつだってコワいんだ、京一くん。手が震えるんだ。きみはどう」
「その話は扉の向こうで話そう」
「部屋のなかでする話でもない気がするよ」
そう言い返すも、京一はもうノックしている。
「しつれい、します」
そして、透明感のある声で宣言し、扉をあけて、中へ入る。
「きみが先頭ならいいや」
七見も扉の向こうへ足を踏み入れた。
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